この記事は自分のホームページに掲載された内容を周知目的で改変し転載しました。
目的
文化庁が「「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集の実施について」というパブリックコメントを行っているため
そのパブコメを送るための「AI と著作権に関する考え方について(素案)」の論点整理を行うための論点整理を目的としてコラムを書きました。
筆者は締切日2024年2月12日ギリギリまで粘ってパブコメの内容を考えることにします。
なお筆者は法の専門家ではなく、あくまで自身のパブコメのために資料を理解するためにこのコラムを執筆したにすぎませことは了承して下さい。
とりあえず、資料の中でも自分が注目している部分だけピックアップしています。また検索拡張生成(RAG)に関しては自身の知識不足なため意図的に省いています。
【 「非享受目的」に該当する場合について】
イ 「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について
(ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて
著作権法30条の4では「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」と書かれていますが
ここで言う「享受」とは人が主体であることが念頭にあるために、機械が著作物を読み込むことは著作物の表現を享受したことにはならないです。
そのため、人工知能開発のための機械学習のために著作物を読み込ませることは法30条の4の対象になることが考えられます。
(イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について
著作権法30条の4の規定では「著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と明記されています。
ここで言う享受の対象は「当該著作物」です。「当該」とは法令用語で指示語みたいなものですので「当該著作物」とはこれ以前に出てきた「著作物」を指します。つまり「著作物は、・・・(中略)・・・利用することができる。」この著作物を指していますので、法30条の4で著作物利用をしている著作物が当該著作物に該当します。これは人工知能開発では機械学習に用いた学習用データになります。(以下享受の対象になる著作物を「当該著作物」と書きます。)
人工知能開発のため、法30条の4で享受を目的してはいけない当該著作物は学習用データですのでこれ以外の著作物は鑑賞など享受を目的としても法30条の4の対象外になることはありません。つまり、生成AIで生成した生成物を鑑賞して楽しむために生成AI開発を行っていてもそれだけで法30条の4の対象外になることはありません。なお、学習用データの類似性のある生成物の生成を目的とした人工知能開発に関しては後述します。
学習用データの著作物に表現された思想又は感情を享受しないために技術的手段を講じていればAI学習のための複製が非享受目的であることを推認させるための材料になるのではないかと言われています。
これは生成AI開発だけではなく、非享受目的利用の情報解析のためのデータセット提供に関しても同じことが言えるでしょう。
著作物をデータセットとして提供することは例え非享受目的利用をライセンスに入れていても享受目的が併存してしまう可能性が出てきます。そのため、moe-speechのようになんらかの方法で元の著作物の表現を享受することを防ぐ措置を取ることが非享受目的を推認するための材料になるかもしれません。
AI学習特に追加学習において意図的に過学習を行い、意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現をそのまま出力させることを目的としたものを行う場合について書かれています。実際に生成物に学習用データの創作的表現が出力されるかは別として過学習などを行えば享受目的が併存していると推定できる材料になると考えられます。
ここで「創作的表現」という単語が出てきます。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法第二条定義)。著作物とは創作的表現と呼ぶこともでき、著作物の創作は創作的表現の作出とも呼べます。さらに厳密に言えば著作物とはだれが創作しても同じような結果になるという「ありふれた表現」と、その著作者の個性である創作性が表現されている部分があります。著作者の中でも著作者の創作性が表現されている部分を「創作的表現」と呼ぶことができます。
「表現上の本質的特徴」という単語がここで出てきました。
著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」である。そのため、表現上の本質的特徴とは著作物が著作物たらしめている著作物性の部分、表現上の創作性の部分を指します。そのため、誰が創作しても同じようになる部分「ありふれた表現」や画風や構図などのアイデア、事実やデータなどは表現上の本質的特徴には含まれません。
美術の著作物の類似性は、既存の著作物の美的表現における本質的特徴を著作説感得することができるか否かにより判断される。表現の着想や手法、作風やイメージ、ありふれた表現は著作物の表現上の本質的特徴を構成するものではないため、単にこれらが似ているだけでは類似性は認められない。(小泉直樹他『条解著作権法』、弘文堂、2023年6月15日)
これらの表現上の本質的特徴とその直接感得性を考慮に入れて、具体的事案に基づき、
学習データの著作物の創作的表現(表現上の本質的特徴)を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。
学習データの著作物の創作的表現(表現上の本質的特徴)を直接感得できる生成物を出力することが目的であるとは評価されない場合は、享受目的が併存しないと考えられる。
この2つの場合分けができます。
特定のクリエイターの「作風」と「創作的表現(表現上の本質的特徴)」の話が出てきたので著作権法における「アイデアと表現の二分論」について説明します。
