八月の赤い月 4

「うえーん。ちなつのがあー。」
はっと我に返ると、千夏ちゃんが泣いている。
そばには、くしゃくしゃになったチューリップの折り紙。
「どうしたと?千夏ちゃん。」
「せんせえ。たっくんが。たっくんが。わあーん。」
「ちなつのちゅうりっぷとったと。かえしてっていったとに。かえしてくれんやった。」

女の子みたいに真っ白なすべすべの肌で、くりくりした目のたっくんは、どこか所在なさげに千夏のそばに立っていた。

「たっくん、どうしたん?千夏ちゃんのチューリップ。くしゃくしゃだよ。」
「チューリップみたかった。」

ぼそっとそれだけ言ったたっくんは、わんわん泣く千夏をじっと見つめていた。
たっくんは、千夏が好きなのだ。だから、どうしても千夏のそばに来て、千夏のものを触ったり取り上げたりする。
 無意識にひょいと取り上げるものだから、そのことでよく千夏とけんかになる。千夏は、たっくんの気持ちに全く気付いていない。
 まあ、5歳だから、しかたないよねえ。みどりは、ふうっと息を吐いて、たっくんに言った。

「たっくん、千夏ちゃんの大事なチューリップくしゃくしゃにしちゃったんでしょう。わざとじゃないかもしれないけど、あやまろっか。」
こくんと頭を垂れたたっくん。

「ごめんなさい。」
「千夏ちゃんは?またされたらいやだよね。何ていう?」
「いいよ。もうせんで。」
「うん。」
「じゃあ、なかなおりね。」

みどりは、二人の手を合わせていつものおまじないをした。
「たっくんと千夏ちゃんはなかなおり。おーわった。」
みんなの手と手を合わせて大きく振り上げた。

「これで二人はなかなおりだよ。」
こくこくと二人はうなずいた。次の瞬間に、あふれる笑顔がわいてきた。
「たっくん、あっちいってあそぼっ。」
「うん!」

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