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雨宿りのクロ 6

ボクが「こがねや」に拾われてから、
もうずいぶんと日にちが経ったな。

さすがに今は人見知りはなくなってきたよ。
撫でられたりする事は、
よほどボクの機嫌が悪くなければ誰にでも
触らせてあげてたし、
逆に気分が乗った時や気に入ったお客さんなら自ら進んで膝に乗っかったりしてた。

そうそう、ボクの品種の事なんだけど、
当然自分では分らないからね。
小さかった頃は京子おばちゃんも
洋子ちゃんも分かってなくて、二人して

「雑種だと思うけど、なんだろうねぇ?」

なんて言ってたけど、
段々とボクの毛が長くなってくるのを見て
洋子ちゃんが調べたらしいんだ。

「お母ちゃん、クロってペルシャ猫の血が
入ってるかも!この毛並みは絶対そうよ!
それに見て、見て!この足!
つま先だけ白い毛なのよ」

「おや?ほんとだねぇ。まるで靴下を
履いているようだね!かわいいねぇ〜!」

そんなふうに可愛がられたけど、たまには
" 毛が抜けて大変!" とか
" ブラッシングが面倒!" だとか
笑いながら皮肉も言われたなwww

マー兄さんにはご飯の他に

「クロほら、おやつ。
母ちゃんには内緒だかんな!」

そう言って出汁を採ったあとの煮干しや
鰹節のかけらをくれたりした。
たまにヒロ兄さんが帰ってきた時は
二人して酔っ払い、気が大きくなったのか

「お〜クロ、食べろ食べろ!」

ってウナギや鴨肉を出してくれたよ!
ヒロ兄さんなんかは

「カモ肉食べろよ、カモノ、ベイビー!」

なんて超ゴキゲンだったな。
今思えば食べて良かったのかな?

ボクは環境や周りの状況とかが分かって
きたせいなのか、ちょっとした好奇心が
芽生えて来て、お店の外の世界を知ってみたいと思うようになったんだ。

お店には昔ながらの対面式でタバコを
販売するカウンターがあって、一日の内、
数時間はそこで過ごすことが多くなって
外を行き交う人や車や商店街を眺めてた。

一日の内、何度かこっちを見ている猫が
いる事に気付いたんだ。

最初は " 変なの " 位にしか思わなかったけど、何日も続くと少し気味が悪くて…。
でもそれよりも外の世界に行きたくてさ。

ある日、帰るお客さんが扉を開けたと同時に
飛び出してみたんだ。

こんなにも空って高いんだ!

こんなにも空って青いんだ!

外の世界って広いんだな!

見るもの全てが新しく新鮮だったボクは
嬉しくなって思うがままに街を散策して
みようとブラブラしてみた。

たまにどこかの飼い犬に吠えられたり、
野良猫の縄張りにうっかり入っちゃって
ボス猫に脅されたり…。

そうしてしょげてる所に一匹の茶色い猫が
慰めにきてくれたんだ。

「あなたこの辺りじゃ見かけない顔ね、
どこから来たの?」

「こがねやっていうお蕎麦屋さんだけど…」

「こがねや!あのXX商店街の?
よくあの大通りを渡って来られたわね?」

「ちょっと待ってくれよ。君は一体……?」

「ごめんね、自己紹介遅れて。私、きなこ」

「きなこ?あぁ茶色いからか。ボクも君の事を笑えないな。ボクはクロ!そのまんま」

「プッ!」

こうしてボクに初めての友達(?)が出来た。

きなこは野良猫ではなかったんだ。
一人暮らしのおばあちゃんの所でちゃんと
飼われてるんだって。
だからきなこに " ウチにおいで " って一緒に
行った時、おばあちゃんが

「おやおや、きなこのボーイフレンドかい?
いい顔してるじゃないか!名前はなんて…
ああ足袋を履いているようだから " タビ " 」

" いやいや、クロなんすけど… " 

きなことの毎日が楽しく気が付くと一週間が
過ぎてしまっていた。
その間、京子おばちゃん達は大騒ぎだった。
今まで外になんて出た事のないボクが自ら
出て行って、一週間も戻って来ないとなると
それは当たり前だよね。

「どうしよう?ちゃんとご飯食べてるかな?
車とかに跳ねられてないよね?洋ちゃん?」

「そんなの私に分かるわけないでしょ!
あの子の事だから大丈夫だと思うんだけど、
実際どうすれば……」

「ああいう迷い猫や路上で跳ねられた猫の
撤去は保健所だろ?俺の知り合いで保健所に
勤めてるヤツがいるから早速聞いて見るよ」

そんな大騒ぎもつゆ知らず、
無事に帰って来た時は思い切り怒られるもの
だろうと思っていたんだ。

でも三人共、何も言わずに、何も聞かずに、
ただただボクを抱きしめてくれた。

皆んな涙を流しながら…。

京子おばちゃんは

「クロも大人なんだから外にも行きたい
だろうし、彼女の一人や二人くらい
欲しいだろうからね!」

と鋭い所に斬り込んでくる!

ここの人達は本気でボクの事を家族の
様に接してくれる。
ならばボクもその期待に応えるべく
「こがねやのクロ」になろうと思う。

そしてきなこにこの人達を会わせたい。

改めて
「こがねや」が大好きになったボクだった。

※一週間のうち二日間は車が怖くて、
大通りを横断する事が出来なかったんだ。
恥ずかしいから誰にも喋ってないんだ。
                                                                      つづく
















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