〔台本〕レイア

そのうち修正とりあえず避難&保管
人物紹介─────────────────
メアリー:正体はグロブナー家の次女レイア。父のクリストファーと耳の聴こえない姉のメアリーを殺害し、メアリーに成り代わっている。

バトラー:執事。セリフ中の「五か月前に雇われた」は虚言。実際はグロブナー邸に強盗に入った際にレイアの殺害現場に鉢合わせ、口封じのために一ヶ月前に雇われた。

シャルロット:気さくなおば様、クリストファーと同年代。殺される。

ワトソン:気さくなおじ様、クリストファーと同年代。殺される。後半部にでてくるクリストファー役も兼ねてください。

クリストファー:メアリーとレイアの父。厳しくもあり優しくもある人格者。シャルロットとワトソンとは学園時代の友人。

時間目安→20分
本編───────────────────

バトラー:(N)1831年、11月14日。グロブナー家の当主、クリストファー・グロブナーが亡くなった。グロブナー家はクリストファーの娘であるメアリーが継ぐこととなった。
そして12月25日、クリスマス。クリストファーが亡くなってから初めての晩餐会がグロブナー邸で開かれた。招かれたのはクリストファーと特に親しかった二名。ミスターワトソンとミセスシャルロット。

メアリー:(M)雪の降る、静かな夜だった。

0:応接間

メアリー:ほんじつは、きてくださって、ありがとうございます。

シャルロット:まぁ、すごいわ。噂通り、ゆっくりとはいえ普通の人と同じように話すのね。

メアリー:……

シャルロット:…とはいえ、耳が聞こえないのだから私の言ってることは伝わらないわよね。
執事さん、よろしければ通訳をお願いできるかしら。

ワトソン:シャルロット、それだけじゃない。彼女は『天才』だぞ。

シャルロット:天才?

バトラー:マダム、お嬢様が唇と喉に手をあてても構いませんか?

シャルロット:唇と喉に?ええ、かまわないけれど…

0:シャルルの口と喉に手を置くメアリー
メアリー:……

シャルロット:ええと…どういうことかしら…

メアリー:さきほどおっしゃったことを、もういちどおねがいします。

シャルロット:もういちど?

メアリー:えぇ、もういちど

シャルロット:え?!

ワトソン:ははは!驚くだろ?私も初めてやられた時は耳を疑った。

シャルロット:まさか私の言うことがわかるの?

メアリー:ええ、わかります。

ワトソン:口の動きと喉の振動から何と言っているのか判断するんだと。

シャルロット:そんなことが…耳が聴こえるようになったのかと思ったわ。びっくりした。

メアリー:ざんねんながら、みみはきこえないままです

シャルロット:…はじめまして。シャルロットよ。さっきは「耳が聴こえないのに話せるなんてすごいわ」といったの。

メアリー:ありがとうございます。

シャルロット:ほんとに凄いわ…頑張ったのね。これならお父様が居なくなっても安心ね。

メアリー:かなしいですが、がんばります。マダム、これからもおせわになるとおもいます、よろしくおねがいします。

シャルロット:えぇ、いつでも頼ってちょうだいね。お父様とは仲良くさせていただいてたのよ…強盗に入られたと聞いているけど、あなただけでも助かって本当に良かった。

ワトソン:本当にな…犯人はまだ捕まっていないんだって?

バトラー:はい。目撃した者が誰もおらず、ヤード(※警察)も手間取っているようでして…

シャルロット:誰も?

バトラー:ええ。お嬢様は殺人現場の隣の部屋にいらしたのですが、耳が聞こえませんので。異変に気づくこともなく眠っておられました。

ワトソン:何も手がかりがないとなると難しいだろうな。メアリーの耳さえ良ければ、殺されずに済んだかもしれないし犯人の顔くらい見られたろうに。

シャルロット:(怒って)なんてこというの!

メアリー:っ

ワトソン:っなんだ、突然大声をだして。

シャルロット:そんな「耳が良ければ」なんて話をしないでちょうだい。第一、メアリーの耳がよかったら彼女も殺されていたのかもしれないのよ?

