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📙雲の上の世界〜生まれ変わり編〜

「彼女が待っているんだ!まだ死ねない!」と思ったのも束の間。

俺は、白い雲の上にいた。
一列に並んでいる最後尾に俺はいる。

この先に美味いラーメン屋があるわけではない。

生まれ変わるため、また一から人生の設定をし直す。輪廻転生のために並んでいるのだ。

後ろから剣で刺されて死んでから、体から魂が抜けて、ここに来るのは秒もかからなかった。一瞬だった。
光の速さのように一瞬にして真っ直ぐに天に到達した。

悔いを残してるというのに。

けれど、天についた今、彼女のことも村のこともどうでもいいような気がした。
ここは、そういう気分にさせる。
投げやりというわけではない。本当にあとは、サイクルに任せるだけ。
そんなに重要なことではない。
無意識にそんな感覚にさせる。

ここに一列に並んでいる魂は、次の人生のために並んでいる。
天国と、宇宙の狭間だ。

並んでいる魂は、薄くて白い。人間の形はしていて頭が見えるが、ボヤッとした白いものだ。
物体でもない。白い影がモヤッとある。そんな感じだ。

長くかかるだろうな。
そう思ったが、ここは、束の間の安息地だ。
生きている時の痛み、苦しみ、悲しみがない。
寂しさもないし、空腹になることも、人に苛立つこともない。
そのかわり、笑うような楽しいこともないが、
ほとほと疲れた俺にとって、ここは安息の地だ。

金を無心することだってないのだ。

ただ不安はある。
また地球へと人間、いや生き物としてまた生まれ変わらなければならない。

その境遇、環境がいいものとは限らない。

不自由な体に産まれる可能性もあるし、劣悪な環境のもとに生まれるかもしれない。

いまから、そうならないよう仕分け人に交渉するのだ。

仕分け人とは、今魂が並んでいる先にいる。
来世の状況を決める役割をしている天使だ。

地獄へ行く、天国へ行くという裁きをするのではない。
次、生まれ変わる設定をする役割をしている。

地球上のどの国へ生まれ、性別はどっちで、どう言った環境や親で、何が苦手で何が得意で、どう言った体質で。血液型は?生まれる日は?
何の職業をするのか?

そう言ったことを決める。重要な交渉だ。

半分くらいはこっちの意見も取り入れることができる。追々話しながら決めていく。
変えられないこともあるが、それ以外は聞こうとはしてくれる。

調整、決断をするのだ。

では、何故並んで輪廻転生をしなければならないのか。
それは、後々話すこととする。

仕分け人は一人だ。
前回は散々な人生だった。だから、今回仕分け人に文句を言ってやろうと思う。

並んでいる間俺は、雲の下を覗いた。
地球に注視する。

雲から視界が開けて宇宙、地球、目的地が次第に鮮明になってくる。
アップしていくとでも言えばいいだろうか。
目的地に着くと、街の景色を高いところから見おろしている。そんな感じになる。

雲の上についてから、少し進んだ間に、地球も進化していた。
見下ろすと、暗い気持ちになった。

地球全体が争いをしていた。暗い光景だった。
街は焼け、人々が苦しみながら死ぬ。
建物も自然も何もない。
人々の活気もない。ただただ苦しんでいる世界だった。

俺はそれを見て、気持ちが沈んだ。
これから生まれ変わる世界は戦争をしているのか。
せっかく生まれるのに、また苦しめられなければならないのか。
どんよりと魂である俺自身が暗くなった。

けれどずっと見ていると、それも終わった。

次第に高層ビルが立ち始め、高速道路がかかる。
俺らがいた頃にはなかった明かりが灯り、ネオンで夜の街は輝いた。

車が走り、人々は遊びに出かけたり楽しそうだ。

俺は心底安堵した。
俺が生まれる頃は、なんでもある。
苦しいことはほぼないだろう。

命を差し出し、苦しみなら死ぬことはないだろう。自由に行きたいところへ行き、食べたいものを食べ、楽しい経験の方ができるはずだ。

生まれ変わって苦しむのはもうゴリゴリだ。
天国では味わえない、楽しいことをどうせならしたい。

ほとほと疲れていたが、少し明るい転生の希望がみえて、安堵した。

まだまだ列は続いている。
地球を見ることをやめ、ただただ並んだ。
誰とも話さずに、全てを無にして。

邪魔も苦しみも楽しさもないここで、何も考えず、安息の地で心ゆくままに安息をしよう。

ここは唯一の安心できる場所だ。






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