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民法改正に伴う試験対策

法律関係試験に絡む民法の解釈

「相隣関係」に「共有」、不動産関連の民法改正点をおさらいしましょう。昨今、不動産にかかわる、注目すべき法改正が相次いでいます。

宅地建物取引業者、サブリース業者、賃貸管理業者らと常日頃取引する投資家としても、法改正の内容を知っているのと知らないのとでは、大きな差が出るでしょう。その上、宅建士試験、賃貸経営管理士などの不動産関連の国家資格の受験を考えている場合には、国家資格者として社会に責任を負うものとしても、試験に合格するための受験対策としても、法改正の内容の理解は避けては通れません。

2023年度の不動産系の国家資格(特に、宅建士試験や賃貸管理士試験など)に出題が予想される法改正点について考察してみましょう
まず、「相隣関係」はどう変わった?
改正民法が2023年4月1日に施行されたことで、「相隣関係」の規定も見直されました。相隣関係とは、文字通り、隣接し合う不動産(土地)の関係をいいます。

(1)隣地が空き地の場合は裁判を経なくても使用できる?

たとえば、隣地との境界にブロック塀などが設置してあるケースを考えてみましょう。このブロック塀が劣化してきたので、補修工事を行いたいという場合、隣地を使わせてもらうことがあるかもしれません。

このケースにおいて、法改正前は、隣地を使用したい場合、隣人に使用の承諾を得なくてはならないことになっていました。条文上、「隣地の使用を請求することができる」とあったからです。

しかしこれでは、請求した結果、使用を隣人が拒否したら、使用できなくなってしまいます(どうしても使用する必要があれば、訴訟になります)。さらに、最近では隣地が空き家などになっていることも多く、請求自体ができないケースも多かったようです。

そこで、今回の改正では、土地の所有者は、次にある目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができるようになりました。

1.境界やその付近における障壁、建物その他の工作物の築造・収去・修繕

2.境界標の調査または境界に関する測量

3.隣地の竹木の枝の切取り

ただし、権利は得ても、勝手に隣地に立ち入ることは依然としてできません。人が暮らす「住家」については、その居住者の承諾が必要です。隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所および方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければなりません。実際には、通知の相手方が準備をするに足りる合理的な期間を置く必要があるので、緊急性がない場合は通常は2週間程度となります。

ただし、急迫の事情があるなど、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することができます。

この際、その使用の日時、場所および方法は、隣地の所有者および隣地を現に使用している者(隣地使用者)のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません。その使用により、隣地の所有者または隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができます。

一方、隣地が空き地となっていて実際に使用している者がいないなどの場合は、土地の所有者は裁判を経なくとも適法に隣地を使用できると考えられます。

(2)配管を設置したり使ったりできる?

同じく相隣関係において、法改正で、電気やガス、水道といった「ライフライン」の設置などに関するルールが明文化されました。こちらも確認しておきましょう。

所有する土地の位置関係上、ライフラインの引き込みのために、他人の土地に設備を設置したり、他人の所有する設備を使用したりするケースがあります。これまで、こういったケースについて明確なルールが設けられてきませんでした。

そこで、今回の法改正でルールが設けられたのです。具体的には、他の土地に設備を設置、または他人が所有する設備を使用しなければ電気・ガス・水道水の供給、電話・インターネットなどの電気通信の給付を継続的に受けることができないときは、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し(設置権)、または他人が所有する設備を使用する(使用権)ことができることが明記されました。

この規定については、相隣関係と言いつつ、「他の土地」「他人が所有する設備」であればよいので、隣接していない土地についても、必要な範囲内で設備を設置することができます。

ただし、設備の設置または使用の場所および方法は、他の土地または他人が所有する設備(他の土地等)のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません。

また、他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所および方法を他の土地等の所有者および他の土地を現に使用している者(賃借人等)に通知しなければなりません。他人の設備に所有者とは別の使用者がいたとしても、通知は不要です。

なお、通知の相手方が不特定または所在不明である場合にも、例外なく通知が必要です。

さらに、他の土地に設備を設置し、または他人が所有する設備を使用する者が、その設備の設置工事などのために一時的に他の土地を使用する場合には、前記(1)の隣地の使用のルールも守る必要があります。

したがって、他の土地の使用についても併せて通知が必要となります。ただし、この場合の通知は、あらかじめ通知することが困難な場合における事後通知が認められます。

補足説明:「損害を与えた時」

上記に関連して、土地の所有者は、他の土地に設備を設置する際に損害が生じた場合には、償金を支払う必要があります。こちらも細かく定められています。

たとえば、他の土地に設備を設置する場合、設備設置工事のために一時的に他の土地を使用する際に、他の土地上の工作物や竹木を除去したために損害が生じたりした場合です。このケースでは、償金は一括払いとなります。

