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テイスティング実録 現代ワインを産地だけで語るべきか


こんばんは、じんわりです。

 ご無沙汰しています。書こうと思っているネタはありますし、投稿の素材となるものは蓄積しているのですが、気乗りしない日々が続き、気付けば前回の投稿から数か月ブランクが空いてしまいました。性格だけでなくやろうとしている方向性も含め、つくづく自分がSNSに向いていない人間だなと諦観しています・・・。

 そんな中、以前から疑問に思ってモヤモヤしていた私的関心事、「現代ワインを産地だけで語るべきか」について、ブラインドテイスティングを通して考えるチャンスが巡ってきました。

 まず「現代ワインを産地だけで語るべきか」という言葉の背景には、「現代の進歩した栽培・醸造技術は昔以上にワインの酒質に大きな影響を与えている可能性があり、結果として産地がワインの品質や特徴に与えうる影響は昔に比べて小さくなっているのではないか」という個人的な仮説があるのですね。現代のワイン造りにおいて、「酒質をデザインする」ことは一定程度可能になってきていますので。

 映画「モンドヴィーノ」でマイケル・ブロードベント氏がミシェル・ロラン氏監修のワインはメドックであってもマルゴーであってもポムロル化されることを語るシーンや、いわゆる「Parkerization」と呼ばれる現象などはまさにその好例ですね。そしてそれはボルドースタイルの酒質対比にとどまらず、世界中のいたるところで、特定の有名人気な産地や酒質をベンチマークとしてワインをデザインするという試みが行われているように思います。

 例えば、「(産地はブルゴーニュではないのに)まるでブルゴーニュのようなシャルドネ!」といった具合ですね。

 「現代ワイン」“現代”をどのように定義するかは、どのイベントを起点に“現代”“それ以前”に分けるかという点でかなり難しいですね。例えば「パリの審判」を境にするのか、「乾燥酵母が商用化され始めた時期」とするのかなど、いろいろな切り口があるように思います。とは言え便宜的に定義付けをしておかないと始まりませんので、温度管理など醸造におけるより科学的なアプローチが根付き始めたとされる1960年代以降を本稿の文脈での“現代”としておきましょうか(この点にお詳しい方がいらっしゃったらご助言頂けると嬉しいですね)。

 ようやく本題ですが、「現代ワインを産地だけで語るべきか」を考える企画の第一弾として「ブラインドでブルゴーニュかどうか利き分けれられるか」にチャレンジしてみました。とは言ってもただの好奇心から来るお遊び実験ですので、比較対象としたワイン2本の選択は正しかったのか、1組だけの比較試飲で産地云々を語れるのか、といった至極真っ当なツッコミはこの際お心の中にしまって頂いて、緩く軽く楽しんで頂ければと思います。


ルール

近似する価格帯のブルゴーニュ産シャルドネとカリフォルニア産シャルドネを3点仲間外れ試験で利き分けれられるか、どちらがブルゴーニュ産かの利き分けにチャレンジ


比較対象ワイン選択の経緯

 ひょんなことから無茶振りOKの条件でプロの方にワインをお見立て頂くきっかけを得まして、「一般的常識的な予算の範囲内でカリフォルニアだけれどもブルゴーニュと利き違えるような酒質(例えば、Alc.12%台、酸味がやや強めなど)の白を選んで頂きたい」旨をお伝えしました。例えば北イタリアのシャルドネから選んで頂くよりカリフォルニアから選んで頂く方が気候的には難しいと考え、気候が大きく異なるカリフォルニアでブルゴーニュと利き違えるなら先述した自身の仮説にリアリティが出てくると考えたことが理由です。

 お見立て頂いたのは¥3,400/750ml、Alc. 13.0%、 MLF非実施(*1)のシャルドネ 2018。積算温度(*2)がブルゴーニュより高いはずのカリフォルニアで甘口でないAlc.13%かつMLF非実施というお見立てに流石プロだなと舌を巻きました。(無茶振りしてスミマセンでした)。

(*1)MLFはワイン中のリンゴ酸を微生物に代謝させ酸味を和らげる醸造技術です(他にも役割・目的はあるのですがややこしくなるので割愛しますね、また別の機会にでも)。非実施ということはワインのバランスを整える爽やかな酸味(他の構成成分との相対や飲み手の受容度次第ではそう言えない場合もありますが)が保たれる傾向にあります。
(*2)温暖寒冷の度合を数値化・分類したクラシックな指標です。詳細ご興味ある方はグーグル教授に聞いてみてください。積算温度が高い(=温暖な気候)ほど収穫時のぶどうの糖度は高くなる(=ワインになったときのアルコール度数が高くなる)、酸度は低くなる、ということですね。

 お勧め頂いたカリフォルニアの白に対するベンチマークとして選んだのは以下のワインです。

AOC ブルゴーニュ 2018 ¥3,800/750ml、Alc.12.5%、 MLF実施、野生発酵

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 比較試飲当日に手に入るワインの中で、価格帯が比較対象であるカリフォルニア代表と近いものがこちらとフェヴレ社のAOCブルゴーニュでした。実験対象としての選択基準が価格以外に特段なかったので、ノリと好みで選んだというのが正直なところです。もしかするとフェブレの方がよりブルゴーニュらしい酒質なのかもしれませんが、その日はルー・デュモンの方を飲みたいなと思ってしまいました。適当ですみません(笑)。


その他

 調べるのが大変になってくるので両産地の当該ヴィンテージの気象データを比較検証するのは止めることにしました。諦めの良さを評価して下さい。

 また、ワインを発注・購入しているのが私であるため、比較ワイン2本の産地がブルゴーニュとカリフォルニアであること、ワインの銘柄や事前情報を私が知ってしまっています。その意味で完全なブラインドテイスティングではなく、お遊びの域を全く超えません。