著作物を「表現」と「アイデア」に分け、著作権の保護は「表現」に限定されるという考え方が著作権法にはあります。アイデアには小説で言う作風、絵画で言う画風や構図などが含まれます。これを「アイデアと表現の二分論」と呼びます。
この二分論の根拠として、以下の2点が挙げられます。
第1に、著作権法が具体的な「表現」のみを保護の対象とすることは、著作権法の最終目的である「文化の発展の寄与」に沿ったアプローチです。「アイデア」は、その自由な活用と応用によって多様な創造的表現を促進します。これらを特定の個人や団体が独占することは、他者の創作の自由を不必要に制限し、文化の多様性や創造性の発展を妨げる可能性があります。したがって、アイデアを自由に利用できる環境を維持することは、新しい創作活動を刺激し、文化の豊かさを促進する上で重要です。
この方針により、著作権法は創作活動を奨励しながらも、アイデアの自由な活用を確保し、文化の発展と共有に貢献しています。具体的な表現形式に焦点を当てることで、創作者の権利を保護しつつ、同時に文化全体の恩恵を享受するバランスを取ることが可能になります。
第2に、現行法がアイデアの保護に適した制度設計となっていないという点です。たとえば、特許法は技術的な思想である「発明」を保護の対象としていますが、アイデアの独占がもたらす潜在的な問題を緩和するために、保護対象や要件を厳格に限定しています。これに対して著作権法は、特許法のように保護の範囲を厳密に定めておらず、権利の適用範囲が広く、利用に限定されていないため、権利の行使が広範囲に及びます。さらに、著作権の存続期間は著作者の死後70年と長く設定されているため、アイデアの自由な活用が長期にわたって制限される可能性があります。
したがって、作品間の類似性を評価する際、重要なのは、原告の作品と被告の作品に共通する要素がアイデアに関するものなのか、それともその表現の本質的な特徴に関するものなのかを詳細に分析する必要があります。この分析の過程では、「アイデアと表現の二分論」の原則を念頭に置き、個々の創造的な表現活動を促進すると同時に、一定の自由な領域(パブリック・ドメイン)を維持するために、どの程度のレベルで著作権の保護を施すかが重要な判断基準となります。
このアプローチは、創作活動の自由と著作権による保護の間のバランスを保つために不可欠です。著作権の保護がアイデアまで及ぶほど厳格すぎると、創造的な表現の自由が抑制されるリスクがあります。したがって、アイデアと表現の適切な区分と、その上での著作権の保護の適用範囲を判断することが、文化的創造性と法的保護のバランスを維持する鍵となります。
(著作権法第2条定義 一 著作物)
当該作品群って何を言っているのだかが分かりませんが著作権法上作風と同じアイデア扱いのキャラクターに言い換えてみるとピンとくるものがありますのでここからはキャラクターの話をします。
漫画サザエさんにアクセスして同一あるいは類似の絵をバスの車体に描いたものであることが明らかであるならば、膨大な量の原作マンガのどの駒に依拠したかという立証までは必要ないと述べた定位に意味があるのであって、キャラクター自体を保護するということを積極的に述べたものではなく、証明の問題を扱った事例と理解するべきである。(中山信弘,『著作権法第4版』,2023年10月30日, 有斐閣,227頁)漫画やアニメにおいて問題となるのは、依拠の立証である。通常であれば、著作権者が、新会社は当該著作物に依拠して同一あるいは類似のものを作成したということを立証しなければならない。しかしサザエさん事件や各種のポパイ事件で明らかなように、侵害者が膨大な量の原作マンガのどの駒に依拠したのかということを特定することは不可能に近く、この挙証責任を著作権者に課すとほとんどのケースにおいて著作権者は依拠の立証に失敗する喧嘩となる。そこでこのような場合、経験則上依拠したことが明らかであれば、特定の駒に依拠したことの立証までは要求しないとすることは、判例や学説も認めているところである。(同上中山信弘,『著作権法第4版』,2023年10月30日, 有斐閣,227-228頁)
キャラクターや作風は著作権法ではアイデアとして扱われます。作風やキャラクターといった抽象的概念そのものは著作権保護を受けられず、それを具体的に表現した創作的表現が著作権保護を受けられます。
ここで作品群で共通して表現されている創作的表現がある場合、ここでは連載漫画のキャラクターとして例えます。サザエさんにしろポパイにしろあまりにもキャラクターの図柄を表現した漫画のコマが膨大に存在することになります。それなのでどの絵に依拠したか、どの絵の創作的表現と同一なのかを特定することが困難になります。この場合判例や学説から考えるとどの漫画の駒に依拠したかを特定するまでもなくそのキャラクターの図柄の外見的特徴、容貌等と同一性があれば侵害成立する場合があります。
これが資料の「当該作品群には、これに共通する創作的表現(表現上の本質的特徴)があると評価できる場合もあると考えられる。」のことを指しているのではないかと推測しています。
利用者「AIくんマリオ出して」
AI「おかのした」
マリオの絵が出力される
利用者「AIくんまたマリオ出して」
AI「おかのした」
マリオの絵が出力される
利用者「AIくんまたマリオ出して」
AI「おかのした」
マリオの絵が出力される
利用者「AIくんまたマリオ出して」
AI「おかのした」
マリオの絵が出力される
利用者「このAIは侵害物を頻発して出力している。開発者はマリオに表現された思想又は感情を享受する目的でAI開発を行ったので法30条の4の対象にならない」
AI「えぇ…」
当たり前ですがこの場合は侵害主体は利用者であり、マリオという著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としているのは利用者であるため、開発者に享受の目的が併存しているかを推認するための材料にはなりえないということが明記されています。
→【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】に続く
参考資料
条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日
著作権法(第4版),中山信弘,有斐閣,2014年10月25日,
文化庁「「AIと著作権に関する考え方について(素案)」