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ポストメルヘン

世界のメルヘンや日本の昔話は、一体どれだけあるのでしょう。いつ読んだり聞いたりしたのか覚えていませんが、心の奥にしっかり刻まれています。しかし、ここでは「ポストメルヘン」として、元々のメルヘンのセカンドストーリーを創作してみました。元ネタを前提にしているという意味では、それを知っている大人たち向けと言えるかもしれません。イソップさんや、アンデルセンさんへのリスペクトはそのままに、新たな世界が拓けないものでしょうか。

① 月と太陽

「北風と太陽」で、太陽は北風との勝負において、みごとに旅人の洋服を脱がすことに成功したのでした。

そのようすを見ていたお月様は、太陽にこう言いました。

「太陽さん、いつまで旅人の服を脱がせられ続けるのですか?昼の次には夜が来ますよ。
私が夜を連れてくれば、気温が下がって、旅人は洋服を着なければならないでしょう」

すると、太陽は
「お月さん、だから君が来なければいいのさ。夜を連れて来ないでよ」
お月さまは
「何を言ってるんですか。私にどうこうできることではないでしょう。日々の移ろいゆく変化ってものがありますよ。この宇宙の営みは神のみぞ知るでしょう」

太陽はしぶしぶと
「そうかい、ぼくは退散するしかないのかい。お月さん、勝利は一時的なものだったようだね」

旅人は、周囲がしだいに暗くなるとともに、
気温が下がり、一度脱いだ服を身につけ始めるのでした。

そうして、太陽の出番は去り、お月さまが、地上と空じゅうを、夜でおおっていくのでした。
でも、お月さまはこの夜の支配も、また明日になれば太陽の世界になることを承知していました。

② きつねとツル

きつねは意地悪を思いつき、ツルに一緒にスープを食べようと持ちかけ、口ばしの長いツルにお皿でスープを出しました。ツルはとてもこまってしまいました。

そんな目にあったツルでしたが、翌日、そのお返しに自分の家にキツネを招きました。自分用の細長い壺に入れたスープを差し出すのでした。

キツネは、どうやってなめればいいのか、いい匂いに誘惑されながら、おなかの虫をグーグーさせるばかりでした。

やがてツルは何か思いついたように、自分のスープをのみ終えると、おかわりの時一枚お皿を持ってきてキツネにあげました。そして、細長い壺からお皿にスープを移しました。キツネはおいしそうにペロペロなめはじめるのでした。

「キツネさん、味はどうですか?」
「うん、おいしい!」とキツネは喜んでいます。
ツルは
「おかわり、いかが」と言うのでした。
すると
「ツルさん、ありがとう。あなたは、なんてやさしいのだろう。いじわるをした、ボクが悪かったよ」
キツネは、しきりに頭をかくのでした。
一方ツルは
「こうして一緒に食事ができておいしいわ」
と、満足なようすでした。

③ ウサギとカメ

ウサギとカメは、丘の上までどちらが早く着けるか競争し、だんぜんスピードの速いウサギでしたが、油断してカメに負けてしまうのでした。

しかし、ウサギは、今度こそカメにウサギの速さを示してやろうと、再度競争を申し入れました。

「カメさん、コースを少し短くしようか?」

すると、カメは

「今度のコースは、丘を越えたら海辺に出るので、その先の島へ、橋を渡ったところをゴールにしませんか」

と言うのでした。
ウサギは
「そんなに遠くて大丈夫かい、カメさん」
「はい、ウサギさん」

ウサギはやる気満々で
「カメさん、今度は負けないよ」
と、はりきっています。

スタートすると、ウサギはあっという間に見えなくなってしまいました。

ウサギは、こんどは昼寝こそしませんでしたが、はやく走り過ぎて疲れ、スピードがにぶってきたような気がしました。

海辺について、島への橋を渡りはじめ、まもなく島のゴールに近づくと、なんと、カメさんがもう先に着いているではありませんか。

カメさんは、はじめから海に入り、ゴールの島まで泳いできたのでした。

ウサギは、自分の速さは絶対だと思っていて、何の作戦も考えないでしまったことをくやしがりました。

④ 浦島亀太郎

浜辺で子供たちが、カメをいじめていました。そこを通った太郎は
「カメは神様のお使いと言われている。いじめては、バチがあたるぞ」
子供たちは、不吉な感じがしてその場から離れるのでした。

