秘密ということ(小さな国のつづきの話より)

コロボックルの秘密を胸に秘める人がいる。

 たぶん、おいそがしいと思いますので、直接お返事をいただかなくてもかまいません。でも、いつか続編をお書きになるときに、どこかへちょっとつけくえわえておいていただけましたら、と思います。
 どうかよろしくお願いいたします。
杉岡正子
追伸:わたしがこびとを見た、といったら信じていただけますか?

(小さな国のつづきの話 より 引用)

秘密というものは、ひそかに抱かれる。それはたとえばこんなものだ。

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打ち明けられない想いを抱いて、出す宛の無い手紙を書き続けること。
宛名だけ書いて鞄の奥底にしまい込み、そのまま捨ててしまうこと。

教壇の花瓶の花が、月曜の朝にはきちんと変わっていること。
校庭の端っこ、右から三番目木の下から四番目の枝にキジバトが巣を掛けていること。

忘れて困っていた教科書を、こっそり貸してもらったあの子のこと。
泣きながら帰った日に、そっと気遣いながら後ろからついてきてくれたあの子のこと。

友達と大喧嘩して別れた後、夜道で見上げた凍てつく月の恐ろしさ。
仲直りして、別れ間際の相手の瞳に浮かぶもののいとおしさ。

長い旅の果て、やっと巡り会えた一冊の本への想い。
数百万冊の本の山から探し出した一遍の詩への感謝。

沈黙の地下洞窟、炎をはく竜に守られたダイヤモンドのように
堅い貝殻に守られた柔らかいカラダに覆われた真珠のように
固くて、脆くて、堅牢だが傷つきやすく、きらめき透き通った小さな秘密。
「時間」という道具で練り上げて、「想い」というナイフで削りだした
大切で唯一無二の宝物。

 追伸:わたしがこびとを見た、といったら信じていただけますか?


人には語れない、信じてもらえない、言ってもわかってもらえないことは多々あります。言ってしまうのは、あまりにもったいなく、貴重で、ちょっとだけ高価なものもあります。手に入れるために、はてしない時間を、かけたものもあります。そんな「きらきらしたものたち」の中には「秘密」というものに姿を変えてしまうものがあります。かげがいのない「秘密」。それはいとおしい宝物に変化して行きます。なぜなら「秘密」とは、本当に信頼しあう間柄のものだけが交わす、形のない鍵だから。
(6/4 '2002 推敲でUpdate)

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コロボックル物語とは、結局、コロボックルの秘密と繋がっている。それが絵空事か、真実に近いか、人それぞれだろうな・・・


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