まじめな奴が国を滅ぼす -間違いだらけの経済常識- [3]消費税5つのウソ(第3回)

国や世の中のことを良くしようと考えている人のほとんどが、日本を滅ぼすことに加担している。なぜなら彼ら・彼女らの経済に対する考え方が、致命的に間違っているからだ。そんな悲劇的な状況を少しでも変えるべく、この連載を始めた。まずは「社会保障の財源」として国民が納めている消費税が、いかに我が国をダメにしているか、いかにウソだらけの税金か、からスタートしよう。

今回はその第3回である。

5. ④消費税は「ヨーロッパではもっと税率が高いから、まだまだ上げられる」というウソ

-日本の消費税率は低すぎる?

主な国の消費税率(日本以外では付加価値税率)を比べてみると、日本が10%(飲食料品、新聞は8%)であるのに対して、ヨーロッパ諸国は20%前後である。これが消費税率をもっと上げるべき、まだまだ上げられるという根拠の一つとなっている。消費税増税論者は、アメリカの消費税率が0%であることには触れようとしないが。

【消費税(付加価値税)の標準税率 (2023 年 1 月現在)】(国税庁ホームページ)

しかし、これははなはだ乱暴な議論である。消費税が税収(国税+地方税)に占める割合は、ヨーロッパ諸国に比べ特に低いわけではなく、

例えばスウェーデンともそれほど差はない。

【税収構成比(国税+地方税・2020年)】(財務省ホームページより作成)

-軽減税率の多いヨーロッパの付加価値税

【各国の軽減税率の比較 (2023 年 1 月現在)】(財務省ホームページより作成)

なぜかといえば、ヨーロッパ諸国は軽減税率が多いからだ。表にまとめた通り、所得の低い人のことを考えて、生活必需品を中心にゼロ税率、あるいは軽減税率を取っている。

日本では2019年10月に消費税率を8%から10%に上げた時に、酒類・外食を除く飲食料品と新聞は8%に据え置いたが、それだけである。一方、スウェーデン、イギリス、フランス、ドイツを見ると、国による違いはあるが、食料品に加え、水道水、医薬品、交通費、宿泊費などに軽減税率が適用されている。前回見た消費税(付加価値税)の持つ「逆進性」(所得の低い人ほど負担率が高くなること)を軽減しているわけだ。

また、新聞、雑誌、書籍、スポーツ観戦が軽減税率の対象になっている国も多い。日本ではなぜか新聞だけ税率が低いが、ニュースや知識を得るための負担を減らすことが理由ならば、ヨーロッパと同様、雑誌や書籍にも軽減税率を適用すべきだろう。消費税増税を主張している新聞社もあるが、それならまずは新聞への軽減税率撤廃を求めてはどうか。

-税率が高い分、教育支出の多いヨーロッパ諸国

ヨーロッパの付加価値税率は高いというが、その分国民が受ける恩恵も大きい。教育を例にとってみよう。

OECD(経済協力開発機構)加盟国は38カ国あるが、このうちヨーロッパを中心に17カ国の大学は授業料がタダである。それに対して、日本では50%の大学生が奨学金を受給しており(日本学生支援機構「令和2年度 学生生活調査」)、この20年でその割合は約2倍になっているのが現状だ。

【教育機関への財政支出の対GDP比 (全教育段階・2020 年)】 (OECD iLibraryより作成)

教育機関への財政支出の対GDP比(全教育段階)は4.1%で、38カ国中の下から2番目(スイス、コスタリカはデータなし)。付加価値税率の高いヨーロッパ諸国に比べて低い水準に留まっている。

また、高等教育への私費負担はほとんどのヨーロッパの国が30%以下なのに対して(国名を青い四角で囲んである国は、大学の授業料がタダの国)、日本は60%を超えており、3番目に多い(スイス、ギリシャはデータなし)。一体、消費税は何に使われているのだろうか?

【教育機関への教育支出の公私負担割合 (高等教育・2020 年)】 (OECD iLibraryより作成)

-北欧型(高負担・高福祉)を目指すか、英語圏型(低負担・低福祉)を目指すか

ヨーロッパの付加価値税率は高いが、その分国民が受ける恩恵は大きいことを、教育を例に説明した。この点をより広げて考えると、日本は北欧型を目指すべきか、英語圏型を目指すべきかという議論に行き着く。

北欧型とは国民の負担率は高いが、その分福祉が充実している国であり、一方英語圏型とは国民の負担率は低いが、その分福祉の程度も抑えられている国である。OECD加盟国について、国民負担率(対GDP比)と社会保障支出(対GDP比)を比較すると、国民負担率が高いほど社会保障支出も高いという関係がほぼ成り立っているのがわかると思う。

注1:世の中で国民負担率と言った場合、通常国民所得に占める税・社会保障負担の率を指す。2019年の日本の国民負担率は44.1%であるが、図表のGDP比では31.9%となっている。

注2:アメリカの社会保障支出(対GDP比)が高いと思った人がいると思う。これは、医療保険改革により社会保障支出が増えたためである(2014年で見ると、国民負担率はほぼ変わっていないが、社会保障支出は17%程度だった)。ここでは北欧型に対して、英語圏型と表現したが、英国やカナダ(や以前のアメリカ)が該当する。


【国民負担率・社会保障支出(対GDP比)の各国比較(2019年)】 (OECD iLibraryより作成)

日本は全体の中では中負担中福祉であると言えそうだが、ヨーロッパ諸国と比べれば低負担低福祉のポジションにある。北欧型を選ぶか、英語圏型を選ぶかは国民で議論をしていけばいいことではあるが、北欧のような高負担・高福祉を目指して消費税をもっと上げようと主張するのは大間違いだ。仮に税収を増やすにしても、消費税率を上げる方法は最悪の選択であるというのが、この連載の主張である。

そもそも消費税は現在社会保障のために使われているわけではないし、所得の少ない人ほど負担が重くなる不公平な税であるし、経済に致命的なダメージを与える(その結果、かえって税収は下がる)。北欧型を持ち上げて消費税増税を主張する論者は、こうした点への解決策を明確に述べるべきである。さらに、消費税には最も巧妙で悪質なウソが隠されている。それが、次回のテーマである。(つづく)

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