また、給水管などの設備が地上に設置され、その場所の使用が継続的に制限されることに伴うなどして損害が生じた場合は、償金の支払いが必要となりますが、1年ごとの定期払いが可能とされています。

なお、他の土地の所有者らから、設備の設置を承諾することに対していわゆる「承諾料」を求められても、応じる義務はありません。

ちなみに、償金の支払を要する「損害」は、1.については実損害で、2.については設備設置部分の使用料相当額です。たとえば、導管などの設備を地下に設置し、地上の利用自体は制限しないケースでは、損害が認められない可能性もあります。

また、他人が所有する設備を使用する場合で、使用開始の際に損害が生じたら、償金を支払う必要があります。たとえば、設備の接続工事の際に一時的に設備を使用停止したことに伴って生じた損害等です。この場合の償金は一括払いとなります。また、土地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、設備の修繕・維持等の費用を負担しなければなりません。

(3)隣地の木の枝は勝手に切れない?

隣の敷地から木の枝などが伸びてきて、越境しているー。こうした場合の対処も、今回の改正点となっています。

これまでは、仮に隣地から枝などが伸びてきた場合であっても、切除を求めることしかできませんでした。

それが今回、次のいずれかの場合には、枝を自ら切り取ることができるようになりました。

1.竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき

2.竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき

3.急迫の事情があるとき

「相当の期間」とは、枝を切除するために必要な時間的猶予を与える趣旨です。事案によりますが、基本的には2週間程度と考えられます。

なお、竹木が共有物である場合には、各共有者が越境している枝を切り取ることができます。

つまり、越境された土地の所有者は、竹木の共有者の1人に対しその枝の切除を求めることができ、それにその共有者が応じれば、枝は切除されるということです(承諾を得ることができれば、越境された土地の所有者などもその共有者に代わって枝の切除もできます)。もし拒否された場合には裁判を経て、その切除を命ずる判決を得れば、強制執行も可能です。

ちなみに改正前は、竹木が共有されている場合、竹木の共有者が越境した枝を切除しようとしても、基本的には共有者全員の同意が必要と考えられており、円滑な管理を阻害していました

「共有」はどう変わった?
4月施行の改正民法、「共有不動産」はこう変わる!

(1)共有物は持分に応じて使用できる?

土地や建物などの「共有物」を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除いて、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います。もう少しかみ砕いて説明すると、たとえばA、B、Cの3人が土地を共有し、各自の持分が等しい場合で、Aが単独で共有物を使用しているような場合には、BとCに対価を支払う義務があるということです。

また、共有者は、自分に持分があるからといって、自己の物と同様の軽い注意義務で使用できるものではありません。他人の物を扱うのと同様の重い善良なる管理者の注意義務で使用しなければなりません。

改正前は、これらを定めた条文がありませんでした。

(2)分割の協議がうまくいかなかったら?

共有物の分割について共有者間の協議がうまくいかない場合、または共有者の一部が所在不明などの理由で協議することができないときは、その分割を裁判所に請求することができます。

これまでも協議がうまく行かない場合は裁判所に請求ができたのですが、今回の改正で、新たに「協議をすることができないとき」が追加されました。

裁判所は、次のいずれかの方法により、共有物の分割を命ずることができます。

・共有物の現物を分割する方法(現物分割)

・共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法(賠償分割)

上記の方法により共有物を分割することができないとき、または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができます(競売分割)。

共有物の分割の裁判において、裁判所は当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行などを命じることができます。

(3)軽微変更であれば過半数の賛成でよい?

共有している物件が古くなって改築するような場合、どのような手続きが必要でしょうか。法律上は、保存行為、管理行為、変更行為の3つに分けてそれぞれ同意のための要件を定めています。

2023年度改正で、そのうち管理行為と変更行為の要件が改正されました。

これまで、相続などによって共有となった建物でリフォームを施す場合には、共有者全員の同意が必要だったのですが、今回の改正によって、「形状や効用の著しい変更を伴わないもの」については、持ち分の価格の過半数で決定できるようになったのです。

なお、「形状の変更」とは、その外観、構造などを変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいいます。

ケースバイケースになりますが、例えば砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水などの大規模修繕工事は、基本的に共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないものに当たると考えられます。
このほか、共有物を使用する共有者がいる場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができるようになったり、所在などが不明の共有者がいる場合には、裁判所の決定を得た上で、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができるようになったりしています。

さらに、賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができるようになった点もポイントです。なお、変更行為はこの方法ですることができません。

賛否を明らかにしない共有者の持分が、他の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が賛否を明らかにしない場合であっても、利用できます。

