今日もaudible 第12回: The Collector by John Fowles

audible uk の会員ですが、リンクは日本版のaudibleにしました。
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今日もaudible: ところで audible uk って何?

この本は1997年のアメリカ映画『コレクター』の原作ではありません。

また今回は英語表現は取り上げません。


映画『コレクター』(1965年)


小、中学生の頃、テレビではほぼ毎日夜9時から映画が放映されていました。

淀川長治さん、荻昌弘さん、水野春郎さんなどの解説つきです。

映画館などない小さな町に住んでいたので、テレビでしか映画は観られません。

その頃観て強烈に記憶に残った映画のひとつが、ウィリアム・ワイラー監督の『コレクター』でした。

主人公を演じるテレンス・スタンプのあのキモオタぶりは、いったいなんなのでしょう。本当は二枚目なのに。

まあ、当時は名前を知りませんでしたが。

高校生になり、隣町の高校までバスで通学するようになりました。

途中のバス停で乗ってくる中年の男性を、いつしか私は心の中で「コレクター」と呼ぶようになりました。

あの映画のテレンス・スタンプの、どこか死んだような目を思い出してしまう雰囲気をまとっていたのです。

いま思えばそんなに似ているわけでもなかったかもしれません。

そして、おじさまは日々仕事が忙しく、寝ても疲れが取れていなかったのかもしれません。自分もこの年になってわかる気がします。

でも、高校生の女子は残酷です。というか失礼です。

同じバスで通っていた同級生ふたりに映画の話をして、「あのおじさんはコレクターだ」と勝手に認定しました。

その後私達3人は、バスでその男性を見かけるたびに「あ、コレクター!」と確認しあったものでした。

何がそんなにおもしろかったのか。女子高生ってそんなものですよね。

http://www.kinenote.com/main/public/cinema/detail.aspx?cinema_id=3362



白水社『コレクター』


大学生になり、図書館で『コレクター』を見つけました。

心躍りました!

忘れもしない、白水社の翻訳版です。

あんなにずっと気になり続けていた映画の原作に巡り合えたうれしさ。

誰にもこの楽しさはわからないだろうけど、自分はものすごく楽しいという自己満足。

当時読んだ感想はまったく覚えていないのですが、その後自分でも結局白水Uブックス版を購入して読み返したときに、「女性を監禁する人たちは、実際こういう思考回路なのかもしれない」と震えました。新潟少女監禁事件が生々しく記憶にあった頃のことです。


主人公のものすごく身勝手で、自己中心的で、自分に非はないという主張。

こんな人が大金を手にしてはいけません。自分勝手なファンタジーを現実化してしまいます。


ふたたび映画『コレクター』


この記事を書き出すと、また観たい気持ちが抑えられなくなって、DVDを見なおしてしまいました。

もう、なんなんでしょう!

すごく気持ち悪くて、最高です!!(福永法源(法の華三法行)とのやりとりではありません。)

見ているうちに「うおー!」「ひえー!」「こわいー!」となって、顔がゆがみます。

怖いのは暴力ではありません。

手の指先から足のつま先までの動き。

首を傾げて何かを見る様子。

獲物を仕留めに行くときの抜け目ない表情。

両ひざを合わせて階段に腰掛ける姿。

女性の気持ちを考えようとすることは1ミリもなく、ただただ自分の考える女性との距離の詰め方を実践するにあたって、何かの拍子に思わず自分の欲望がほとばしりかけると、ダメだダメだと自分を引き戻すときの葛藤。

どこをとってもしびれるほどに気持ち悪い。

そしてこわい。

俳優というのは、身体の使い方や声の出し方など、すごく訓練されている方々だなと常々思っているのですが、この映画の主人公のテレンス・スタンプも尊敬します。

「そうだよね、この青年はきっとこんな動き方で、きっとこんな苦悶の表情や、恍惚とした表情をするよね。そのどれもが、どこかずれていて、まったく同情を誘わないよね。まさに残念な感じだよね。」と、心の中でテレンス・スタンプに話しかける私がいます。

いまウィキペディアを見たら、この映画でテレンス・スタンプはカンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞していました。

ウィリアム・ワイラー監督と言えば『ローマの休日』ですが、『コレクター』も最高なのです!

淀川長治さんにじっくり解説していただきたいです。合掌。


James Wilby による朗読版 The Collector


そしていよいよ audible の The Collector です。

私が持っているのはジェイムズ・ウィルビー James Wilby による朗読です。

ところが、こちらは2023年6月現在、audible uk でも日本版 audible でも入手できないようです。他の人の朗読ならありますが。

よかった、買っておいて。

購入済みの作品は自分のライブラリーから消えることはありません。

この記事には他の人の朗読を貼っておきます。主人公を男性のナレーター、監禁される女性を女性のナレーターが朗読しているようです。


ジェイムズ・ウィルビーと言えば、日本ではやはり E. M. Forster 原作の映画「モーリス」でしょう。主人公モーリスを演じた俳優です。


ちなみにモーリスの3人組といえば、ヒュー・グラント、ルパート・グレイブス、ジェイムズ・ウィルビーですね。

The Collector の朗読を聴いて、驚きました。いや、本当にすごいのです。

聴いているうちに、映画でテレンス・スタンプのいるはずの位置にジェイムズ・ウィルビーが立って動いているような気がしてきました。

映画のセリフにも生かされているのですが、何度も la-di-da という言葉が出てきます。

「もうこれ以外に la-di-da の言い方はないでしょう」というぐらいに、la-di-da な人々に対する主人公の嫌悪感をのせて表現されています。

そしてもちろん、主人公の身勝手な考え方からくる言い回しの巧みさ。

また、この小説は、主人公が語っている部分と、監禁されている女性が語っている部分に分かれた構成になっていますが、ジェイムズ・ウィルビーは女性側の朗読もすごく上手いのです。まるで舞台を観ている感覚に陥ります。

あー、この人の舞台をイギリスで見てみたい。

というわけで、みなさまにジェイムズ・ウィルビー朗読の The Collector をお勧めしたいのですが、現在は購入できないので、どこかのタイミングで購入可能になった時には、すかさずお試し下さい!


小説端書きの言葉


たしか白水社の翻訳版では「ふたりのほかにはこのことを誰も知らないので」のような言葉があって、本編に入ったはずです。手元に翻訳版がないので、明日以降確認します。

もう、この段階から恐ろしいなと思ったのを覚えています。

手元にある Vintage Classics 版の The Collector では

   que fors aus ne le sot riens nee

とあります。フランス語らしいのですが、Google 翻訳でも DeepL 翻訳でも、私が覚えているような日本語は出てきませんでした。というか、日本語が出てきません。

フランス語は私にとってまったく未知の言葉なので、誰かご存知の方、意味を教えていただけるとありがたいです。

本日はこれで失礼します。

2023.6.6追記


端書きを翻訳版で確認しました。

「ふたりのほかにはだれもそのことを知らなかったので……」

でした。

ジェイムズ・ウィルビー朗読の audible にはこの部分の朗読は入っていませんでした。

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