翌日、海で釣りをしていた太郎はカメに会いました。カメは言いました。
「昨日は助けてくれてありがとう。お礼に竜宮城にご案内しますよ。私の甲羅に乗っていきませんか?」
すると太郎は
「亀さん、家にはおっとさんも、おっかさんもいる。両親をほったらかして、よそには行けないよ」
「そうですか」と、亀は言うと、何か海の中をのぞきこんでいました。

「たいへん。今地震が起きてます。太郎さん、はやく浜に帰って、津波が来るからみんなに逃げるように言ってください」
「そうかい、わかったよ」

太郎は急いで浜にもどり、亀の知らせがあったので津波から逃げるように、みんなに言いました。
しかし、地震があったことには気づいていても、津波のことを教える太郎を信用しない人もいました。

しかし、やがて津波は来て、村じゅう被害を受けました。太郎の家族は山に逃げて無事でしたし、子供たちも助かりました。

その後、太郎は亀の教えを守る亀太郎と呼ばれるようになりました。

亀太郎は、時々、竜宮城に行っていたら、今頃どうなっていただろう、と思うことはありましたが、その後、長くこの村で過ごしたということです。

⑤ 狼少年

いわゆるオオカミ少年は嘘つきの代名詞になってしまいましたが、それとは違った狼少年もいます。これは、そのお話です。

森でオオカミに育てられた狼少年は、おおきくなるにつれて狼たちのリーダー的な存在になっていました。
その日も、鹿の肉をオオカミたちに分け与えています。オオカミは少年が大好きで、体をすりつけます。少年もオオカミの首筋をなでるのでした。生まれたばかりのオオカミのこどもたちも、その周囲で遊んでいます。

食べ物が不足していたある年、やむを得ず羊の牧場を狙うことにしました。
狼少年は、オオカミの家族を従え、森の中腹にある羊牧場まで来ると、狼たちを制しておいてから、羊飼いの住む家に近づき
「オオカミだ!オオカミだ!」
と大声で知らせました。狼は人間を襲う場合もあるので、牧場主の家族は、逃げざるを得ませんでした。

狼少年を筆頭とするオオカミの群れは、牧場の羊を襲い放題です。お腹がすいているので必死でした。

牧場主はオオカミの被害に頭を抱えていました。オオカミを捕まえる罠を仕掛けたりするもののそれでも狼少年が一緒だと、本能的に仕掛けに気づくようで、手をこまねくばかりです。
思案のあげく、狼少年を利用すれば、オオカミをまとめてやっつけられそうな気がしました。牧場主の奥さんも、その考えに賛成でした。

ある日、牧場主は森の奥を訪ね、狼少年に相談を持ちかけました。
「食べ物にこまっているようだね。どうだい、羊を10頭あげるから、オオカミたちを
できるだけ集めてくれないか。この森のオオカミの数を調べておきたいのさ」

狼少年は、オオカミたちのエサのことだけが心配で、人間のつくウソを見破るような心をもっていません。
「この森じゅうのオオカミを集めて、牧場に行きましょう」

大勢のオオカミを引き連れて、狼少年は牧場までやってきました。
約束の羊10頭のことを牧場主に言いに行った時、
「バーン!バーン!」と猟銃が撃たれました。オオカミたちは、ビックリして散り散りになって逃げるしかありません。

「あ、なんてことをするんだ、人間め!」

狼少年は、人間のすることにこりごりです。
ウソというものを知りました。オオカミたちがラッキーだったのは、銃声で驚かせてしまい、散り散りに逃げられたことです。牧場主の、オオカミをたくさん集めて一気に殺そうとした作戦は失敗でした。

