サニー・スポット 第26回
高藤も、毅然とした態度を崩さずに、特別臨時支店会議議長の辺見のことばに、淡々と対応した。
「ありがとうございます。そのとおりに進めていただいて結構です。どうか、よろしくお願いいたします。では、これで失礼します」
そう言って小会議室を出ていく高藤の後ろ姿を見ながら、辺見は何かことばをかけるべきかどうか躊躇していた。人生はまだまだこれからだ、やり直しはいくらでもできる。前を見て進んでほしい。そんなことばが浮かんだ。
しかし、すぐに彼は考え直した。いや、これは、毅然とした態度であくまで事務的に対処するべきだ。私情を挟んで何らかの予期せぬ状況を招くようなことがあってはならない。瑕疵などと批判されるようなことが、二度とあってはならない。この事案は一応の解決が見えてきただけで、完了はしていない。被害者と加害者の双方が、心の傷を癒やし、かつての日常に近い生活を取り戻すまでは、注意深く見守る必要がある。それまでは、あらゆる付随する案件を、堅実に処理しなければいけない。辺見はそう自分に言い聞かせて、ただ黙って高藤を見送った。
辺見が、黙してあの日のことをつぶさに振り返っているあいだ、高藤の妻杏子はその邪魔をしないように気遣ってでもいたのか、落ち着いた様子で伏し目勝ちに窓の外や室内に目を向けていた。
その杏子に向かって辺見は再び語りかけた。
「たしかに私は高藤君を憎んではいなかったのかも知れません。ただ私はあの時、彼に最終的な通告をした時、それ以上のことはあえて何も言わなかった。私には何も言うまいという意思がありました。それは私の意思です。不作為の作為っていうんでしょうか。考えられる励ましや慰めのことばを、私はあえて飲み込みました。そのひと言を発していれば防げたかも知れない事態が起こるなどとは、想像だにしませんでした。