キスの日に、キスの嵐【SS】
※本編完結後、両想いなWINGSの話です。微ネタバレ注意
それはとある年の5月23日。
キッチンに汚れた食器を届けたら、代わりにホットコーヒーをもらった。
わらしべ長者の気分だ。今日もきびきびと働く彼をカウンター越しに見つめながら、芳醇な香り漂うコーヒーに舌鼓をうつ。
そう、いつものように夕食を終えた俺・相羽勝行は、ソファで一人くつろいでいた。一時は受験勉強に追われていたけれど、大学生になった今ではそこまで勉強しなければと焦燥に駆られることはない。
せっかくなので編曲作業をしたいところだが、家事を担当する義弟・光を差し置いて先に音楽に触れることは許されない気がした。だから新聞にざっと目を通し、スマホアプリで株価の動向を確認。それからスケジュール帳を開いて、上司と共有している業務カレンダーと授業の予定を照らし合わせる。そんな雑務をしていたら、仕事は終わったかと伺うような顔をした光が、ソファの前にやってきた。
「お疲れ様。今日もありがとうね。美味しかった」
ねぎらいの言葉をかけると、光はにかむように笑う。
それから俺の膝の上に乗っていいか聞いてくる。いつも聞かないで勝手に乗るくせに。新聞が破れたと嘆けば「ざまあ!」とあざ笑う男の態度とは思えない。えらく殊勝だな、と思いながらスケジュール帳を閉じ、「どうぞ」と両手を広げた。
人肌が恋しくてハグしたかったのか。
それとも単に甘えたかっただけなのだろうか。
光は遠慮がちに膝元へ凭れ掛け、何度も何度もへの字になった口を突き出した。拗ねた時に見せる、可愛いおちょぼ口。
うーん……。これは、なんだ?
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