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どっちがいいの?大手生産者と小規模生産者

本稿はワインビギナーの方向けに作成しました。
全文無料公開ですが「投げ銭」制も採用しています。

まとめ

ワイン生産者の規模の大小をワイン選びの手掛かりにするなら・・・

・コスパと重視、ハズレは引きたくない → 大手生産者
・ありきたりはイヤ、新しい出会いと驚きを求めたい → 小規模生産者
・大手生産者にも小規模生産者にもそれぞれ一長一短がある
・ワインビギナーの方には大手生産者のワインをお勧め


こんばんは、じんわりです。

突然ですが質問です。
 皆さんは酒販店やeコマースサイトで今まさにワインを買おうとしています。目の前にはぶどう品種、産地、生産年、価格は全く同じで生産者だけが異なるワインが2本並んでいるとします。

生産量が少なく企業規模も小さい小規模生産者のワイン

一般の方にも有名な大手メーカーのワイン

 皆さんはどちらのワインを選びますか?

 もちろん絶対的な正解はありません。小規模ならではの丁寧な手仕事感に期待を寄せる方もいらっしゃるでしょうし、大手メーカーのブランドを品質・安定の証と考える方もいらっしゃるでしょう。ワインは中身を飲んでみるまでわからないものです。すごくおいしいものもあれば、まれにすごくがっかりなものもあります。

 本稿ではワインビギナーの方が「がっかりワイン」を掴んでしまわないように、万一ハズレを引いてたとして少しでも腹落ちできるよう、生産者の大小を基準にワインを選ぶという考え方について私見を綴ろうと思います。

 先程「がっかりワイン」と書きましたが、弊ブログで頻繁に言及される「がっかりワイン」の特徴は以下の別記事をご参照ください。

 ワインジャーナリストGoodeとマスターオブワインHarropの過去の報告によると、世界的なワインコンクールにおいて不快臭を伴うワイン=がっかりワインとの遭遇率は6~7%とのことでした。この確率を市販ワイン市場に持ち込むなら17本に1本くらいはがっかりワインという計算でしょうか。


【大手を選ぶか、小規模を選ぶか】
 前提として大手生産者をざっくり以下のように定義します。

「どのスーパーでも目にするような海外有名メーカー、国内有名メーカーや国内有名インポーターが輸入元として国内流通をバックアップしている生産者」

対して小規模生産者はざっくりすぎますが、上述以外の生産者としておきましょう。


 まずはコスパ、品質安定を求める方へのお勧めから。
 しばらくの間は大手生産者のワインを中心に楽しんで頂いてはどうでしょうか。幣ブログがワインビギナーの方にお勧めする1本¥2,000前後というコスパワインの価格帯は、どちらかというと小規模より大規模ワイナリーのものに多いであろうこともお勧めの一因です。


 そしてワインビギナーの方でも「他人と一緒はイヤ」「ワインの背景にあるストーリー性も大切にしたい」「ワインとの新しい出会いや驚きを求めている」といった自主性と冒険心をお持ちの方は、相対的にハズレを引きやすくなるリスクを踏まえつつ小規模生産者のワインに目を向けて頂くのも良いですね。

 私のこれまでの経験からくる自論ですが、大規模生産者はワインを造ることにおいて非常に洗練されていると思います。大規模生産者のワインを飲んで顕著な不快香味を呈する「がっかりワイン」に遭遇することはほとんどありません。安定していますね。

 巷ではワインのみならず食品産業全般に「大規模」という言葉からは「大量生産」「安価」「遍在」といったキーワードが、「小規模」という言葉からは「手仕事」「高価」「希少」といったキーワードが連想されがちではないでしょうか。「高品質で高価なものは入手困難な小規模生産品」という思い込みが一般化しているように思うのです。

 しかしワイン業界での現実は玉石混交のように感じます。丁寧な仕事と情熱で消費者さんの期待以上の品質を実現・維持している小規模生産者は相当数あると感じられる反面、中には「イメージ先行」で品質を伴わない小規模生産者が散見されることも私にとっては嘘のつけない真実です。

 大規模生産者はどうでしょうか。確かに安価な原料を使った格安ワインや小規模生産者に比べて安価なワインが多いですが、高品質で相対的に安価なワインを造れる傾向にあり、その多くは単一畑などの高級ワインも市場に送り出しています。彼らの技術が高いこと、ワイン造りへのこだわりと情熱を決して失ってはいないことを品質で示してくれていますね。

 そもそも現代的な食品製造業としてのワイン造りは資本集約的です。畑の管理、醸造所の管理、流通に至るまで、とにかくお金と時間と労力(人)がかかります。小規模生産者はぶどうの栽培責任者が蔵での醸造責任者であり営業部長であり経営者であるようなケースも珍しくはありません。そのようなワイナリーは零細企業故に巨額の設備投資資金はなく、人手が足りず常に忙しく、品質向上のために必要なヒト・モノ・カネ・時間・知恵を十分に投入できないことは容易に想像できます。大規模生産者は資金が潤沢にあり、高度な専門知識を持った研究開発員を多く抱え、彼女・彼らが分業でさまざまな課題解決を同時進行で推進できるので品質向上の質とスピードが小規模生産者より高いのが一般的です。

