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あなたが今から(あるいは再度)「Android:Netrunner」をプレイすべきいくつかの理由

* 英文カードテキストを読解してゲームをすることが前提である。
* すでにある程度Android:Netrunnerの知識がある人は@Fobby氏作成のスライドを参照することを推奨。当記事で得られる情報は概ねこれに簡潔にまとめられている。

背景

 「Netrunner」というゲームをご存知だろうか。TRPG「サイバーパンク2020」の世界観を背景に持ち、「Magic:The Gathering」を作ったリチャード・ガーフィールドがデザインしたトレーディングカードゲームである。1996年(MtG発売の3年後)にWizards of Coastより発売された。ゲームシステム的にかなりの好評を得た傑作TCGだったが、売り上げ的にはあまり振るわず、2つの拡張セットを発売後に商品展開は終了、サポートは打ち切られた。しかしそのシステムの高い完成度から、その後も流通在庫を買い込んでいた(私のような)物好きなTCGプレイヤーにかなり長い期間、細々と遊ばれ続けてきたゲームだった。

 時は過ぎて2012年、この時点ですでにかなり古いゲームであったはずのNetrunnerは、米アナログゲームメーカーのFantasyFlightGamesにより「Android:Netrunner」として奇跡のリメイクを遂げる。世界観をFantasyFlightGames自身が展開するサイバーパンク世界「Android」シリーズに刷新し、ゲームシステムも用語を含めて各所にリファインが施されたが、システムの根幹部分への大幅な変更はなく、基本的なゲームの流れは原典そのままだった。古くからのファンも納得させる形の良リメイクだったと言えるだろう。TCGではなくLCG(Living Card Game)としてカード購入時のランダム要素を廃し、買えば一通り揃う販売形態であったことも良心的で、既存、新規プレイヤーを問わず評価は高かった。

 しかし2018年6月、FantasyFlightGamesは「Wizards of the Coastとのライセンス期間が終了」したとして、Android:Netrunnerシリーズ商品群すべての販売終了を発表した。かなりの量の拡張セットも展開されていたシリーズであり、トーナメントプレイも整備されている環境だったため、あまりにも突然の終了宣言はプレイヤーたちに大きな衝撃を与えた。発表からしばらく経った2018年10月、FantasyFlightGamesは実際に商品の販売を終了し、公式サイトからも在庫はすべてなくなってしまった。Netrunnerというゲームは再び終わったかに見えた。

NISEI

 この販売終了発表を受け、Android:Netrunnerのファンコミュニティ有志たちが行動を開始した。「Nextrunner International Support & Expansion Initiative (NISEI)」と題し、数名の著名人を始動メンバーに含むファン団体として、今後もAndroid:Netrunnerを事実上運営すると発表したのだ。始動メンバーには有名プレイヤーやこれまでのコミュニティ運営者に加えて「Duelyst」の前リードデザイナーや「Slay the Spire」のデザイナーも含まれている。彼らの言う運営とはトーナメントプレイや総合ルールなどの整備だけにとどまらず、新カード、新拡張セットの開発にまで及ぶ。おおよそファン団体とは思えないような強力さでNetrunnerというゲームの継続を牽引したのである。

 さらに、別の有志によって着実に開発されていたネット対戦環境がいよいよ完成度を高めていた。それがjinteki.netだ。デッキ構築からネット対戦まで、一通りのことがなんとブラウザ上でほぼ完全に可能な環境である。もちろんこの開発についてはNISEIも認識していたが、なにぶん有志による活動なので、NISEI側としては「jinteki.net開発者にNISEIのことを質問するなどして彼らの手を煩わせないでほしい」というスタンスだった。しかし蓋を開けてみれば開発者の尽力により、最終的にjinteki.netはNISEI準拠の仕様を実装するに至った。

 ここにNetrunnerは二度目の復活を果たしたのだ。

今プレイすべき理由その1:初心者向けの整備

 NISEIはその活動の一環として2021年3月28日、初心者向けセッティングとして「SystemGateway」を発表した。ゲームシステムの基礎を学ぶために最初にプレイすべき構築済みデッキ「StarterPack」が作成されており、その構築済みデッキをカスタムしてデッキ構築を学ぶための追加カードを含めたカードプール「DeckBuildingPack」を制定したのだ。

 TCGを新たに始めようとする際に大きな壁として立ちはだかるのが、既存の膨大なカードプールを把握するための学習コストである。全てのカードを知悉しなければゲームができないというわけではないが、強力なデッキやコンボ、そしてそれらを成立させるカード群のシナジーなどの「文脈」を把握しなければデッキ構築の醍醐味は味わえない。NISEIはAndroid:Netrunnerにおけるこの大きな壁を緩和するため、段階的に学んでいくのに最適な初心者向けの限定されたカードプールを制定したのである。

