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怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁

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いまだ余所者を受け入れない風習が根強く残る孤月村。その孤月村の名家である 利蔵家に町から嫁いできた雪子は 利蔵家に因縁のある曽根多佳子という女の存在に脅かされる。多佳子のことを調…
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2024年7月の記事一覧

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第41話

◆第1話はこちら 第5章 雪子の決意3 多佳子に殺される  「私……」  手にした猟銃と、喉元にあてていた銃口に雪子は目を見開く。 「私、なんてことを! いつの間にこんなもの!」  目を覚まし、そこから猟銃を持ち出した記憶がすっぽりと抜けていた。  自分の意志とは関係なく、気づけばこんな恐ろしい真似をしていたのだ。  まるで、何者かに操られたかのように。いや、確かに何者かの声が耳元で聞こえ呼ばれたような気がした。  あの声はいったい誰?  誰と問わずとも、おのずと答え

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第42話

◆第1話はこちら 第5章 雪子の決意4 古い写真   その夜、床についた雪子は、じっと布団の中で時が来るのを待っていた。  十時を過ぎた頃、青年団の集まりから帰ってきた隆史が布団の中にもぐりこむ。  やがて、隆史の寝息が聞こえてきた。  隆史が深く寝入ったことを確認した雪子は、身を起こし立ち上がると、隆史の枕元を横切り猟銃がおさめられている棚へと歩み寄る。  どうせ嫌われているのなら、何をしたって怖くない。  村に馴染もうとか、寄り添おうとかそんな考えは捨てた。  利蔵

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第43話

◆第1話はこちら 第5章 雪子の決意5 多佳子の家へ  朝になれば村全体に騒ぎは広まる。  山岡夫婦が夜中に、猟銃を持った利蔵の嫁に襲われたと。 「いったん俺の家に来い。落ち着いてから朝がくるのを待とう」  お互いを支え合いながら、二人は高木の家へ向かった。  高木の家についた雪子は薬箱を持ち出し、傷を負った高木の腕を手当する。  薬箱の場所は以前、鈴子の怪我の手当をしたときに知っていた。 「ごめんなさい、私のせいで」  消毒をしガーゼをあてると、たちまちガーゼが血で染

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第44話

◆第1話はこちら 第5章 雪子の決意6 25年前の出来事 多佳子の日記  日付は25年前のものだった。  最初は何でもない日常のことが書かれているだけで、これといって事件に繋がると思われることは書いていない。  内容も稚拙なもの。  そろそろ日記の内容に退屈し始めてきた頃、ようやく利蔵の名前が日記に現れ雪子はこくりと喉を鳴らした。  隣に立つ高木も緊張している気配が感じられた。  ここから先はどんな細かいことも見逃さないと、雪子は目を凝らし日記を読む。 「ハンカチ? 

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第45話

◆第1話はこちら 第5章 雪子の決意7 椿の木の下に  そこで、日記は途絶えていた。  それはつまり、多佳子がこの家に帰れなかったということか。 「高木さん、多佳子を見かけたのが利蔵の家で最後だというのなら、多佳子は今も利蔵の屋敷のどこかにいるのではないのかしら」 「屋敷のどこかに?」 「はい」  雪子は思い出したように、手にしていたハンカチに視線を落とす。  何か思い出したのか、再び視線をあげた。 「どうした?」 「木の下」 「木の下?」  椿の木の下。  そういえ

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第46話

◆第1話はこちら 第5章 雪子の決意8 呪われた村の真実  高木の通報により、その後、県警の刑事が村にやって来た。  二十五年前の事件が明らかになった。  とはいえ、被害者も加害者もすでにこの世には存在しない。  唯一、その時の事件に関与したと思われる人物が、当時の利蔵家当主の母であり、隆史の祖母、世津子であった。  世津子は警察の取り調べで、素直に真実を口にした。  多佳子の死の真相も、世津子の口から初めて語られることになった。  二十五年前、多佳子に執拗に迫られた

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第47話

◆第1話はこちら 終章1 利蔵さんはわたしのもの  「お世話になりました」  というのも、何だかおかしいような気がした。だが、それ以外の言葉が浮かばなかった。  夫であった隆史の前に正座をする雪子は、うなだれる彼の前に離婚届を差し出した。  届けにはすでに自分の名前と印鑑を押してある。あとは、彼に必要な箇所を書いてもらい役所に届ければすべて終わる。  それを見た隆史は顔を歪めた。  雪子が屋敷を去ることを知っているのか、あるいは聞かされていないのか、この場に世津子の姿は

『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第48話(完結)

◆第1話はこちら 終章2 多佳子の執着  ふと、背中のあたりにざわりとした感覚を覚え、雪子は立ち止まり孤月村を振り返る。  山々に囲まれたその村は、変わらず陰鬱とした気配を漂わせていた。  本当にいろいろなことがあった。  今まで悪い夢を見ていたのではないかと思うほど、さまざまなことが。  この村で起きたこと、特に多佳子のことを誰かに話しても、きっと笑い飛ばされるだろう。  それほど、不思議で奇怪なことだった。  だが、すべて事実。  再び視線を戻した雪子の目に、高木の