その後、食料に不自由すると、オオカミを引き連れて狼少年は、また
「オオカミだ!オオカミだ!」
と叫び、人払いするのでした。

しかし、牧場主は、狼少年がいないほうがオオカミを追い払いやすいと考え直しました。少年がオオカミの群れを統率するから被害が大きくなると思ったのです。

そうして、狼少年は、ある日牧場主に撃たれて死んでしまいました。

それから、オオカミたちは、毎晩、毎朝、
「オゥーン、オゥーン」
と、狼少年を悼むようになったのでした。

死んだ狼少年を埋葬する時、牧場主の奥さんは、しきりに少年の顔を見ています。
「この子、昔いなくなったうちの赤ん坊に似ていないかぇ?あんた、どう思う?」
牧場主は
「あの子、首根っこに小さなホクロがあったよな。どれ······あっ!」
「あんた、えらいことだよ!たいへんなことをしちまった」
奥さんは泣き出し、牧場主も、茫然とするばかりです。

それから毎年この日は、村じゅうでオオカミ祭りが行なわれ、森にはたくさんの肉が捧げられたとのことです。

⑥ アリとキリギリス

アリたちはほんとに働き者でした。小さい体をせかせかと動かし、いつも食料をたくわえています。今食べる分は十分なのに、冬を見越してその備蓄に励んでいます。朝から晩までひっきりなしの行動です。アリが遊んでいる姿を見たことがありません。

アリが働いている脇で、キリギリスはバイオリンを弾いています。ほんとにバイオリンが好きなようです。一日中、よくあきないものだというぐらいです。食料の豊富な今のうちに、冬の分を考えなくていいのでしょうか。

一匹のアリが言いました。
「キリギリスさん、ぼくらの食料運びがらくになるよう、少しリズミカルな曲にしてくれませんか。そうすれば、リズムにあわせて作業がはかどるかもしれません」
すると、
「アリさん、そういう曲もおもしろいが、ボクは今、新しい曲ができかかっている。それが終わったらだね」
そう答えると、キリギリスは、また夢中になって、バイオリン弾きにせいを出すのでした。

キリギリスは、ホントにバイオリンを弾くことが好きなようで、夏が終わり、秋になっても、自分の食べ物のことは気にしていないように見えました。まるで、バイオリンの音色を食べて生きているかのようです。

とうとう冬が来て、野にも山にも雪が積もり
食べ物は採れなくなってしまいました。アリたちは、倉庫に備蓄した食料を使い、この厳しい季節を乗りきるつもりです。

一方キリギリスは、なんにも食べ物がなくなって、げっそり痩せてしまい、今にも倒れそうです。雪はどんどん降り積もってきています。

キリギリスは、最後の力をふりしぼってアリの家に行くと、こう言いました。
「アリさん、ボクが死ぬ前に、でき上がった曲を聞いておくれ。近所の皆さんにも、聞いていただきたい」
アリたちは、やつれたキリギリスの姿に驚いていましたが、アリの家で冬のコンサートが開かれ、まもなく演奏が始まりました。

はじめは静かに低い音から始まりましたが、
そのうちキリギリスのどこにそんな力があるかと思うくらい、エネルギッシュな演奏に変わります。美しい高音の響きは、聞いているアリたちをウットリさせます。その音色の美しさにアリたちの目から、こぼれるものがありました。これまでの生きるための、つらい労働もこのようなすばらしい音楽を聞くためにこそ、と思えるぐらいです。アリたちは、
大きな感動に包まれていました。

パチパチパチ!大きな拍手が鳴り渡ります。
キリギリスは、静かにうなずきお礼を返しているように見えました。

曲が終わると、アリたちは、キリギリスへの
お礼とばかり、食べ物を持ちよりました。
キリギリスは
「アリさん、たいせつな食料をありがとう」

すると、アリたちは
「キリギリスさん、こんなすばらしい曲を作っていたんだね。冬はまだ続くけど、時々ぼくらに音色を聞かせておくれ。冬は働けないけど、こんなに素敵な暮らしになるなんて、なんてしあわせなことだろう。食べ物のことは、ぼくらに任せて、キリギリスさんは音楽家としてかんばっておくれ」
その後、キリギリスに盛大な拍手が送られました。

