マイトンクエスト〜書店のオババは強かった〜編
当時中3の私は人生最大の冒険に挑もうとしていた。それは、
魔導書を買いに行く。
それまで私が生のエロ本に遭遇した経験は2回。
控えめに言ってレベルはまだ上がっていない。
1回目のエンカウントは実家近くのドブだった。
表紙は何度も水で濡れて乾いたのだろう。ペコペコに湾曲した状態で開かれた本からは、グラマラスなお姉さんが「ねえ、ぼく。拾っていいのよ」と妖艶に誘ってきたが、流石の私も拾う勇気は出なかった。
もう1回は学校の近くの小さな書店。
店の奥の方に例のブツが鎮座するコーナーがあった。すぐ横には参考書コーナーがあり、その境界はあるようでない。いや、確かにあるのだが距離が近いため完璧なポジショニングができる神の領域だった。
参考書を読むふりをして神の領域に足を踏み入れた私は、左右を注意深く、かつ悟られないように静かに見渡し、誰も客がいないことを確認してからおもむろに一番手前にあったエロ雑誌を手に取った。
手が震えてページをうまくめくれない。
先を見たいけど、いつ何時後ろから友人に肩を叩かれるかわからない。
見たい気持ちよりも不安な気持ちが強くなり、結局すぐにその場から退散した。
戦闘開始早々に無様な敗退。
そんな苦い経験を経て、私は考えた。
ここはじっくり落ち着いて見るために、エロ本を買うしかない。
幸い私は自室で勉強することが習慣となっている。部屋にこもってナニを読んでいようがバレることはないだろう。
問題は買ってからではなく、どこで買うか、だ。
通学途中はダメだ。
制服を着ている。
残念ながら我が校の制服は京都でもそれなりに有名で一発で所属がバレてしまう。
じゃあ私服で買えるタイミング、となるが休日は両親が常に家にいる。
買って帰ってきたとして、バレずに自分の部屋まで辿り着けるだろうか。
やっぱりだめだ。
休みの日は家族みんなでリビングでテレビを見て過ごす家だ。
帰宅して部屋に直行すれば怪しまれる。
やはり両親の留守を狙うしかない。
私は脱獄囚がごとく、両親の休日の行動パターンをメモすることにした。
もちろん、実際にメモを残すようなヘマはしない。
頭の中に忘れないようメモするのだ。
基本的に両親が休日に家を空けることはない。
なぜなら寝たきりで障害を持つ姉がいるので、1人置いていくという選択肢はないからだ。
買い物は母1人で行って父は家に残る。
1ヶ月ほど機会を伺ったが、このパターンが崩れることはなかった。
その間にも私の中の好奇心はどんどん肥大化し、今にも暴れ出しそうだ。中3の好奇心は侮れぬ。
さて、どうしたものかと考えていると遂にそのチャンスはやってきた。
姉の通う作業所のイベントがあるという。
私はそのイベントに参加することを丁重に断り、1人お留守番をすることを申し出た。
特に疑われることもなくその願いは受理され、めでたく休日に1人時間を確保することに成功したのだ。
そして迎えたXデー。
買う場所は決めている。
普段滅多に行くことのない、駅とは反対側の古びた小さな書店。
あそこなら、同じ中学に通う同級生もいないはず。
何より普段の生活圏でミッションを遂行するのはリスクでしかない。
小さな田舎町だから本屋もそんなに沢山はないのであまり迷うことなくそこに決めた。
次に何を買うか。
これは特に決めないことにした。
今のようにインターネットがあるわけでもなく、どんな種類があるのかもサーチしようがない。
こればかりは現場で選ぶしかないと思った。
あとは何が起きてもいいようにお小遣いを貯めた五千円を握りしめ、私は冒険に出た。
書店までは自転車で20分。
両親は2時間は帰ってこない予定だ。
時間はたっぷりある。あるのだが、急に予定が変わって家に早めに帰ってくる可能性もゼロではない。
ゼロでない以上そのリスクは考慮して迅速に動かねばならぬ。
片道20分の道を立ち漕ぎで10分ちょっとで駆け抜けた。
汗だくになりながら書店に到着する。
店員はオババ1人。
オジジが良かったのに、と思うがこればかりは仕方ない。
時間がない私はエロ本コーナーへ直行する。
色々と種類はあるが、初心な中3に選ぶ能力はまだない。
『フェラトピア』
タイトルの意味は分からなかったが、最初に目についたその本を手に取りレジに向かう。
オババが『フェラトピア』を受け取り手元に視線を落とした。
静かに首を横にふるオババ。
「子供には売れへんよ」
「んなっ。」
『オババが究極魔法「ウレマヘン」を唱えた!』
私のターンだ。
▶️こうしょうする
▶️なかまをよぶ
▶️にげる
私の選んだコマンドはもちろん、
▶️にげる
悔しかった。こんなにも無力感を味わったことはなかった。
子供ってなんなん?
どこからが大人なん?
私の手からすり抜けた『フェラトピア』。
自転車を漕ぎながら心の中で号泣した。
家に帰るとやはり早めに帰っていた両親にどこへ行ってたのか問い詰められた。
「ちょっとそこまで冒険に。」
その日の食事はいつもよりしょっぱかった。
参加してます。
サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー