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日本における申請主義の現状と課題

「ポスト申請主義について考える勉強会」の配布レジメを公開します。参考書籍・文献のサマリーになっています。写真になっているので、スマートフォンからはみづらいかもしれません。自由にお使いください。(2019年1月7日:画像貼り付けで見にくかったため、ドキュメント化しました)

当日は、行政、議員、データサイエンティスト、IT起業家、ソーシャルワーカー、博士課程学生など12名の方にご参加いただきました。

次回以降、今回の議論を踏まえて、課題別に輪郭をもう少し明らかにして、大小さまざまソリューションを刺していけたらと考えています。

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日本における申請主義の現状と課題

1.日本の社会保障制度

⑴.憲法と社会保障

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない(憲法第25条)


⑵社会保障制度の方法

⑶社会保障の領域

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2.申請主義の歴史

⑴現行の社会保障制度が申請主義を採っている理由

戦後制定された旧生活保護法(1946)には申請する権利は認められておらず、市町村長が生活保護が必要だと認めた場合にのみ生活保護制度を利用することができた。

・保護請求権は無い。法廷で争う法的根拠はない。
・不服申立て制度もない。

上記は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するとした憲法25条の精神に反するとして、最低生活を営むことを求める権利として、保護請求権が現行の現生活保護法(1950)第7条に盛り込まれた。

申請保護の原則(第7条)
生活保護は原則として要保護者の申請によって開始される。保護請求権は、要保護者本人はもちろん、扶養義務者や同居の親族にも認められている。
ただし、急病人等、要保護状態にありながらも申請が困難な者もあるため、第7条但書で、職権保護が可能な旨を規定している。第7条但書では、できる、とのみ規定されている職権保護は、第25条では、実施機関に対して、要保護者を職権で保護しなければならないと定めている。


⑵申請主義と職権保護(主義)


・保護請求権を行使できない者や行使することが困難な者がいることから、必要である場合は、申請がなくとも職権保護を行うことができるようにした。(生活保護を必要とする人が生死にかかわるような差し迫った状況にあるときは,本人の申請を待たずに市町村長が職権で保護を開始するなど)


⑶措置制度と契約制度と申請主義

・生活保護に限らず、戦後整備された障害者福祉、高齢者福祉などのサービスが理念的には生存権保障の一環として位置付けられたが、措置制度を前提としていた。(措置制度は,福祉サービスを受ける要件を満たしているかを判断し、また、そのサービスの開始・廃止を法令に基づいた行政権限としての措置により提供する制度)

・1990年代、社会福祉基礎構造改革以降、利用者との契約で行われるのは契約制度への移行がすすみ、福祉サービスが選択や申請を前提に提供されるようになる。(介護保険制度導入により介護サービスの提供の仕組みが措置から契約に変更となった。障害者自立支援法も含めて現在の福祉サービスのほとんどは契約制度に変更となっているが、虐待等の理由により契約によってサービスの提供が出来ない場合などには措置制度が適用される)

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3.申請主義の課題

現行の申請主義は、利用者が物理的にも能力的にも選択と申請の手続きが可能な状況にあることを前提としている。それゆえ、それを為すことが難しい人たちが制度にアクセスできていない現状がある。国際的に見て日本の公的扶助の低い捕捉率は広く知られているところである。

⑴行政機関の広報・教示義務(市民への情報提供)
申請主義をとる以上、申請権を行使できるよう、どのような制度があり、条件はどのようなもので、どのような時に、どこで、どのような手続きをとればよいのかを周知する、行政機関の義務が明確になっていない。

・社会福祉法
現状、行政ホームページやチラシでの情報提供等の施策にとどまっている。

第八章 福祉サービスの適切な利用
第一節 情報の提供等(情報の提供)第七十五条 
1 社会福祉事業の経営者は、福祉サービス(社会福祉事業におい
て提供されるものに限る。以下この節及び次節において同じ。)を
利用しようとする者が、適切かつ円滑にこれを利用することができ
るように、その経営する社会福祉事業に関し情報の提供を行うよう
努めなければならない。

