見出し画像

羽生結弦選手単独東京ドーム公演「GIFT」感想⑤【阿修羅ちゃん~オペラ座】



MIKIKO先生ワールド


急にテクノポップみたいな曲が流れだしました。

下から上へ突き抜けるレーザービームが無数に出現して、一気に近未来的なステージへと変化した時に、私は真っ先に
「あ、perfumeがくる」
と思いました。

正しくは
「perfumeみのあるMIKIKO先生の演出がくる」
です。

白い無機質そうな衣装に身を包んだダンサー達が現れて、ロボットダンスみたいな踊りをしていました。

正面のスクリーンにはいくつかのテレビみたいな画像が。

そこへまた羽生選手のナレーションが紡がれていきます。

「楽しい。楽しい!」
子どものようにはしゃいだ声を出していたかと思えば、
「楽しい…楽しいよね?楽しくない訳なんかない」
自分に言い聞かせるように呟き、
「楽しいでしょ?ねぇ、楽しいでしょ?」
今度は自嘲しているような口調で。

声音を変えてナレーションする羽生選手。

出た!声優・羽生結弦!

現地で聴いて鳥肌が立ちました。
うますぎる。ホントにまだプロになって1年も満たないスケーターなのだろうか?いや、そういう私の凝り固まった概念からは逸脱しているお人なのだと分かっていたつもりだったけど、いちいち驚いてしまいます。

流れ続けるポップな曲とは対照的に、
テレビ画面に大きく映し出される「ERROR]の文字。
その赤い文字と羽生選手の声音に、何やら不穏なものを感じます。

「できなきゃ意味がないでしょ」
「できないのなら存在する意味がないんだ。必要…ないんだ」

セリフの行間、間の取り方が絶妙…。

「やってるんだよ。いつも、自分のこと、超えてるんだよ!」

声優・羽生結弦が、振り絞るように独白していきます。

それに呼応するように、ダンサーがいるミニステージに赤字のカタカナで
「ヤラナキャ デキルマデヤラナキャ」
と流れていました。
昔のパソコンやゲームで流れたようなピコピコ音が聴こえてきます。

どこか古臭さを感じるピコピコ音。
近未来的なポップな曲。
カタカナで流れるメッセージ。(半角カタカナなところにこだわりを感じる)

このあたりが、MIKIKO先生らしい演出なのかなぁと思って見ていました。

時代の最先端と、懐かしさ。
日本のカルチャーを感じつつ、
背後に流れる、負の感情を生生しく語り続ける羽生選手の声。

全てが違う方向を向いているのに、どうしてかたまらない魅力を感じる不思議。
この混沌とした世界観の中、物語の主人公はこれからどうなっていくんだろうというハラハラとした気持ちで、ステージを見ていました。

「こんな僕の事、誰が分かる?
一生分からない。
分からない!」

と、ここでその羽生選手の叫びに返すように、

「あんた、分かっちゃいな~い!!!」
と力強いボーカルの歌声が流れました。

阿修羅ちゃん

Adoの「阿修羅ちゃん」でした。

真っ赤なシャツに青いネクタイの羽生選手が出てきて、
その時点で私たちはもう「キャー!!!」です。

条件反射的に声が出ましたね。
なにせビジュアルが良い。
赤シャツを羽生結弦に選んだ人に拍手喝采をGIFTしたいです。

今までどんなに羽生選手がかっこよくても、マスクの下で小さく息を飲むことくらいしかできずに我慢してきたのですから、
声出し解禁されたとあっては本能のまま叫ぶだけです。
(もちろん周りには十分配慮したボリュームですよ…)

ダンサー、羽生結弦

「阿修羅ちゃん」にのせて激しいダンスを繰り広げる羽生選手。

そこにはダンサー・羽生結弦がいました。
私は遠くから見ているのに、動きひとつひとつがちゃんと分かったし、特に足のステップが氷の上とは思えない動きをしていました。

あんなにツルツル滑る氷上で、周りにいるダンサーさん達と同じように踊っていられるなんて。

羽生選手が大勢のダンサー達を従えてのシンクロダンスは圧巻でした。
ビシッとそろっているところを見るのは爽快です。
まるで羽生選手のピッタリ音ハメされた4回転ジャンプを見ている時みたいに。

主役もダンサーも曲も照明も映像もみんな全力で観客にぶつかってきていました。
そんな情報過多なステージに頭がクラクラするようでした。

その時だけは、マスクがあって良かったと思いました。
マスクのおかげで、驚きと共にすっかり見惚れてあんぐりと口を開けている私に誰も気が付かないでしょうから…。

途中氷上で倒れこみ踊る場面がありますが、
ここでも歓声がおこっていたと思います。

FaOI2022で披露された「レゾン」で、氷上に倒れてもがくように踊る羽生選手にみんな夢中でしたから、もう我々の好みは熟知されてるのかなと思いました(笑)
きっと「阿修羅ちゃん」の振り付けはMIKIKO先生なのかなと思います。
きちんと観客のニーズに応えてくださるところが人気振付師たる所以なのでしょうね。違うかな?笑
(※後日「阿修羅ちゃん」の振付は羽生選手のセルフコレオだと判明しました)