比較試飲の流れ

 両ワインを冷蔵庫から出した際の品温は約10℃で介助者が準備し私がブラインドテイスティングを始めるまでに約5分ほどかかりました。試飲を終えて目隠しを外し、再度検温したところ13.5℃でしたので実際の試飲時品温は11-13℃あたりだったと思われます。

 Duo-trio testとも呼ばれ官能評価法(平たく言うとテイスティングです)における国際標準(ISO)のひとつとして利用されている方法をベースに行いました。

 2つの異なるワインに対してINAOグラスを3脚用意して2脚に一方を1脚にもう片方を同量注ぎ、それぞれに乱数表で提示された3桁の番号をラベリングします。乱数を自動生成してくれるwebサイトから060249619という3ラベルを拾いました。

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 これら3脚のグラスそれぞれを利き、仲間外れを識別できるかどうかで2つのワインに違いを感じられるかを確認します。その後、各識別番号のグラスのワイン産地についても答えます。

 本来なら3つのグラスのうち1つが別のワインであるという前提も知らされないままに3つのグラスをテイスティングして、3つとも同じワインか、異なるワインがひとつ紛れ込んでいるかの判断から入る方が結果に対する信憑性は高まるのですが、企画者(私)が被験者(私)であることや、「ブルゴーニュらしい非ブルゴーニュを利き分けられるか/られないか」というテーマのため、それが不可能なのですね。

 また両被験ワインの色調が違う可能性を事前に見越しておいて、黒いワイングラスでテイスティングする方が盲検性を高めるのですが、黒いグラスも持っておらず自前のINAOをマジックで黒塗りする根気もなく・・・。

 そこでお馴染みのブラインドテイスティンググッズ、ペンギンさんアイマスク(百均出身)の登場です。

ぺんぎんさん

 今回はグラスの手渡しやメモ代行を介助者にお願いせず、盲目状態でグラスを自分で手に取り試飲、メモを取る際は3つのグラスを視界から外してからアイマスクをずらしうつむいた状態で行うことで、3つのグラス間の色調外観差異を目視できないようにしました。

 ひととおりメモに書き込んで識別結果と産地を介助者に宣言してから、介助者から正解を言い渡してもらいます。


比較試飲の結果

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仲間外れ探しの結果
 グラス番号060、249、619のうち619が仲間外れであると感じました。つまり、060249は同じワインと感じました。上立ち(グラスから立ち上る香り)が明らかに違うと感じられました。

差異の詳細比較結果
 2つのワインの比較を以下一覧にまとめています。

比較試飲記録

 特に決め手となったのは619に感じられたピーマンの香りです。249と060からは全く感じられませんでした。白品種の場合、ソービニヨンブランに典型的な香りの一つですが、シャルドネでこんなのは初めての経験でした。介助者にも後でブラインドテイスティングしてもらいましたが、「これほんとにシャルドネ?ラベル張り間違ってないですか?」という反応があったくらいです。(この後のくだりは文脈をぶった切ることになりますので最後に書きますね)

 事前にカリフォルニアのワインであることが分かっておらず瓶の形も見ていなければ、ニュージーランド、ボルドー、ロワールもしくはその他有名ではない寒冷地が産地ではないか(=品種はシャルドネでなくソービニヨンブラン)だと思い込んだに違いありません。

 また619は他の2グラスと比べて口当たりのボリューム感が圧倒的に太く旨味と塩味が頼もしい印象がありました。これが0.5%のAlc.度数の違いなのか、ぶどうもしくは醸造技術の違いによるものなのかは知る由もありませんが、これら要因の複合によるものかもしれませんね。

 一方、060と249のワインはやや覚えのある味香りでした。レモンと濡れた石(所謂ミネラリティと呼ばれる類のキャラクター)の香味が心地よく、野生発酵由来かもしれない除光液の香りや(バジル様の)硫化臭が感じられましたが度が過ぎるというわけではなくやや心地よい程度に収まっていました。


じんわりの選好
 結果としてスタイルの異なる2つのワインで、甲乙つけられませんでした。両方とも自分好みの美味しいワインでした。


答え合わせ

 最後に答え合わせを。

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060 → AOC Bourgogne 2017
249 → AOC Bourgogne 2017
619 → AVA Napa Valley Chardonnay 2018

 今回のブラインドテイスティングに関しては、3つのグラスの酒質に大きな差がないことにより、産地の個性よりも栽培・醸造技術の方が酒質に与える影響が大きいことを暗示し、「現代ワインを産地だけで語るべきか」という問題提起をしたかったのですが、その目論見は豪快にハズれました。むしろ「産地だけで語れるやんけ」レベルでした。イキってすみませんでした(汗)

 そもそも比較ワイン2本の組み合わせを事実上無作為に選んでしまうとその2本の酒質はまず似通りませんね。ワインは星の数ほどバリエーションがありますので。結果論ですが、前回のシャルドネブラインドテイスティングに供した2本の組み合わせで今回の企画に臨んだ方が今回の組み合わせよりリアリティがありましたね。


エピローグ

介助者「これほんとにシャルドネ?ラベル張り間違ってないですか?」

私「ラベルの貼り間違いはないでしょう。だってシャルドネの瓶はブルゴーニュタイプでしたよ。まさか瓶詰め時の間違えなんて・・・」(と言いながら生産者の公式webサイトを見る)

「あっ・・・、ボルドーボトルのSAUVIGNON BLANC・・・」

ないない!(と思いたい(笑)万一あっても美味しかったのでAll OKです)


お酒はハタチになってから

今夜もワインの難しさと奥行きの広さに、さんて!

じんわり

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