平安の雅:やまと絵
平安時代の絵画で思い浮かぶといえば絵巻物ではないだろうか。その中でも源氏物語を題材にした「源氏物語絵巻」は絵巻物の精華と言っていいだろう。
晩秋の東京国立博物館にて特別展「やまと絵」(*1)が開催され、平安期の四代絵巻が展示されると聞き、二人は早速出かけることと相成った。
ワイワイがやがや …… ゾロゾロもぞもぞ …… ワクワクいらいら
閉展を二日後に控えた祝日の博物館は人で溢れかえっていた。
クニオ
“鑑賞ベルトコンベヤーに乗るしかないね!”
鑑賞ベルトコンベヤーの速度は数cm/秒速ののろのろ運転、みんなイライラしてるだろうに、我々も含め何故か平然を装っている。
そうこうしているうちに観賞ベルトコンベヤーは「源氏物語絵巻」前に差し掛かかった。
ヨシコ
“夕霧の帖だけはじっくり鑑賞できました!”
クニオ
“詞書(ことばがき)(*2)だっけ 読めないけど「ひらがな」は美しかったね”
ヨシコ
“筆跡は勿論、紙や墨を含めてトータルで鑑賞されるものといった美意識があったのよ”
クニオ
“ほー 読まれることより美しく鑑賞に堪えると云うことか ”
絵巻物の特徴の一つは、詞(ことば)を伴っていていること、この文字と絵画の総合体という形式にあるらしい(*3)、詞書は物語を生き生きと語ると同時に、紙料(*4)と呼ばれる用紙と共に美しさを際立たせる装置ともいえるのだ。
ところで、源氏物語絵巻を代表とするやまと絵の誕生した平安時代は、当時の貴族社会の女性たちの文化的営みの発露である美意識が色濃く反映したという意味で、美術史上稀有な時代と言われている。(*5)
クニオ
“絵巻に映し出される世界は、女性たちにとっても魅力的に映っただろうね”
ヨシコ
“想像力たくましい貴族社会の女性たちの想像力をさらに掻き立てたことは間違いない”
クニオ
“例えば、王朝の色を際立たせた女房装束(襲)は女性の感性の賜物だね”
ヨシコ
“かな文字(*6)の広がりも背景としてあるんだと思うな”
クニオ
“かな文字の普及で最も恩恵を受けたのは貴族社会の女性と言われれているね”
後ろ髪を引かれる思いで東京国立博物館を後にしたが、胸の内には伴大納言絵巻、信貴山縁起絵巻、鳥獣戯画を改めてじっくり見てみたいという思いが広がっていた。
日本伝統美術の一翼を担う「やまと絵」を堪能できた一日だった
合掌!
(*1)特別展 やまと絵-受け継がれる王朝の美 東京国立博物館にて開催
四代絵巻、三大装飾経、神護寺三像などおなじみの作品が一挙に集結
(*2)詞書
絵巻物の絵に添えられる説明文
(*3)日本美術の核心 矢島新 ちくま書房
(*4) 紙料 特別展・やまと絵 記念冊子より
文書や経典等の文字を書くときに使用する紙。
平安時代には和歌や物語にふさわしい優雅で繊細、趣のある紙が求められた。型文様を施した雲母刷りの唐紙、蝶や鳥の下絵や透き藻模様の様々な衣意匠を施した紙料が登場し装飾資料と呼ばれた。
(*5)平安の美(絵画・書・工芸) 泉武夫
(*6)かな文字 日本美術史入門 河野元昭 平凡社
九世紀末に漢字の草書体から生まれた仮名が完成し、そのしなやかな字形が言葉のリズムと直結した優美なちらし書きを生む。
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