プロローグのChangeを見た時も思ったのですが、羽生選手のダンスは見る度に進化していっていると思います。
「阿修羅ちゃん」はダンス中心のプログラムだけれど、ちゃんとスケートの良いところを取り入れていました。
最終パートはスケートのステップで魅せていました。
氷の上を滑りながらのフィニッシュはスケートならではなのかなと。

本当に面白いですよね。
陸上ではできない動きをダンスに生かすことができるのですから、可能性は無限大です。
色んなアイディアが生まれていきそうですよね。
それもまた羽生選手のたくさんある強みの中のひとつなんだと思います。

ハイドロブレーディングやビールマンスピンなど、スケートの技のみならず、
氷上でしかできないダンスという強み。
唯一無二の「羽生結弦」を形作るピースの中のひとつ。

まるでMV


しばらく映像が続きます。
白い世界にいる「ぼく」と、黒い世界にいる「僕」との対話。

音楽と映像がとにかくスタイリッシュ。
一流の映像作家さんが羽生選手を撮るとこうなるのかと、感心してしまいました。
今までこんな羽生選手を見たことがない。
こんな撮られ方しているのは見たことがない。

今までスポーツカメラマン達が撮った写真は何百枚と見てきましたが、それとは全然違っていました。

例えるなら、アーティストのMVみたいな…。
試合中の刹那を切り取るものではなく、多分最初からコンセプトがあって、カメラマンや演出の方には目指すゴールが明確に見えている状態で、どう被写体を生かすかが入念に練られた状態で撮っている。

滑っている最中の写真というのは一期一会であって、何が写るか分からない面白みがあると思いますが、このMV風の映像にも羽生選手のポテンシャルの高さがよく表れていて魅力的です。

黒いコートを着てただ歩く姿に目を奪われていたら、お次は画面いっぱいに大人数の羽生選手が登場して、顔のアップが出たり足元だけ映ったり色んな仕草をしたりするので、それがいちいちかっこいいがために、頭の中が処理しきれず煙が出そうでした。

何回も書きますけど、
あんな羽生選手を見たのは初めてです。

そしてごめんなさい、
映像の羽生選手があんまり素敵だったせいで、

正直、現地では
あんまり話の内容が頭に入ってこなかったことを告白します…。

巨大な手の正体

場面が変わって、顔半分に仮面をつけた羽生選手がスクリーンに大写しされました。

あっ!あれはオペラ座の怪人の仮面!

ということはマスカレイドかオペラ座の怪人?どっちだろう?

と思っていたら、オーケストラで「オペラ座の怪人」が演奏され始めました。

ここで、あの青と白と黒を基調とした「オペラ座の怪人」の衣装を着た羽生選手が登場します。
大歓声と拍手がおこりました。
羽生選手のプログラム、「オペラ座の怪人」は、なかなか再演される機会がなかったため、ファンとしても大歓喜でした。

正面スクリーンに巨大なシャンデリアが映り、グラグラと横揺れした後、リンクの下に落ちるという「オペラ座」の物語の中の象徴的なシーンが流れました。
これも、舞台の奥行きと高さを生かした素晴らしい演出でした。
割れたシャンデリアがリンク四方八方に飛び散る様子まで表現されていました。

曲の盛り上がりと共に、スクリーンに映った羽生選手の身体からたくさんの光のようなものが両脇に伸びていって、スクリーン横の巨大な手に繋がりました。

開演前に、一体あれは何だろう?と思っていた手のオブジェが、ここで使われていました。

「おぉ~!」
と歓声と拍手が起こります。
そう来たか!という雰囲気。
まるで羽生選手扮する怪人が、リンクを飲み込まんとばかりに手を広げているように見えたのです。

オペラ座の怪人

本人による「オペラ座の怪人」の演技が始まりました。

先程も少し書きましたが、あまり再演されてこなかったプログラムなので感慨もひとしおというか。
生きているうちにこの目で見ることができるなんて、と感動していました。

このプログラムは、2014年中国杯で他の選手と追突して大けがを負った、いわばロンカプと同じように因縁のあるプログラムですので、今まであまり羽生選手も好んで再演してこなかったのかもしれないと思います。
でも、そういった思い出したくもないような過去があるプログラムでも、ここドームで滑ろうと思ってくれた。
勇気があるなぁと思います。

手でマスクをはぎ取るような振りがとても好きです。
なんとも言えない色気がある瞬間なんですよね。

ここまでで8曲も滑ってきていてさすがに体力が消耗していたと思うので、多少ジャンプのミスはあったようですが、
28歳の「オペラ座」は本当に素敵でした。

周りの背景もすごく良かったです。
ロウソクで明かりがユラユラ揺れている映像、リンクを取り囲む本物の炎。
オペラ座の世界観そのままの中滑る羽生選手の演技は妖艶で、片時も見逃せないものでした。


続きます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?