こうして、アリとキリギリスの暮らしは、とても豊かなものになりました。

⑦ とべない白鳥

「みにくいアヒルの子」は、実は自分がアヒルではなく白鳥だったことに気がつくアンデルセン童話ですが、これからお伝えするのは、それとは少し違ったお話です。

白鳥のお母さんは、卵からかえる雛たちを見守っていました。最後に残った卵から出てきたのは、先に産まれた黒っぽい色の兄弟とは、ようすが異なっていました。見た目が少し違っているのです。

一羽だけ姿が違うので、白鳥の兄弟はいつも仲間はずれにするのでした。お母さんは、自分の子のことなので、兄弟皆同じように接してくれました。

その子は、お母さんの教えとして兄弟からいつもこう、聞かされていました。
「寒い季節が来る前に、お母さんと一緒に、ぼくらは遠い暖かい国へ飛んで行くんだからね」

嘴も色が違うその雛鳥は、兄弟よりも自分とよく遊んでくれる人間の子供と仲良くなりました。その子供は兄弟がいないらしく、その鳥とよく遊ぶことが好きなようです。

白鳥の兄弟たちは、あまり人間の子と遊ばないのですが、その子は人間が好きで、一日中遊んでいます。
兄弟に、いずれ遠くへ飛んでいくと聞いても、飛ぶとはなんとなく気がむかないことでしたし、大空を舞うことがそんなに魅力的には思えません。むしろ、自分は人間たちと暮らす方が、性に合っていると感じています。

ある日、その子は少年に
「ぼくらは、そのうち遠くへ行くことになるらしい、お母さんがそう言うんだ」
と語ります。
少年は
「へえ、ボクは君にずっとここにいてほしいけどな。ずっと一緒に遊ぼうよ」
その子も
「ボクもそうしたいよ。そんなに飛ぶことが好きになれそうではないし」
と言うのでした。

夏が終わり、秋が来て鳥たち兄弟もだいぶ成長してきました。かなり寒さが増してきて、ついにその時がきました。
遠い国へ渡りに出発する日です。
お母さんが「さあ、行くわよ。ついてらっしゃい」と、先に飛びたちました。今ではすっかり大きくなった鳥たちも、大きく羽ばたくとフワッと舞い上がり、一斉についていくのでした。

一方、人間の子供と遊んでばかりいた子も、だいぶ成長はしても、兄弟の鳥たちほど大きくはなりませんでした。
そして、兄弟たちと一緒に舞い上がろうとした時、自分は、ちっとも上手に飛べないし、空に上がっていけません。
その瞬間、自分はお母さんや兄弟たちとは違う鳥だと知りました。それは、どんなにうれしいことだったでしょう。人間の子と、ずっとこの地上にいられることがわかったからです。
少年も喜んでいます。
「きみは、白鳥の家族で育ったようどけど、アヒルだよ。飛べなくてよかったね。君は、ぼくとずっと一緒にいていいんだよ!」
自分がお母さんたちのような白鳥ではないことがわかり、アヒルは、意地悪な兄弟とではなく、自分にやさしい人間たちと暮らすことに幸せを感じていました。

思わずうれしくて大きな声で叫びました。
「ガァ、ガァ~」   ★

◎備考 本企画について
この世には数えきれないほどメルヘンや昔話があるものと思われます。しかし、比較的多くの方が知っている話とすれば、案外限られるのかもしれません。ここで触れておきたいことは、本企画が、元ネタがよく知られていることを前提に、その話の視点変更や、設定転換や、換骨奪胎等により創作するセカンドストーリーを肝にするとすれば、そもそもの題材が無限にはなく、案外限られているのかもしれません。本企画に妙味があるとすれば、元ネタの鉄板のストーリーに依拠しているという構造があります。世に散らばるメルヘンの数だけ企画は創作できそうに思われるものの、一定程度の認知がないと成立しないという意味では、それほど広がらないのかもしれません。原著の説明に終始して、そこからセカンドストーリーを始めるなどは、妙味のないことです。この点では、無限に再話できそうなプランであるものの、実はそうではないのかもしれません。







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