ワトソン:……たしかに、そうだな。すまない。

シャルロット:ぁ……強く言いすぎたわ。クリスが亡くなって心が荒んでるのね、ごめんなさい。

メアリー:マダム、おとうさまのこと、わたしのこと、たいせつにおもってくださって、ありがとうございます。きこえていれば、はんにんをおえたかもしれないのは、じじつですから、きになさらないで。

シャルロット:メアリー……犯人が早く見つかるといいわね。

メアリー:はい、ありがとうございます。
…シャルロットさんの、こえのふるえは、とてもかんじとりやすいです、きっと、きれいなこえなんだとおもいます。こころがきれいだから、でしょうね。

シャルロット:ふふ。ありがとう。とはいえ、これ以上手をあてられるとお化粧が崩れてしまうから、これからは執事さんに通訳をお願いしようかしら。

メアリー:あ…ごめんなさい
0:手を離すメアリー

ワトソン:なんだ、化粧なんぞ…四人しかいないのに気にする必要ないじゃないか。

シャルロット:やはりくすぐったいわ。背丈を合わせるために屈んで腰が痛いし。

メアリー:バトラー、つうやく

0:戸惑うバトラー
バトラー:…

シャルロット:あら、今のは伝えなくて結構よ。

バトラー:…かしこまりました。

0:察するメアリー
メアリー:さて、そろそろまいりましょう。おとうさまのたいせつなおともだちがいらっしゃるときいて、いちどう、こころをこめてじゅんびしました。

バトラー:ご案内します。

ワトソン:楽しみだよ。君のお父さんはもてなし上手だったからな、

シャルロット:そうね。クリス主催のパーティは評判が良かったわ。

ワトソン:そういえば…君、あいつの執事はどこに行った?

バトラー:前任の執事ですか?

ワトソン:あぁ、君は…勘違いであれば申し訳ないが、初めて見る気がする。

バトラー:おっしゃる通りです。初めてお会いします。

ワトソン:私が最後に来たのは…半年前か?その時まだあの執事はいたぞ

シャルロット:私は一年以上前ね。名前は知らないけれど、クリスが優秀な執事だと褒めていたわ。辞めてしまったの?

バトラー:おそらくそうかと。五ヶ月ほど前からこの屋敷にお世話になっていますが…その時クリストファー様のそばにいた執事は…えぇー、今回の事件で心労を負い辞めてしまったので…

ワトソン:そうか…彼もなかなか高齢だったからな。主人がなくなってしまったのは堪えただろう。

シャルロット:と、すると。あなた随分早い出世ね?五ヶ月前に入ってきて執事、その若さで使用人のトップがつとまるだなんて

バトラー:当館で手話ができるのが私しかいないので、クリストファー様が亡くなってからはメアリー様の指示で私が。

ワトソン:なるほど。その手話というのも凄い技術だな。

バトラー:妹がろう者でして(※耳が聞こえず、話すこともできない者のこと)

シャルロット:それはそれは…メアリーは話せるけど、耳も聞こえず話もできないとなると大変よね。

ワトソン:クリスもそう考えて、メアリーに話すことと指で聴くことを教えたのだろうな。

シャルロット:そうねぇ…クリスは娘たちを社交界にだそうとしなかったけれど、やはりそれは娘のことを考えて、極力ストレスをかけないように配慮した結果だったのでしょうね。

ワトソン:素晴らしい父親だな、彼は。

シャルロット:惜しい人を亡くしたわ。
メアリーは幸せ者ね。彼の教育のおかげで家を継ぐことができたようなものだもの。

ワトソン:耳が聴こえないからこそ、より一層他の分野で補おうと教育したんだろうなぁ。
仕事の引き継ぎも上手くいったんだろう?この前の爵位授与式の立ち振る舞いもしっかりとしていたし…耳が聞こえないことを悟らせないくらいだ。

バトラー:お待たせ致しました。
SE:扉の開く音

シャルロット:まぁ、素敵

ワトソン:ほぉー!

バトラー:お席へどうぞ

0:全員席に着く

メアリー:わたしののうりょくぶそくゆえ、ほんじつはおふたりしか、おまねきできませんでした。しかし、そのぶん、おとうさまとしたしくしてくださったおふたりと、たくさん、かたらえたらとおもいます。
では…乾杯、メリークリスマス

シャルロット:メリークリスマス

ワトソン:メリークリスマス

SE:皿の割れる音

0:メアリーとシャルロット同時にリアクション
メアリー:きゃっ
シャルロット:っっ!なにごと?