 さらに、最初の段階を踏んだプレイヤーのために、次の段階である「Startup」も制定された。これはよりトーナメントプレイに即した「フォーマット」であり、「SystemGateway」よりも幾分広いカードプールが用意されている。デッキ構築における本質的な楽しさを得られるのはこの「Startup」からが本番と言えるだろう。すでにNetrunnerの基礎を知っており、今回再入門するようなプレイヤーはここから始めるのが最適だ。

 もちろん、ここからさらにかなり広いカードプールとして「Standard」が設定されている。その名前の通りMtGにおけるスタンダードの立ち位置であり、このフォーマットでデッキ構築をするようになれば初心者はとっくに卒業していると言っても差し支えない。

 他にも、FantasyFlightGamesが最終段階で制定していた保存用フォーマット「Snapshot」、そして過去のほとんどのカードが使えるフォーマット「Eternal」が設定されている。
https://nisei.net/players/supported-formats/

今プレイすべき理由その2:ルール細部の整備

 Android:Netrunnerはルールテキストとしては過去のWoC版Netrunnerを基本的にほぼそのまま踏襲していた。これにより発生していた混乱を招くカードテキストやルールの用語など、細かい部分がNISEIにより整理されている。詳細については冒頭の@Fobby氏のスライドがよくまとまっているが、重要なのは「基本的に機能、挙動は変わらず、明文化あるいは誤解が発生しづらいよう言い換えがなされた」という点だ。これから初見でルールを把握しようとする人に対しても、ある程度ユーザーフレンドリーな環境になりつつあると言えるだろう。

今プレイすべき理由その3:Jinteki.net

 今現在も、jinteki.netはブラウザ上でデッキ構築から対戦までをこなせるネット上のプラットフォームとしてほぼ十全に機能している。さすがにすべてのカードの処理がプログラム上で自動化されているわけではなく、いくらか複雑なカードについてはプレイヤーの操作が必要になる場面もあるが、ある程度快適にプレイするための機能は実装されていると言っていい。そしてなんと観戦機能すら実装されている。もしNetrunnerがどんなものかを一度確認してみたいのであれば、jinteki.netにアクセスし、上部Playタブから現在行われている野良試合を観戦してみるのがいいだろう。(さすがにレスポンスは少し重めなので、ボタンクリックから少し待つようにしよう)
 もちろんプライベートな対戦部屋を立てる機能もきちんと実装されており、対戦機会という意味ではかなり上質な環境がすでに構築されているのだ。

注意点

 実際にあなたがAndroid:Netrunnerに興味を持ったとして、プレイするためのルールを把握する際に注意すべき点をいくつか挙げる。主にMtG(や現行の他TCG)との大きな相違点からくるものなので、そこさえ大まかに把握してしまえば、大きな勘違いは防げるだろう。

配下ユニットにアタックさせるゲームではない

 MtGを始めとする多くのTCGがそうなので、そう見てしまうのも無理からぬ話だが、Netrunnerにおいて場に出すカードで他TCGにおける配下ユニットと呼べるようなものはほとんどない。RunnerがCorpにしかけるハッキング行動であるRunが攻撃相当なのでさらに勘違いしやすいのだが、実際に攻撃行動を行っているのはRunner(≒プレイヤー)自身である。場に出されたカード群はそのための装備(Rig)などであり、多くはRunの最中にRunnerが使用するためのものだ。逆に言えば何もカードを場に出さずに攻撃(Run)を行うことすらできる。

基本的に場の変遷が重いゲームである

 他TCGにおける破壊などのように、対戦相手の場のカードを直接対処する手段はゲーム全体をみてもかなり少なく、あったとしてもコスト的に相当高価だ。(よくある勘違いとしてIcebreakerのテキストにあるBreakを破壊と扱ってしまうというものがあるが、どちらかというとこれは一時停止の意味だ)このため、出されたカードを排除するのではなく、いかにかわすか、いかに凌ぐかを考えなければならないゲームである。ドローしたカードで即盤面に対処、などという状況にはほとんどならないシステムだと言っていい。

相手のターン中に能動的な行動は基本的にできない

 これも他TCGとの大きな差異である。とはいえ、相手ターンに全くすることがないかといえばそんな事はなく、むしろCorp側プレイ時の相手のRunへの対応などはこのゲームの根幹ともいえる重要な要素だ。しかし、手札から何かを使うなどといった能動的な行動は、基本的には相手ターン中には取れないと考えて差し支えない。

最新のルールブックが日本語で参照できない

 日本語版の商品が一応現在も(在庫のみだろうが)流通しているゲームなので当然といえば当然だが、日本語でルールをいちから把握するためのネット上のリソースに乏しい。一応、有志の翻訳した旧版のルールブックがBoardGameGeekからダウンロードできる。(BGGのユーザー登録が必要)
 教導してくれるプレイヤーを探すのが理想形ではあるが、英語で書かれた資料を読むことをいとわないのであれば、NISEIが提供している「Learn to Play」が最初に読むのには最も適しているだろう。

一人でも興味を持ってくれるプレイヤーが増えることを切に願い、本日は以上です。

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