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淵一助っ人クラブ(仮)第二話

「一体どういう事なんだい?詳しく説明して
くれないか?てか、何か妙案があるんだったら
お願いだ、助けてくれ!頼む!」
戸田と嶋田は五十嵐に詰め寄らんばかりの
勢いである。
本来の担当者であるナベさんこと金物屋の
渡辺がうっかりして、手配する事を忘れたのが
発端で、戸田・嶋田の両名が
「もう世代交代だ!年寄りたちは隠居して、
心配せずオイラ達に任せな!」
と、まぁ大見得を切ったらしい。
「元々落語の予定だったんでしょ?
じゃあそのまま落語で行きましょう!
一人心当たりがあるんですが、ヤツの実力、
持ちネタとか何も知らないんですよ。
とにかく一度会って話してみます」
「おぉ、ともかく頼む!頼みます!」
「分かりました」
「これで一安心だな!まだ戻るには早いから……
ちょっと…行くかァ?」
戸田は右手を捻る動作をした。
「おっ、いいですね〜。駅前のパチ屋、海物語
の新台が入ったみたいですよ。兄ちゃん、
詳しい話はまた来た時な!」
そう言ってアイスコーヒーをイッキ飲みして
二人は店をあとにした。

「良いのかい亮ちゃん。 安請け合いしたんじゃないのかい?」
カウンターの中からマスターでもある古田達也が声を掛けてきた。
そう、お気付きの通り、レジェンド捕手である
古田敦也選手と一文字違い!
キャッチャーミットをフレーミングすれば、
審判も間違えるほどの近い名前!
かくいう五十嵐も下の名前は
" 亮太朗 " と言って、五十嵐亮太投手に
同姓同名かと思わせて最後に一文字多く
コケさせる。
得意の緩急つけたナックルカーブみたいな…。

しかし最近のメジャーリーグで流行っている
" フレーミング " ありゃヒドいね!
低目の球ならまだしも、ワンバウンドを
ど真ん中までミットを動かすんだもの!
アンパイアはキチンと見ろって!

閑話休題
「たぶん大丈夫だとは思うんですが、実際に
そいつとはそんなに仲が良いわけじゃない。
てか、話した事ないんです。
ただカバンに……ほら、何て言うんです?
お寺さんとかにある御札の文字の……」
「千社札かい?落語は寄席文字とか」
「そう、それです!その千社札っぽいのが
カバンに貼ってあったんです。
あと机の中に " 立川談志全集 " のCDが」
「へぇ〜。今どきCDねえ」
マスターの古田が目を丸くしている。
「とにかく彼は落語が好きなはずです。
授業中だって右向いたり、左向いたり……。
最初はブツブツ言ってて気味が悪くて怖かった
けれど、よく聞いたらどうも落語みたいで…」
「間違いない!そいつは中学時代に桂文楽に
褒められた春風亭小朝の再来だわ!」
「いけそうですかね?さっそく明日にでも声を
かけてみます。そういえば、マスターは組合員じゃないんですか?」
「ごもっともな質問。あそこはねェ、2~3代目が多いんだわ!ウチは比較的新しいから、初めに仲間外れみたいな感じになってさ。
で、まんま未入会」
当時、何があったのか知らないけど、
マスターの顔を見たら想像がつきそう。
「でも何で引き受けたんだい?」
「良く分かんないです。ただ直感……」

これがクラブの夜明けになるとは誰も知らない
日曜日の午後の事。
                                                                      つづく


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