たとえば、A、B、C、D、E共有(持分各5分の1)の砂利道で、A・Bがアスファルト舗装をすること(軽微変更=管理行為)について他の共有者に事前催告したが、D・Eは賛否を明らかにせず、Cは反対した場合には、裁判所の決定を得た上で、AとBは、アスファルト舗装をすることができます(A、B、Cの持分の過半数である3分の2の決定)。

また、今回の改正で、以下の表内の期間を超えない短期の賃借権などの設定は、持分価格の過半数で決定することができると明記しました。

ただし、借地借家法の適用のある賃借権については、この期間内での終了が確保されません。こうした性質を持つため、借地借家法の適用のある賃借権の設定に関しては、基本的に共有者全員の同意がなければ無効と解釈されます。

基本的に、大家さんが所有する一般的な居住用アパートなどは借地借家法が適用されますから、こうしたアパートについては共有者全員の同意が必要、ということです。

「相続」はどう変わった?
相続に関しては、近年ルールが大きく変わりました。具体的にみていきましょう。

「相続」は民法改正でどう変わった? 「遺産分割」 新ルールも

(1)相続放棄しても保管義務が続く?

2023年改正前の民法では、家庭裁判所が、相続財産の管理人を選任するなど相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを、(1)相続人が相続の承認または放棄をするまで(旧民法918条2項)、(2)限定承認がされた後(旧民法926条2項)、(3)相続の放棄後次順位者への引継ぎ前(旧民法940条2項)、という具合に、相続の段階ごとに設けていました。

補足説明:相続の3つの方法

単純承認…プラスの財産もマイナスの財産も全部含めて相続する、最も一般的な方法。

限定承認…相続で得た財産を限度に、借金の負担を受け継ぐ方法。プラスの財産の方が多かった場合は、その分を相続できる

相続放棄…文字通り、相続を放棄する方法。

しかし、相続人が不明の場合や、相続人が判明していても、単純承認後から遺産分割前までの期間は、相続人に代わって保存行為を行う管理人を選任できず、相続人が適切な保存行為を行わないことで近隣不動産の所有者などが被害を受けることがありました。

そこで、今回の改正で、相続の発生から相続に関する手続きが終了するまでのすべての場面で利用できる統一的な保存型相続財産管理制度が創設されました。

また、相続放棄者が放棄時に相続財産を占有しているときには、相続人または相続財産清算人に対して、その財産を引き渡すまでは自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならないことも明記されました。

補足説明:相続財産清算人とは

相続人が不在の場合などにおいて、被相続人の債権者などに対して、被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、残った財産を国庫に帰属させる役目を持った人です。

家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、いつでも、相続財産清算人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができます。

ただし、相続人が1人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、または相続人不明の際に成立する相続財産法人の清算人が選任されているときはできません。

実際には、相続財産の管理費用を捻出するため、その職務に照らして必要かつ相当である範囲内で、相続財産の一部を売却する程度です。

空き家の撤去には1件あたり100万円以上かかることが珍しくなく。前述の通り、これまで、相続人が負債を抱えたくないがため相続放棄をした結果、その不利益が地域の税金、地域の住民に及ぶという不都合な結果を招いていました。

2023年改正で相続財産管理制度が見直されたことに伴い、空き家問題への相続財産管理制度の活用が進む可能性があります。その結果、空き家などの管理に関し、相続財産管理人などの選任が申し立てられ、管理人などから相続放棄者への義務違反が追及されることも考えられます。

(2)長期間の放置はできないように?

相続が発生したにもかかわらず、不動産等の遺産について遺産分割がされないまま長期間放置されると、その間に相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有状態となり、その一部が所在不明になるなどして、所有者不明土地が発生することが少なくありません。

遺産分割の際には、法律で定められた相続分(法定相続分)等を基礎としつつ、個別の事情を考慮した具体的相続分を算定するのが一般的ですが、遺産が分割されないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れることから、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがあります。

そこで、今回の改正で、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、原則として、法定相続分(法律が定めた遺産の取り分)または指定相続分(遺言によって指定された遺産の取り分)を分割の基準とし、具体的相続分(亡くなるまで介護をしたなどを考慮した遺産の取り分)を適用しないことになりました。

その結果、相続人が具体的相続分による遺産分割を求める場合には、基本的に、10年が経過する前に遺産分割の請求をする必要があることとなります。

ただし、次の場合には、引き続き、具体的相続分により分割されます。

  1. 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割請求をしたとき

  2. 10年の期間満了前6カ月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合で、その事由消滅時から6カ月経過前に、その相続人が家庭裁判所に遺産の分割請求をしたとき

なお、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合にも、具体的相続分による遺産分割が可能です。

こうしてみると、民法1つとっても、不動産にかかわる分野でさまざまな改正が行われていることがわかります。

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