ふしぎなおばあさん
ファンタジーの題材を「天気」に求めるのは難しいようだ。実際、天気を題材にした傑作というのは、ちょっと思い浮かばない。素人考えでも、発想的が安直に流れてしまうことがわかる。雨が止んだり、豪雨になったりとか、変なものが降ってくるとか。傑作の部類にはいるのは、「はれときどきぶた」ぐらいかとも思う。
そんな中、佐藤さとるのお天気ファンタジーというと、この話になる。
雨の日の帰り道、マユミは、雨でぐちゃぐちゃの道を帰ってきた。ふと気がつくと、後ろからふしぎなおばあさんがやってくる。なんと、おばあさんとマユミは土手の横を歩いていた。左には、畑が壁のように立ち上がり、右には黒い雲があったのだ・・・
手慣れた語り口で、佐藤さんは、土手を左90度傾けてしまう。自分の体が傾いたかのように錯覚するほど、あざやかに雨の土手を歩く気分にさせてくれる。なんとも見事な描写である。おばあさんの正体も、マユミと歩いた理由も、面白く、楽しいものだ。思わず「くすっ」と微笑みたくなる。 そうそう、一昔前なら、ちょっと郊外に出かければ、マユミが歩いたような土手道はそんじょそこらにあったのだ。そう思いながら、もう一度読み返すと、なつかしいある描写にたどり着いた。「白くて大きな五十円玉」。そうだ、50円玉は白くて大きかったのだ。
ちょっと、なつかしい風景のある、そんな話である。
===
考えてみると、佐藤さとるさんの「おばあさんの描写」は、なかなか上手い。佐藤さん繋がりで行くと柏葉幸子さんも上手い。二人のおばあさんの話は、飛び切り美味しいお話である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?