見出し画像

コトバ化の鉄人「高校球児へのコーチング」

これは、鉄人コーチ集団 「Withコーチ」 の "コトバ化の鉄人"こと、星野良太が、2020年に夏の甲子園が中止になってしまった球児に向けてどうコーチングするかを綴ったものである。鉄人コーチとは困難な現実・テーマに、タフに楽しく気迫を持ってwith(伴走)する、強さとしなやかさと愛に溢れるコーチのことを呼ぶ。


長年、努力の源泉となっていた目標が奪われてしまう。それも、到底自分の努力では挽回できない事態によって。きっと悲しくて、やるせない感情でしょうね。


素直な話、彼らの感情を第三者であるぼくがどうこうできるとは考えられないです。ただ、同じ様に取り返しのつかない事態に遭って、生きる意味を失った様な空虚な感情を抱いた経験ならぼくにもあります。今回の事態とは違ってとても個人的な範疇での話なので、今全国で何万人も一緒に落ち込んでいる球児たちと同じ感情を共有できるかどうかは、これも正直なところわかりません。

ですが、少なくとも自分の場合はその似たような状況を乗り越えることができている。そして今振り返ると、その経験によって得たものがあることがわかっています。ぼくは個人的にこうした考え方を視野の長期化、未来からの視点、と呼んでいます。あとから振り返れば、不幸な体験が自分に共感力と繊細さ、勇気を与えてくれているのに気付ける。この視点が持てるようになると、今直面している事態の自分にとっての深刻さレベルを下げることができます。同じように球児がここに至れることをこの案件のゴールと置いてみます。


では、どうやってそこまで至るのか。一言で言うと、共感できる状態にまでコミュニケーションをとる、ということになるかと思います。たとえば、こんな流れです。

「わかるわかる、おれも昔こういうことがあってさ…」などといきなり共感には入れません。感情はその人個人のオリジナルなもの。もし自分だったらそんな簡単に共感した振りをしてくる相手は、軽薄な無神経偽善者クソ野郎だと無視すると思います。球児がぼくと同じくらいひねくれた天邪鬼な可能性もありまので、100%の共感はない前提として、まずは球児が感じている感情のイメージを自分なりに抱くための情報収集をすると思います。


球児に対して、恐る恐るいくつか質問をするかもしれません。「少し聞いてもいい?いつ頃から野球をやってたの?」「今年のチームは結構強かったわけ?」「みんな毎日どのくらい練習してたん?」など。球児が質問に答えてくれれば、ですが、徐々に「あぁ、そんなに頑張っていたのなら、晴れ舞台を奪われてそりゃ悔しいよなぁ」とぼくが思えるようになるまで相手の状況を共有してもらいます。何もない状態からの嘘くさい共感ではなく、ある程度の状況共有があった状況からの共感であれば、ぼくレベルに天邪鬼だったとしてもまだ受け入れられる。ただし、球児が抱えるショックの大きさによっては、1日でそこまで至れないとも思います。球児の状況を探りながら、ある程度の時間をかけて徐々に情報と感情の共有を進めていくと思います。

ちなみに個人的な知見として、何かショックを受けた時には、それをじっくりと直視した方がいいと考えています。見ると嫌な気持ちになるから、触ると痛いからと、見ないように話題に触れないようにしてしまうと、いつか自分の心の手の届かないところで常に憂鬱さを放つ素になってしまう。何によって、自分がどんな影響を受けたのかをはっきりさせられれば、長期的には言い方は陳腐ですが、学びになり、経験になる。でも、自分ひとりで対峙するのは怖いし億劫。その抵抗感を少しでもなくせる存在。それが多分ぼくたちは目指している役割のひとつだと思います。

さて、話をする様になって数週間。球児がこちらの共感を受け入れてくれる関係性が徐々にできてきたとしましょう。折に触れて発するぼくのおやじギャグにも反応し始めるほどの状態になった頃、球児にこれからどうするかを聞くと思います。

「人間は、自分を無条件に受け入れてくれる他者の存在があれば、自ら快方に向かう」

これは、カール・ロジャーズという人が至った一つのセオリーです。大学生のときに出会って以来、ぼくはこの言葉をよく思い出すようにしています。「無条件」というのが曲者ですが、ぼくも経験上これがある程度確からしいと感じています。出会った人全員に「無条件」には到底なれませんが、この人の助けになりたい、と感じた時には目指すようにしています。

ちなみに、ぼくはおやじギャグがヘタです。まだおやじになり切れていないのかもしれません。そんなぼくのお寒い挑戦に好意的な反応を示してくれる関係性が築けていれば、おそらく球児は今回の事態を乗り越える視野を得られていると思います。

ちなみに現実には、日常的に球児たちのそばにいる方々がこうした対応をそれぞれの考え方を基にされていることと思います。球児の皆さんの周りに、優しいつながりがありますように。

コトバ化の鉄人 星野良太
聞く→コトバ化。幼いころからとにかく読書好き。受験期に読んだ本から心理学に興味を持ち、大学は心理学部へ。ある日図書館で出合ったカール・ロジャーズの「受け入れてくれる存在があれば、人は自ら望む方向に向かう」という考えにビビビとくる。2005年からコピーライターとして企業や人への取材を続ける中で「聞く力」の存在に興味を持ち始め、2009年に自身でもコーチングを受け「主体的に生きようとする人にとっての聞き役」という役割の重要性をはっきりと知る。その後、進路に悩む大学生への支援や場づくりにも取り組み、2016年には奄美大島に移住し地元の高校生たちを対象にした塾を運営。企業や人が目標に向かう過程を見るのが大好き。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?