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はとバスと宗教貴婦人と私

『地球アシンメトリー教って知ってる?』 

あ〜、きたか。そういうことか。 

東京観光最終日。 
私は、はとバスに乗った。  

東京駅 丸の内側 南口を抜け左に曲がると、 

テレビで見るあの黄色いバスと、
たくさんの待合室が歩道沿いに並んでいる。

今回私は時間上の都合もあり、 
『靖国参詣と国会議事堂見学』の3時間コースを選んだ。  



旅は道連れ。 
多くの人との出会いも大切にしたいと、私はなるべく人に喋りかけるよう努めている。

隣の席にいたのは、緑のスカーフを巻いた貴婦人だ。私は早速話しかけた。 

『今日も寒いですねぇ』 

『そうねぇ』と返す貴婦人。  

元々喋るのはあまり得意ではない私だが、 
貴婦人の喋りが上手ということもあり、 
出身や観光の目的など、たわいもない話をした。 

そして一つ目の目的地、 
国会議事堂に着く前だったろうか。


『地球アシンメトリー教ってしってる?(偽名)』  

貴婦人は、唐突に私に話し始め、 
名刺サイズのパンフレットと名前、電話番号を書いた紙を渡してきた。 

『あぁ、そうきたか』 

そう。
貴婦人は忠実に、地球アシンメトリー教を信仰している信者だった。 

聞いたこともないような胡散臭い宗教の名前に、私は拒絶を示したが、一度は仲良くなった仲。 

せっかくだからできるだけ宗教の話は避け、 
ただこの場を楽しもう。

そう思い、貴婦人と話を続けた。  

『人間が行なっていることはすべて神にはお見通し。世界は神が全部操っているのよ』 

はぁ。へぇ。ほぇ〜。  
まぁ、言わんとしていることは分からなくもない。 

そう言う考え方の人っているしなぁ。

私も笑顔で『そうなんですね〜』と返す。

その後は国会議事堂の見学、靖国参詣を共にし、色んな話をした。  

宗教の話は殆ど出てこず、私達は楽しい時間を過ごした。  

『私たち、ずっと昔からお互いを知っているかのようね。前世では繋がってたのよきっと。』

え、えぇ 

時々宗教を挟んでくる時はやはり対応に困った。



『最後にあなたのフルネームと連絡先を頂戴ね』


バスの中で何度も唱えられたこの言葉 

絶対に教えるべきではないが、どう断れば良いのだろうか。私はグルグルと考えていた。 


バスは靖国参詣を終え、元の停留所へ戻る。 

停留所に着くなり、解散となる。
皆それぞれ次の目的地へとバラバラに歩みを進める。

私も荷物をまとめて停留所を降りた。  
貴婦人は私より少し前に降り、背中を向けている 

『いや、これはダッシュで反対方向に走るチャンスじゃないか。行け!ダイスケ、行け!』 




楽しい時間を過ごさせてもらった恩もあり、
良心の呵責に苛まれ、 

気づいた時には、私は貴婦人と二人きり。 
待合室で座っていた。  

『地球アシンメトリー教はインスタグラムもやっててね、ほらこの言葉なんかすごくじわっとなるわ』 

『ねぇ、これも見て。これもすごいでしょ。』  

『へぇ、ほー、はいー』 

『あとね、私たちは、、』 

『東京駅戻りません??!!』  

思わず口を挟む私。

『そうね。いきましょう』 

東京駅まで歩く途中も、おばちゃんと話し、 
駅前でも5分程度話した。 

おばちゃんは単純にいい人だった。 
品があり、綺麗な心の持ち主だった。 
だだひとつ、宗教を押し付けてくることを除いては、、、。

だが、純粋な人ほど宗教にハマるのだろうとも感じた。  

そんな彼女の目に濁りは無かった。彼女にとっては地球アシンメトリー教が絶対であり、正義なのだ。 

おばちゃんからもらった、名前と電話番号の書いてある宗教のパンフレットは、東京駅構内のゴミ箱へと葬られたのは言うまでもない。 

そして私が、本名と電話番号を知られぬようどのように切り抜けたかはご想像にお任せするとする。









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