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インバウンドが復活。民泊が再び注目!!

大丈夫か?民泊事業者は?

事業に使う建物が借主目的の民泊事業に使用できる消防設備等に適しているのか?等に関し、関係調査は借主自身が行う必要があるとされた事例
(東京高判 令4・10・27 ウエストロー・ジャパン)

判例要旨
1 事案の概要

貸主Y(被告・被控訴人、転貸人)は、平成29年5月新築、4階建9戸の共同住宅(本件建物)のうち貸室5戸(本件各貸室)を賃借し、(転貸するため)自社サイト(本件サイト)に掲載した。

平成29年11月、借主X(原告・控訴人、転借人)は、住宅宿泊事業(民泊事業)を行うため、宅建業者Aの媒介にて、本件各貸室の賃貸借契約(本件各賃貸借契約)を締結し、Yより本件各貸室を賃借した。なお、平成29年10月27日付で消防庁より発出された「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱いについて」(本件通知)によれば、住宅宿泊事業を営む住宅において必要となる消防設備等は、宿泊室の床面積や家主(住宅宿泊事業者等)の居住の有無等から判定された消防法令上の用途に応じて定められることとされていた。

Xは、令和2年6月頃、本件建物の管轄消防署より、本件各貸室の用途が、特定用途の複合(住宅宿泊事業を行う施設)に該当することから、本件建物全体に消防設備の設置が必要である旨の連絡を受けて、Yに対し、その対応を求めた。しかしYは、Xに対し、Yはあくまで民泊利用を所有者から許可されている物件を紹介しているもので、住宅宿泊事業を継続するのであれば、消防設備設置はXにおいて行ってほしいと拒否の回答をした。これに対してXは、本件各賃貸借契約締結の際、(1)本件建物には民泊事業を営むにあたり消防法令上必要とされる自動火災報知機等が未設置であること、(2)本件各貸室において民泊事業を営むためには、本件建物全体に係る消防設備投資の費用をXが負担しなくてはならないことの説明をYが怠ったとして、Yに対し賃借に要した費用等として475万円余の支払を求める訴えを提起した。

 第一審において、Xの請求が棄却されたことから、これを不服としたXが控訴した。

2 判決の要旨

 控訴審においても裁判所は次のように判示し、Xの控訴を棄却した。

<説明義務違反の有無について>

 Yが本件各貸室を本件サイト上に掲載していたこと、Xが本件各貸室で民泊事業を営むことを計画して本件各貸室の賃貸借契約を締結したこと、消防法令上、本件各貸室で民泊事業を営むためには、本件建物全体に自動火災報知設備を設置し、1階コミュニティスペースに誘導灯を設置する必要があったが、本件建物にはこれらが設置されていなかったことが認められる。

 しかし、本件サイトや本件各賃貸借契約書、重要事項説明書に、本件各貸室ないし本件建物が、民泊事業を行うにあたり必要とされる設備を完備している旨の記載や、民泊事業を行うにあたり法令上の問題がない旨の記載はない。また、本件各賃貸借契約締結に際し、Xが、YないしAに対し、上記のことを要望したり確認を求めたりした形跡もない。そうすると、

本件各賃貸借契約の内容として、本件各貸室ないし本件建物に民泊事業に必要とされる設備が備わっていることまでが含まれていたものと認めることはできないし、貸室の民泊利用につき貸主が承諾している物件情報を提供する本件サイトに物件を掲載したことが、民泊事業に必要とされる設備が備わった建物であることをYが保証したことになると評価すこともできない。

 これに対し、Xは、本件建物全体に自動火災報知設備を設置するためには数百万円の費用がかかるところ、社会通念上、建物を部屋単位で賃借する賃借人が、そのような費用を自己負担しなければならないと説明されていれば、賃貸借契約を締結するはずがなく、これは重大な告知事項というべきであり、賃貸借契約締結にあたり、Yはそのことを説明する義務があったと主張する。

 しかしながら、消防法令上の取扱いについては、平成29年10月27日付の本件通知によって定められたものであるところ、本件各賃貸借契約はそれから1か月足らずで締結されたものであり、本件各賃貸借契約締結時点で、本件通知の内容が不動産賃貸業者等に周知されていたことを認めるに足りる証拠はないし、Yが本件通知の内容を知っていたとも認められない。

なお、Xが、本件各賃貸借契約当時、本件通知について話題に出したり、消防法令上の取扱いについてYやAに確認したりした形跡がないことからすると、ホテル及び旅館等その他宿泊施設の企画、運営、管理及び経営等を目的とする株式会社であるXにおいても、本件各賃貸借契約当時、本件通知の内容について把握していなかったことが推認される。

そして、Yは、Xから本件各貸室ないし本件建物において民泊事業を営む場合の法令適合性について調査を依頼されたコンサルタント業者でも、民泊事業を営むための設備を完備した建物を紹介するよう依頼された仲介業者でもなく、本件各貸室の賃貸人にすぎないのであるから、本件各賃貸借契約締結に際し、積極的に法令等を調査して、本件各貸室で民泊事業を営むために必要な消防設備等を備えているかどうかを確認しなくてはいけない義務があったとまで認めることはできない。

3 まとめ

 最近、本件のように、民泊目的で建物を賃借したが、消防法等の規制によって、借主が目的である民泊としての使用ができなかったというトラブルがよく見られます。媒介業者が民泊目的の建物賃貸借の媒介を行う際には、当該建物が民泊事業に使用できかどうかの消防法等の規制の有無については、借主自身の責任において設計・建築等の専門家に依頼して調査するよう借主にアドバイスしておきましょう。

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