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対人支援の現場における「つなぐ(リファー)」とは何か?-ソーシャルワークの文脈から考える-

「つなぐ」、「ツナグ」、「繋ぐ」

「支援に繋がっていない人を適切な支援につなぐ」
「目の前にいる人が抱えている問題を解決・軽減するために必要な社会資源につなぐ」

さまざまな対人支援の現場で使われる「つなぐ」という言葉がある。

また、生活問題の堆積を予防する観点から、

「もっと早く(制度やサービスなどの社会資源と)繋がっていればよかったのに」、
「(問題が重篤化する前に)早期介入するためには、早期につながり、つなげなければならない」

などというように語られることもある、「つなぐ」


これを読んでいるみなさんは対人支援の現場に身を置いている、関係している方がほとんどだと思うが、「つなぐ」をどのように定義しているだろうか。

本エントリでは、対人支援における「つなぐ」ついて、ソーシャルワークの文脈からお伝えしていきたい。

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1.機能/方法としての「つなぐ」


まずは、「つなぐ」を機能として捉えてみたい。

「うちの組織では(組織の役割として)サポートすることができない」

「うちの組織は(対象者を)サポートする上で「適切」ではない=サポートはできるが、ほかにもっと適切な組織がある」

「(目の前にいる人も気づいてはいなかったが)この人にとって、〜というものが必要だと判断できる」

言い換えれば、

・相手のニーズを自分(自組織)では充足できない。

・相手のニーズを自分(自組織)よりも適切に充足できる人(組織)がある。

・相手は気づいていないが、〜というニーズへの対処が必要だと判断できる。かつ、そのニーズへの対応は、自分(自組織)ではできない。


対人支援の現場で、対象者と支援者とのあいだに、このような状況があるとき、「つなぐ」という言葉が、立ち現れる。

こういった場合の「つなぐ」を、ソーシャルワークでは「送致(リファー)的機能」という。

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また、ソーシャルワークにおける介入方法は、「直接的介入」、「間接的介入」の2つに大別できる。

「つなぐ」は、言い換えると、「間接的介入」である。

つまりは、「つなぐ」とは、ソーシャルワークにおける送致機能を果たすための介入手段の1つである。

そう。当然のことだが、「つなぐ」は、手段であり、目的では、ない。

「つなぐ」を、「間接的介入」の方法としてとらえたとき、「つなぐ」前に為すべきことは、おのずと、明らかになる。

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2.「つなぐ」まえに為すべきこと


前項では、「つなぐ」を、機能と手段の観点から説明をした。

「つなぐ」とは、ソーシャルワークにおける送致機能を果たすための介入手段(間接的介入)の1つである。


ソーシャルワークを学んだ人であれば、お分かりだと思うが、
「つなぐ」を間接的介入とするならば、介入(インターベンション)の前段階である、アセスメントなしには「つなぐ」に至らないということになる。(ソーシャルワークのプロセスは一般的に以下のとおりである)

以前、「すべてはアセスメントからはじまる。-アセスメントの範囲を広げよ-」で記したとおり、アセスメントは介入(本稿でいう「つなぐ」)の根拠である。

根拠としてのアセスメントが丁寧になされない上での介入は、たんなる「思いつき」、「なんとなくの勘」というように評されても仕方のないものと化す。

アセスメント力は、ソーシャルワークの核となるスキルであり、実践現場で取る行動(介入)の根拠であるゆえ、質の低いアセスメントは、クライアントへ不利益を被らせることに直結する.(時に、命を落とすことにもつながりかねない)

「つなぐ」という行為もまた、ソーシャルワークにおける送致機能を果たすための介入手段(間接的介入)の1つである以上、アセスメントという名の「つなぐことが必要な根拠」を丁寧にみていく必要があるのは言うまでもない。

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3.より適切な「つなぐ」を為すために必要なこと


本稿においては、対人支援の現場で用いられる「つなぐ」という言葉、行為を、ソーシャルワークの機能、機能を果たすための方法の観点からお伝えをしてきた。

本校のさいごに、より適切な「つなぐ」を為す、すなわち「より対象者にとっての利となるような間接的介入を実施する」上でのポイントを個人的な経験から得た私見を踏まえてお伝えをしていきたい。

「つなぐ」とは、ソーシャルワークにおける送致機能を果たすための介入手段(間接的介入)の1つである。


上記の定義を採用するのであれば、まずは、『対象者をつなごうとしている他機関(他の社会資源)のアセスメントを為すこと』が必要になる。

上記は、対象者へのアセスメントと同等に重要なことである。

前提として、とある社会資源が対象者のニーズに最適かどうか、対象者が主体的に社会資源を活用できそうか否かを判断するために、社会資源の把握・理解が必要になる。

最低限、上記3点については、自分なりの整理された情報を有しており、くわえて、暗黙知として自己内にとどめるのではなく、チーム、部署としての情報として共有していくことが望ましい。

各機関がどのようなルールに沿って動いているかを理解するには、根拠法をおさえるといいというのも基本的なことだが、抜け漏れやすいことでもあるので留意したい。

「役割や機能」、「根拠法」この2つがおさえられていると、間接的介入をおこなうための他機関とのコミュニケーションがより適切に効果的に、余計なコンフリクトを可能な限り生じさせず、為すことにつながる。


また、各機関に、どのような職員がいるのか(キャラクターなども含め)までを熟知していると、各機関の担当者へ対して間接的介入のためのコミュニケーションに「戦略」をもつことができる。

論理的なアプローチは、「役割や機能」、「根拠法」をおさえていることが重要になるが、感情的なアプローチ、(イメージとしては、あなたにこのケースにおいてメンバーになってほしい、と口説く)を為すためには、相手のキャラクターを認識し、自分なりの深い理解をしておく必要がある。


以上、簡単にではあるが、ソーシャルワークにおける送致機能を果たすための介入手段(間接的介入)としての「つなぐ」さいに必要なこと(準備しておくこと、なすべきこと)についてお伝えさせていただいた。

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いかがだっだだろうか。

本稿では、さまざまな対人支援の現場で使われる「つなぐ」という言葉を、ソーシャルワークの観点から読み解き、「つなぐ」を為す上で考えておくべきことについて記してきた。

以前のエントリでも記したとおり、「つなぐ」の前提には、「アセスメント」があり、アセスメントにおいて、「生活上の困難・不安を抱えている人々は、困難や不安を生み出す社会構造の欠陥を教えてくれる存在」であると眼差しを変えたとき、現場において出会う人たちがソーシャルワーカーに教えてくれるものが、社会を変えるための種であることに気づく。

「つなぐ」という対象者を支えるための手段が目的化することのないよう、丁寧なアセスメント、言い換えれば、「ヒントやこたえは常に目の前にいる人(クライアント)が持っている」ということを忘れずに、現場に立つことを胸に留めておきたい。(自省を込めて)

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参考書籍:
「ソーシャルワークの理論と実践: その循環的発展を目指して」 
「ダイレクト・ソーシャルワークハンドブック」

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