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序章「初恋」

 いつの間にか、彼のことを好きになっていた。

 放課後、今日は月曜日。グラウンドを使用しているのはサッカー部だ。
 彼が、仲間たちとグラウンドを走っている。僕は教室の窓から、彼の姿をずっと眺めていた。

 一緒に走る同級生たちから、からかわれて突っつかれたりぶつかられたりするたびに、彼の大声がグラウンドから響いてくる。

 何するん?
 やめろ!

 彼が反抗するたび、周りは更に面白がる。
 でも、いじめられてるわけではない。
 みんな、彼のことが大好きなんだ。構ってもらいたいから、わざと彼を雑にイジり、怒らせる。
 そして彼も分かってるんだ、自分がいじられやすいキャラだってことを。だからいちいちキレ返す。そんなホントは真面目で律義な彼を、嫌いになる人はいない。

 僕は遠くから彼が仲間たちと戯れあってるのを見届けてから、カバンを持って教室を出る。今日は塾がある。学校から直接、駅に行き、電車で塾に向かう。

 駅までの道を歩きながら、これが恋なのかと思う。小学校の頃、女の子に告白されることがあった。中学に入ってからは、お付き合いしたこともある。でも、何だか付き合うっていうことより、人を好きになるってことがどんなことかよく分からず、結局お別れしてしまった。

 恋愛感情って何だろう。よく分からないまま中学3年生に上がった。卒業したら、一流大学を目指せる私立の男子校を受験するつもりだ。もし合格して入学できたら、もう女性とは縁遠い生活になるのだろう。

 もう恋なんかできないまま、大人になると思ってた。かわいいアイドルグループにもきれいな女優さんにもハマるほどの興味が持てず、暇があれば街中でオシャレな洋服を探して巡ったり、映画館へ行ったり。それで十分、毎日が楽しかったし、何の不満もなかった。
 でも、彼への想いに気づいてしまってから、僕の心はずっと何だか、落ち着かない。

 僕は本当に彼のことが好きなんだろうか。これがいわゆる恋愛感情ってやつなんだろうか。四六時中、隙があれば真っ先に彼のことを考えている。きっと彼は地元の公立高校を受験するのだろう。卒業したら、僕らは離れ離れになってしまう。

 告白するべきなんだろうか。

 嫌われるのが怖い。バカにされるのが怖い。あいつは男が好きなんだって、噂が広まってしまうかもしれない。 

 でも僕は彼が好きだ。

 できれば卒業しても、ずっとずっと、一緒にいたい。学校は別々になっても、放課後とか休日とか、会える時間はあるだろう。もしなかったら、なんとかして僕が作る。

 僕は彼が好きだ。彼のそばにいたい、一緒に同じことで笑いたい。彼に関するいろんなことを、もっともっと知りたい。

 好きだ、いつか告白しよう。でも、いつ?受験勉強に集中しなきゃいけなくなる夏休み以降なんて遅い気がする。

 二人っきりになれる時がいい。でも、いつ?修学旅行も終わったし、そんなチャンスなんていつ訪れるんだろう。

 でも、チャンスを見つけたら、すぐにでも告白するしかない。そう覚悟を決めた。


※当章はしばらくの間、無料公開の予定です。





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