ツバキ文具店 小川糸 幻冬舎

 恒例、本屋大賞候補作という事でもなく、発表前に読んでいたこの本。

 雨宮鳩子は、海外放浪生活を経て鎌倉に帰ってきた。先代=祖母の営んでいた代筆屋を継ぐために。文具屋を表の仕事として営みつつ、代筆屋として様々な依頼を受ける。絶縁状、借金のお断り、亡くなった父親に変わっての恋文等々・・・ 鎌倉の街並みに過ぎゆく季節とともに鳩子=ポッポちゃんは代筆屋として歩み始める。

 大きな事件は起こらない。淡々と代筆仕事を受けて仕上げるポッポちゃん。少しづつ広がっていく周辺の人達との交流が、暖かで優しい。厳しかった先代の思い出を思い出しつつ、間に合わなかった自分を少しだけ攻めるポッポちゃん。そんな想いは自分の中だけにとどめ、受けた仕事に戸惑いながら進めていく。

 事件も大きな転換も無いが、不思議に心あらわれていく。そして不思議な読後感を与えてくれる。裏のバーバラ婦人、昭和な男爵、あわてものみたいなパンティー先生。そして終りごろに登場するQPちゃんが可愛い。

 周辺の人々が織りなすなかで、彼女が素直に立っているのが見えるような気がする。素敵な街、鎌倉を舞台に心がすっと落ち着く優しい物語だった。

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 この本の印象だけで、「鎌倉!!いい街!!」と思えてしまう。不思議。


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