マシュマロ課題 チャレンジ課題5


お題:生きている稲妻
必須要素:右ストレート


強烈な右ストレートが頬を打つ。衝撃でほとんど何も考えられなくなりそうだ。
“生ける稲妻”と呼ばれる最強のチャンピオンから食らった一撃は、俺の自信も、これまで積み上げてきた戦歴も、全て吹き飛ばしたように思えた。

あの試合から間も無く、俺はボクシングを引退した。
幸い、そこそこ人付き合いが上手かった俺は、コーチの伝手で営業の仕事を得た。あのチャンピオンと戦ったというのは、営業の良いネタになった。それがきっかけで上には上がいると知ったと言うと、謙虚だと評価してくれた。
そうして十年も過ぎれば、ボクシング人生よりこっちの方が長くなる。俺は生まれついてのサラリーマンみたいになっていた。
もう、すっかりボクシングへの情熱なんて忘れてしまっていた。

でも、あいつは忘れていなかった。

早朝の土手を歩いていたら、鬼気迫る様子で走り込みをしているあいつがいた。
着てるものはクタクタで、シューズも破れてて、人生うまくいってるようには見えなかった。
––––何やってんだよ、もう四十近いだろ。試合に出たって勝てるわけがねえ。もっと器用に生きろよ。

だが、あいつの目は未だ稲妻みたいに鋭かった。

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