バトラー:…大変失礼いたしました。食器を落としてしまいまして。取り換えて参ります。

ワトソン:…ははは、たのむよ。新人とはいえ執事にあるまじきミスだ。

バトラー:申し訳ございません


時間経過─
0:※シャルロットとワトソンの会話等はバトラーが手話で通訳し、メアリーに伝えています。

SE:9時を知らせる時計の音

ワトソン:おや、そろそろ時間か。

シャルロット:随分長い間話し込んでいたのね

ワトソン:楽しい時間が過ぎるのは早いな。
さすがクリスの娘だ。料理も素晴らしかったし、テーブルメイキングもクリスの時より可愛らしいくて華やかで明るい気持ちになる。

シャルロット:ほんと

メアリー:ふらわーあれんじめんとは、わたしが

シャルロット:さすが。いいセンスしてるわ。

ワトソン:メアリー、…これから大変なことがたくさんあるだろう。障がい者だから騙しやすいと、下心をもって近づいてくる大人も多くいるはずだ。

シャルロット:何かあったら連絡して頂戴。私たちはあなたの味方だから頼ってね。

メアリー:ありがとうございます。

ワトソン:では、そろそろ行こうかな

メアリー:お待ちください

ワトソン:ん?

メアリー:そとは、ゆきがふっていますでしょ?

シャルロット:えぇ、気をつけなければね。

メアリー:もし、おふたりになにかあれば、おとうさまがかなしみます、ゆきのなか、ばしゃでかえるのはあぶないので、ほんじつはとまっていかれませんか?

シャルロット:えぇ?申し訳ないわそんなの。御者に注意するよう伝えるから…

ワトソン:あぁ、万が一私たちに何かあったとしても君が責任を感じる必要は無い。
そこまで酷くないし大丈夫だろう。

メアリー:そんなことおっしゃらないで、とまっていってください。もし……もし、おふたりになにかあれば、わたしは、おとうさまのたいせつな「おともだち」を、なくしてしまうことになるのです。

シャルロット:…

メアリー:どうか、わたしのためだとおもって、とまっていってください。

ワトソン:…優しいなメアリーは。私達が泊まり易いようにそんな言い方をしてくれるのか。

シャルロット:優しいところはクリスとそっくりね…わかったわ、お願いしていいかしら?

メアリー:…!

ワトソン:私も、とまっていくよ。

メアリー:よかった…!バトラー、よういを。

バトラー:はい。
では部屋へご案内しますので、こちらへ。

0:場転

バトラー:これは…どういうことだ?
おかしいな、今夜俺は……。「俺が」そいつを殺すはずだった。それなのに…
どうしてお前が…
……先にヤッちまってんだ?

0:場転

SE:ノック音

シャルロット:はぁい

ワトソン:私だ

SE:扉を開ける音

シャルロット:あらやだ、夜のお誘い?

ワトソン:嫌な冗談だな。やめてくれ

シャルロット:軽いジョークじゃない。それでなんの御用で?

ワトソン:大事な話がある。入ってもいいか?

シャルロット:大事な話?どうぞ

SE:扉を閉める音

シャルロット:で?話ってなにかしら。

ワトソン:……
0:深刻な表情のワトソン

シャルロット:……?

ワトソン:…お前は、メアリーと会うのは今日が初めてか?

シャルロット:えぇ、そうね。それがどうかした?

ワトソン:私はな、前にメアリーと会ったことがあるんだ。

シャルロット:そういう口ぶりだったわね。

ワトソン:…今日会ったのは、メアリーだったか?

シャルロット:……え?

ワトソン:いや、…前会った時…メアリーは、眼の色が蒼だったと思うんだ

シャルロット:えぇ?瞳の色なんて…

ワトソン:グレーだったんだよ。

シャルロット:……。何が言いたいの?

ワトソン:今日会ったメアリーは、メアリーではない…と…

シャルロット:メアリーがメアリーじゃない?

ワトソン:今日のメアリーの目の色は灰色。以前…五年前に会った時は蒼だった。

シャルロット:灰色の瞳なんて見る角度によって青だったり緑だったりするじゃない。

ワトソン:いいや見間違えるはずがない。前二人と会った時、目が灰色だったのは…「レイア」の方だ。

シャルロット:馬鹿言わないで。レイアはクリスと一緒に殺されてしまったじゃない。あぁ、可哀想に…

ワトソン:……ぁぁ。

シャルロット:ちょっと、どうしたの思い詰めた顔して。

ワトソン:……

シャルロット:ま、まさかメアリーが別人だなんて、本気で言ってるわけじゃないでしょ?

