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はじめて白杖利用者をサポートした話

出来事

ある雨の日の夜、白杖を使っている方を見かけた。

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白杖(はくじょう、英語: white cane)とは視覚障害者(全盲およびロービジョン)等の、道路の通行に著しい支障がある障害者が、歩行の際に前方の路面を触擦する等に使用する白い杖である。
Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E6%9D%96 より

その方に気付いたのは、駅を出てすぐだった。白杖を使い点字ブロックに沿い慎重に歩いているようだった。点字ブロックがなくなるところで戸惑い、植木に突っ込んでいった。横に曲がり、お店に入るかと思いきやUターンしまた点字ブロックに戻りぐるぐるとし始めた。そこで私は声をかけた。

「何かお困りですか?」

そう声をかけると良いと、Twitterで見た記憶があったからだ。

「○○に向かいたいんですが、曲がるところを間違えてしまったみたいで…」

そう答えられた。ここで私は気付く。道に迷っている人に声をかけるのは、すなわち道案内するということだ。私は絶望的な方向音痴、目的地は知らない場所、私で助けられるのか不安がよぎる。「ちょっと調べますね」と言いGoogleマップで言われた場所を調べ「わかりそうです」と伝えた。すると「腕を掴ませてもらっていいですか?」と言われた。

少し驚いたものの了承した。知らなかったのだが、腕や肩を掴ませてあげて案内するのが一般的らしい。

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安心できるよう点字ブロックに沿って目的地へ歩いていった。「ここで右に曲がりますね」と声をかけたり、逆に「これは××の音ですか?」と聞かれ「そうです」と答えたりした。

目的地付近に来たものの、ビルの入口がわからず今度は私が迷ってしまった。「階段があるはずです」「同じビル内にファミレスがあります」など手がかりを教えてくれた。つまりこういう状態である。

 相手:目的地や周辺情報を知っているが、見ることができない
 自分:見ることができるが、目的地や周辺情報を知らない

お互いを補完し合い、声だけのコミュニケーションでたどり着いていく。通り過ぎているようだったので戻り、階段を見つけ、上ると「着いたみたいです」と言われた。実際、着いていた。なぜわかるのかと疑問に思った。恐らくは、ビル内は床の素材が変わったからだと思う。薄い絨毯のような布が敷かれており、白杖で摩擦を感じたのだろう。もしくは肌で空調を感じたのかもしれない。道中も、最後にも何度もお礼を言われ別れた。

善い行いをしたなと、少し晴れやかな気持ちになりつつ、学びを感じたり疑問がわいたりした。

疑問

1. 雨の中、なぜ傘をさしていなかったんだろう?

その方は結構な雨が降る中、ずぶ濡れで歩いていた。服や鞄は撥水性がありそうだったが、顔などは守れない。調べてみたところ次のような理由で傘をささない方もいるようだ。
・傘をさすと周囲の手がかりである音が聞こえにくくなる
・白杖を使いながら傘をさすと両手が塞がってしまう
・白杖と傘を両方持ち歩くのが荷物として多いと感じたり、取り違えたりする
なるほどと思った。雨の日の外出は困難が増えそうだ。

2. もし声をかけなかったら、どうやって解決していたんだろう?

何らかの方法はきっとあるんだろう。1つ思いつくのは、白杖を上に掲げSOSシグナルを出すことだ。

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ただ、人がまばらな夜道。自分はたまたまこのシグナルを知っていたが、知名度はまだ低く気付く人がいるとは思いづらい。雨宿りできる場も見つけられない中、掲げて立ち尽くすのはつらいと思う。
※ちなみにシグナルが広まることへの賛否もあるらしい

目的地に知り合いがいるようなら、電話して迎えに来てもらうのも手だ。その場合、どうやって自分の現在地を伝えるんだろうか。歩数を覚えていたり、音から場所を想像するんだろうか。迎えに来られる人がいなければ、どうするんだろうか。(今回はいなさそうだった)

他の手段を調べたところ、Googleマップに音声ナビ機能があるらしい。英語と日本語に対応し、iOSとAndroidで利用可能である。

日本語に対応しているのは、恐らく日本に住んでいるGoogle勤務の方が担当しているからかなと思った。地理的な条件などもあるんだろう。

こちらは良い動画で、とても便利な機能だと感じた。自分も使いたいものだ。ただ雨の中で傘をささずにスマートフォンを操作できるんだろうか。濡れた状態で操作できるのか、防水の機種しか選べないのでは、都心部の駅やその周辺は工事が多く頻繁に道が変わるが対応しているんだろうか、自分はモバイルエンジニアで興味を持って調べたが当事者にはどれほど知られているんだろうか、などと想像した。突き詰めると果てしないので調べるのはこの程度にとどめたが、ここまででも十分学びになり知見が広がった。

実際案内して気付いたのは、次のようなことだった。
・点字ブロックは途切れることがある(そういえば横断歩道にもない)
・音は聞こえる方向も含めて重要である
・もっと自分が何者か伝えたら安心できたかもしれない(近くで働いている、用事の帰りで急いでいない、など)
・斜めではなく直角に曲がる道を通る方が、帰り道を考慮してもわかりやすかったと思う
・見えるものや聞こえることを伝えて、現在地を共有できていたら通り過ぎなかったかもしれない
・慣れないことをするとちょっと焦る

サポートした理由

なぜ手助けしたのか自分で考えてみたが、あまり理由が思いつかない。自分は医療系・福祉系従事者ではないし、障害者向けの活動家でもない。わざわざnoteを書いて偽善者と思われるかもしれないが、自分にとっては長めのTweetのような独り言であり、思考の整理・記録である。

以前自分が電車内で一時的に低血糖を起こし座り込んだとき、周囲は席を譲ってくれたり「水飲みますか?」と助けてくれた。感動した。知らない人であっても助けてもらえるし、助けるもののようだ。今回もし自分が何もしなければ、後から「あの人大丈夫だったかな」と気になってしまったかもしれない。そう思うと自分のためとも言える。

そもそも、なぜ白杖利用者に気付いたかという点はある。これは恐らく、自分は夜道では周囲を見渡す癖があるからではないかと思う。過去に痴漢にあったり、不審者に後をつけられたりしたことがあるためだ。駅を出て一気に暗くなる瞬間、周囲を見渡して気付いたと記憶している。
これまで自分は、そうして警戒しなければならないことに憤りを覚えていた。なぜ被害者側がいつまでもコストをかけなければならないのかと。しかし、その結果困ってる人を見つけられたと思えば、ちょっとだけ心が穏やかになり自分が救われた気がした。

実際に体験すると視野が広がるものだな、何事もどう転ぶかわからないものだな、と思ったそんな話。

@wiroha

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