涙鉛筆

その男"榊”はスパイだった。
彼の任務は大工として敵国に潜入し、ある有力者の家を改築した後で盗聴器を仕掛ける事だった。
生易しい仕事ではない。だが彼には勝算があった。
その理由はスパイ道具"涙鉛筆”だ。
一見、大工がよく耳に掛けている只の鉛筆の様だが、中には水が入っており、芯の先から零れ出る仕組みになっている。それが目尻を伝えば涙に見えるのだ。
「あの方の為に仕事をするのが泣く程嬉しいか」
有力者の部下は感心し、任務は成功するかに思えた……。

「この中にスパイが紛れているようだ。鉛筆削りの刑を覚悟しておけ」
ある日部下は榊達の前で言った。
鉛筆削り刑、それは男スパイの✕✕✕を鉛筆に見立て、削り尽くすという凄惨な刑だ。
榊は涙で誠実さを表そうとした。が、鉛筆を削り過ぎていた。
「あれ、どしたの? 榊君だけコメカミから汗出てるよ。わかった動揺してんだ! 君がスパイかあ! ハハハハハハッ…………………削れ」 

それから榊は本当に泣いた。







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