ワトソン:グロブナー家の長女、メアリーは聴力がない。次女レイアは健常者。耳も聞こえるし、しっかり話せる…

シャルロット:そうよ。今日もてなしてくれたのは耳の聞こえないメアリー、そうでしょ?

ワトソン:今日のメアリー、本当に「聴こえてなかった」か?

シャルロット:言いたいことがあるならはっきり言ってよ。わからない。

ワトソン:……今日会ったのはレイアじゃないか?

シャルロット:だから、さっきも言ったでしょ、レイアは健常者。

ワトソン:今日話した彼女は健常者だったよ。

シャルロット:なにいってるの、執事が逐一手話で伝えて何とか…って感じだったじゃないの。
ワトソン、あなた仕事のしすぎよ。疲れてる?

ワトソン:私はまともだよ。おかしいと思わなかったか?今日、夕食の時にあの執事が皿を割っただろう。

シャルロット:それがなにか?

ワトソン:彼はメアリーの後ろで皿を割ったんだ。メアリーには見えない。それなのにメアリーは肩をびくつかせたんだ。小さく声まで上げて

シャルロット:…気のせいじゃないかしら?

ワトソン:割れた「音」に、彼女は反応してた。

シャルロット:…耳が聞こえないから…他の五感…が研ぎ澄まされているのではなくて?

ワトソン:肌で音を感じとったっていうのか?冗談よしてくれ

シャルロット:冗談を止めるのは貴方の方よ。

ワトソン:……皿だけじゃない。晩餐の始まる前、応接間で君が大声を出した時にメアリーは驚いていた。他にも(おかしなところはたくさん)……

シャルロット:(被せ)えぇ。でもその時彼女は私の喉に手をおいていた。耳が聞こえないぶん、人の感情に敏感な子だわ。大声に驚いたのではなくて、私が怒ったことにびっくりしたんでしょう。

ワトソン:それならあんな驚き方は……

シャルロット:仮に、あなたの言うようにレイアがメアリーに成り代わっているとしてよ?レイアになんのメリットがあるって言うの?

ワトソン:それは……

シャルロット:殺されたのがレイアではなくメアリーだとして、レイアが「聞こえない」と、「自分はメアリー」だと偽る理由はなに?

ワトソン:……わからない

シャルロット:わからないならどうしてそんなこと言うのよ。

ワトソン:わからないから、こうして話すんだろ!

SE:ノック音

ワトソン:?!

シャルロット:はい

バトラー:(ドア越しに)夜分遅くに失礼します。暖炉の薪が足りているかと思いまして。

シャルロット:えぇと…足りてるわ、大丈夫よ。

バトラー:しかしながら今夜は冷えますので、シャルロット様がお休みの間に薪を切らしては困ります。大変失礼ですが、今、補充させていただいてもよろしいでしょうか。

シャルロット:そうね。おねがい

ワトソン:待て。

シャルロット:なに?

ワトソン:開けない方がいい。

シャルロット:どうして?

ワトソン:嫌な予感がする。

シャルロット:はぁ…あなたおかしいわ。

バトラー:(ドア越しに)マダム?

シャルロット:あぁ、ごめんなさい。今ワトソンも一緒にいて、少し話していたの。

シャルロット:いいわよ入って。お願いするわ。

SE:ドアの開く音

バトラー:ワトソン様もご一緒でしたか。

シャルロット:えぇ。あ、ついでに飲み水もお願いしていいかし(ら)…

SE:鈍器で殴る音
0:火かき棒でシャルロットを殴るバトラー

シャルロット:がっ……!!!

ワトソン:なっ…!!

0:殴り続けるバトラー

ワトソン:おい!おい執事…やめろ!

0:バトラーに掴みかかるワトソン

バトラー:ぐっ…邪魔だじじぃ!

ワトソン:やめ…シャルロット…シャルロット……!

0:取っ組み合いをする二人

0:ドア付近に立っているメアリーを見つけたワトソン

ワトソン:メアリー!おい!見ていないで助けてくれ!お前の執事が…

メアリー:……

ワトソン:メアリー!!

メアリー:……はぁ

ワトソン:レイア!!!!

メアリー:きこえてるわ。なぁに?

