見出し画像

小学物語20

チビという名前のポインターだった
白黒の大きなブチ模様で
とにかく体つきがしなやかで
美しい犬だった

それと クロ
なぜか雑種の赤犬(輝く茶色の毛)
毛並みがきれいでなでるとすべすべ

川を流れていく
ヤスを持ったまま

そろーと 
岩の近くに寄る


いた 
鮎だ



ずきんっ
と心臓が跳ねる

静かに 静かに
ヤスの射程に入るまで

息を吸うのを我慢する
射程に入る


ヤスを握っていた手を緩める
張りつめていた強力なゴムが一気に
緩み

ヤスが鮎めがけて水中を突っ走る

鮎はするりと逃げていく

おらは一気に水面にあがる



ぶっはあ

はあ

はあ

やっぱだめか



仲間内では 鮎が突ければ
一人前って言われる

でも鮎は 警戒心が強いし
泳ぐスピードが速く

まず無理だ

うーん 難しい

もうお昼頃だろう
腹が減ってきた

通称 池と呼ばれる
ポイントへ移動する


川の中心から外れた場所で

まん丸な池のようだが

一応 上流から流れ込んで
下流に流れ去っていくから
川なんだろう

ただし 水温は 本当に冷たい
なんか湧き水が所々にあり

ポコポコ泡が出てきている


ここはウグイが多いし
水温が低いからなのか

魚の動きが遅く
取りやすい

さっそくウグイを3匹突いた

火であぶるか

肥後守ではらわたとか取ろうかと
思ったが面倒だ

小さいビニール袋に入れた塩で揉む

大きな石で簡単なかまどをつくる

杉の葉で焚き付けて
その上に小枝をたくさん敷く

風向きが変わって
煙が顔に向かってくる

すぐに息を止める

危ない

また目鼻が痛くなるところだった

火を見る
なんか周りが明るすぎて
炎がみえにくい

良い感じに炭火状態になる

細長い平らな石を
炭火の上に置く

そして
ふーふー空気を送る

トタン屋根の切れ端らしきもので
さらに扇ぐ

石のフライパンというか
炎の中に焼き場ができた

じゅっ じゅっ

ダメだ 火が通らない

やっぱ肥後守で腹を割いて開く

もう一回あぶる

自分で握った
味噌をまぶしたおにぎりを

経木を広げて取り出す
塩焼きと合う

良く噛む
力を蓄えるように
ゆっくりもぐもぐと

川に潜るためには
とても大事なことだ



おらは 鮎にチャレンジする
2m位の底にある大きな石の下に



いた

息を止めて潜る


近づくと場所は移動するが
遠くには逃げない

よしよし

一発目
かわされた

さらに移動

二発目
ギリギリ刺さってる

よし よし!

あれ頭痛い

早く明るい方へ行こう
なかなか上がれない

あれ こんなに明るいんだから
こっちが水面だろう


おかしい






んっ



逆だ



思い出した

すごく天気がよい日は
底の石がキラキラ輝いて見え

水面みたいに見えることがあった



やばい

底に向かってた





ドボン


犬が 潜ってきた

チビとクロだ

やっぱり

そっちが水面だ


おらは夢中で

最後の力を振り絞って

水面に出た

水飲んだ 鼻痛い
頭痛い 


助けてけれ

河原に倒れ込む


チビとクロが一生懸命
おらの首の後ろや肩の辺りを
なめてくれたり 
前足でさすってくれたりする

おしりをさすられた
くすぐってえ

真夏の太陽に照らされた河原の石は熱くて
冷え切ったおらの体はだんだんあったかく
なった

チビとクロがおらの両脇にくっついたので
腕を回して

なんとかしゃがんだ

そして 二匹の首に抱きついて
泣いた

二匹はしっぽをふって
ただ座っていてくれた

ーーーーーーーーーーーーーーーー

慣れたところでも油断は禁物
単独行動は控えよう

娘へ










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?