国及び地方公共団体は、福祉サービスを利用しようとする者が
必要な情報を容易に得られるように、必要な措置を講ずるよう努
めなければならない。※つまりは『努力義務』にとどまっている

・海外の例

ドイツ(社会法典)
啓発義務(13条)、助言・相談を受ける権利(第14条)、情報提供義務(第15条)、管轄外の役所に申請がされた場合の管轄給付主体への移送義務(第16条)
スウェーデン(社会サービス法)
広報義務、情報提供義務(第3章1条)、当事者の情報提供を受ける権利(第3章4条)
韓国
社会保障給付の内容、要件と手続き等について、保障機関の情報提供、広報義務が定められた。(2014年12月の「社会保障給付の利用・提供及び受給権者の発掘に関する法律」の制定)以降、政府がキャンペーン『「死角地帯(需給漏れ層)の縮小を』を行い、イラスト入りパンフレット、地下鉄の広告、制度内容啓発漫画、動画コマーシャルなどをうち、生活基礎保障の受給率は2.6%(2014年)→3.2%(2016)に増加。

韓国の生活基礎保障法の対象範囲拡大を知らせるポスター
http://reporter.korea.kr/newsView.do?nid=148791518


⑵申請手続き

情報を得て、自分の困りごとにあった制度を見つけることができたとしても、「申請」までに障壁が存在している。

・「受理」までのハードルの高さ

必要書類を全て揃えて提出し「受理」とされる。

能力的/時間的に書類を揃えることが難しい人たち
窓口時間に申請に行くことが難しい人たち
・生活保護の「水際作戦」と称される「申請」さえさせない対応
・国外の例(イギリス)
1966年に制定された社会保障法によって、郵便局に備えられた申請書に住所氏名を記入して投函すれば申請手続きが可能となり、受給し易くする方法が取り入れられた。
・申請から受理プロセスにおける伴走支援の乏しさ

受理までのハードルが高いが、そのプロセスを伴走してくれる公的支援は乏しく、インフォーマルなサービスに頼らざるを得ない状況。(インフォーマルな支援団体の弁護士や社会福祉士が申請同行、申請手続き支援を行うなど)

物忘れ等の認知症の症状や知的障害、精神障害等によって必要な福祉サービスを自身の判断で適切に選択・利用することが難しい方を対象にした福祉サービス利用援助事業【日常生活自立支援事業、地域福祉権利擁護事業】などと呼ばれるものは存在するが限定的。


⑶行政窓口の職員の専門性不足

困って、行政窓口に行ったものの、職員の知識不足、誤った知識の伝達により、必要な制度にたどり着けないことが生じている。
また、行政職員の対応が、相談者の行政不信を生じさせ、再びの制度へのアクセスを妨げてしまうこともあることが報告されている。

⑷ほか
法の名称変更を通したスティグマ軽減策

韓国:生活保護法→国民基礎生活保障法(1999)に名称変更
ドイツ:社会扶助法→求職者基礎保障法(2005)に名称変更


参考文献・資料
六波羅詩朗(1991)『イギリスと日本の公的扶助制度の比較』長野大学紀要 
古川考順(2001)『社会福祉の運営』有斐閣
小山進次郎(2004)『改訂増補生活保護法の解釈と運用(復刻版)』全国社会福祉協議会
小川政亮(2007)「権利実現の手続き法」小川政亮著作集編集委員会編『小川政亮著作集1人権としての社会保障』大月書店
山本真生子(2013)『諸外国の公的扶助制度 ―イギリス、ドイツ、フランス― 』調査と情報第789号 http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8206063_po_0789.pdf?contentNo=1
生活保護問題対策全国会議 (編)(2018)『これがホントの生活保護改革 「生活保護法」から「生活保障法」へ』明石書店
菊池 馨実(2018)『社会保障法 第2版』 有斐閣


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