SE:鈍器で殴る音

ワトソン:あ゛…

バトラー:…はぁ。やったか?

ワトソン:……ぁ…レイア…どうして

バトラー:うるせ

SE:鈍器で殴る音

ワトソン:……

バトラー:手間取らせやがって……とはいえ、貴族も体はフツーの人間と同じだよなぁ…むしろ柔いか?

0:歩み寄るメアリー
メアリー:終わった?

バトラー:あぁ、おわったぜー。おじょーさま。

メアリー:ご苦労さま。

バトラー:やっぱり人殺すのに火かき棒はダメだな。

メアリー:殺せればいいでしょ。結果は同じ。

バトラー:貴族のお嬢様とは思えない残忍さだな。いや…貴族だからこそか?

メアリー:…

バトラー:んで?どーすんだ

メアリー:燃やしましょうか。

バトラー:薪にすりゃいいってか?

メアリー:ええ、お願い。

SE:暖炉の音

バトラー:くせぇな。

メアリー:そうね。

バトラー:こいつらの最期の晩餐にだした料理が勿体ねぇな。どうせ殺すんならどうしてもっと早くに殺らなかった?

メアリー:殺すべきかどうか見極める必要があったから。泊めて正解だったわね。特にワトソン。
気づいてる素振りなんてちっとも見せなかったくせにわかってたなんて…普通、片手に収まるほどしか会ってない人の目の色まで覚える?

バトラー:変態じじぃだったんじゃねぇの。

メアリー:絶対そう。
皿を落とした時に肩が揺れた?あの女が大声を出した時の私の反応?そんな所まで見てるなんて…

バトラー:よっ、大根役者っ!

メアリー:バトラー、あなたがミスしなければ余計に殺さずに済んだかもしれないのに。皿を落とすなんて…執事にあるまじき失敗よ。

バトラー:執事じゃねぇからな。やっちまったもんはしょうがねぇだろ。

メアリー:はぁ

バトラー:お前もお前だ。ボロでまくってたぞ。

メアリー:あなたよりはマシ。

バトラー:んなこたぁねぇだろ。
それにしてもお嬢様にしては品がないねぇ、盗み聞きだなんて。

メアリー:そうしなければ私の身が危なかった。壁の薄い部屋を用意しといてよかったわ。

バトラー:だなー。さすが、グロブナー家の娘。狡賢い。

メアリー:……

バトラー:お前、今回はどうやって隠すんだ?

メアリー:コレ、を?

バトラー:あぁ。前は「耳が聞こえないから事件に気づけなかった」とか言ってたが……

メアリー:ワトソンとシャルロットは雪の降る中馬車で屋敷を発ち、行方不明。崖に落ちたか、雪崩(なだれ)に巻き込まれたかは知らないけど。

バトラー:ほーん

メアリー:…ようやく静かになったわ。

バトラー:は?俺がうるせぇって?

メアリー:いいえ。周りが、静かになった。
お父様を殺して、メアリーを殺して、お父様の友人を殺して…
あぁ……静か。響くのは暖炉の燃える音だけ。

バトラー:そんなにうるさかったのか、お前の父親と姉は

メアリー:…えぇ

0:回想
クリストファー:メアリーはすごいなぁ。耳が悪いのになんでもできるじゃないか。

クリストファー:レイア。姉さんは頑張ってるよ、少しは見習ったらどうだ。

クリストファー:外出?バカ言わないでくれ。メアリーの気持ちを考えたことはあるか?

クリストファー:レイア、姉さんをお前が助けなきゃならない。手話くらい覚えてもらわないと困る。

……

バトラー:…ァリー、メアリー

メアリー:っっ……!

バトラー:聞いてるか?

メアリー:……聞こえてるわ

バトラー:すげぇ顔色悪かったぞ

メアリー:そう?…なにも…大丈夫よ。

バトラー:それなら構わねぇが……
ま、これで俺も共犯者になったわけだし。これからも俺の世話頼むぜ〜

メアリー:えぇ。秘密は墓場まで。よろしくね。

メアリー:(N)1831年12月25日、グロブナー邸での晩餐会に招かれた二名が、雪の降る中馬車で屋敷を発ち行方不明となった。ヤードは捜索困難ゆえに「雪崩に巻き込まれ死亡した」と結論づけ、捜査を打ち切った。
雪の降る、静かな夜だった。

────────(終)


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