 ぶどうと酵母は生き物ですが人間に通じる言語を持ちません、って当たり前ですね(笑)。できることなら彼ら(酵母にも性別があるので「彼女ら」もいますが)と対話してより良いワイン造りに繋げたいものです。今のところ彼らの心の声を聞き、人間との良好な関係を築くには「科学」に頼る以外に術はありません。科学はまた、人間個々の異なる主観を可視化し橋渡しする役目も果たしてくれます。Aさんにとって酸っぱいと感じる酸味とBさんが心地よいと感じる酸味が実は同じ分析値であるような事例です。
 科学を使いこなすにも「お金」と「人(の知恵)」が必要です。高価な分析機器やそこから見出された断片的な手掛かりを人間の考えとぶどう・酵母の言葉の両方に翻訳する高度な専門知識を持った技術者が必要です。一部の小規模生産者は受け継がれた伝統と勘に頼りがちです。口承伝統は長年蓄積された経験的な知恵として大切にすべきであると思いますが、曖昧さは残ります。むしろそのような知恵を科学の力で意味付け・標準化して後世に残すべきではないか、というのが私の意見です。

 ここで私が体験した当稿にぴったりの実話を共有させてください。
 数年前、ワイン好きではあるがさほど詳しくはない30-40代の男女3人(弊ブログがまさに想定している読者さん像です)とワイナリー巡りをする機会がありました。午前中から夕方まで以下の順番で3軒のワイナリーを梯子しました。私にとっても全て初訪問のワイナリーでした。いずれのワイナリーでもテイスティング中は一般消費者さんの好みや気持ちを知るいい機会と思い、私は極力コメントせず彼/彼女らの感想を聞いていました。

1. 産地で最大規模のワイナリー
2. 産地で中規模以上、資本力がありそうな新興ワイナリー
3. 自然(野生)発酵をウリにする家族経営ワイナリー

1. 最初のワイナリーで白3種ロゼ1種赤2種の1フライト、チーズ盛り合わせ付きでしたが、1軒目から酔っぱらってしまうと残り2軒のワイナリーを楽しめなくなるので1フライト分を4人でシェアです。それぞれのワインに特徴があり、目立った不快臭もなかったため我々はご機嫌さんでワイナリーを後にしました。

2. 2軒目のワイナリーでも同様に白赤計4種異なるグラスワインをこれまたみんなでシェアし、1軒目のワイナリーと比べての好みや感想を聞いてみましたが、全員「甲乙つけ難い」との評論でした。

3. 3軒目では白赤計8種のフライトでしたが、ここで一気に同行2人の顔が曇ります。どうしたのかと聞くと、「自分たちは初心者なので間違ってるかもしれないけど、なんかヘンな臭いがするような、・・・そう!ウ〇チ!(爆)」と。3人目も「この臭いが何なのかはわからなかったけど美味しくないとは思った。」とのこと。記憶の限りでは8種中7種類程度はいくつかの不快臭が多発した「がっかりワイン」の究極最終形態で、そのうち2-3種は所謂馬小屋臭が、1種は酢酸臭が破壊的なまでに臭っていました。同行者のひとりが「(今日まで小規模生産者のワインは丁寧な手仕事が反映されているからおいしいはずだと思い込んでいたが)ワインを買うときに何を信じていいのかわからなくなった。」と漏らしていたのが印象的でした。

 ホントに極端な事例ですが実話です。もちろん小さい資本力でも知恵と工夫と情熱で高品質なワインを送り出す小規模生産者が多いことも事実です。先程描写した3軒目のワイナリーのような小規模生産者はまれであると信じています。しかし、前述のようにワイン造りはかなりの部分で資本勝負であり、ワインの品質と資本力はある程度までは相関するように思います。

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 以下は本題とは関係ない蛇足です、ご興味あれば・・・。あのワインツーリズムの日、彼ら同行者は一般消費者さんの代表としていろんなことを私に教えてくれました。その中でも一番大きな学びであったのは、「ワインの知識がなくても一般消費者さんはおいしいワインとおいしくないワインを高い感度で利き分けている」という事実でした。彼らは『自然発酵』という響きの良い言葉のバイアスに引き摺られず、おいしいワインとおいしくないワインを利き分けたということですね。
 「たかだかn=3かつ1日限りの私的な体験。そこから物事を語るのは如何なものか」と自問してもなお、ここで綴るべきだろうと思わせるほど強烈な原体験として今も記憶に残っているのですね。

 「消費者さんにはワインを峻別できる鋭く賢い味覚嗅覚がすでに備わっている。味わい香りを言語化できないことは問題ではない。」ということをワインビギナーの方にこそお伝えしたいのです。ワインを楽しむうえで知識は必要条件ではない、ということですね。知れば知るほど楽しい、というのもまた真実ですが。


 ちなみに冒頭の質問に私自身が答えると以下のような感じでしょうか。

 目の前にある2つのワインを飲んだことがなく、それぞれのワインの生産者が大手と小規模であることだけがわかっている場合、その日の気分で「二択」です。

・今日はハズレを引きたくない(=より臭くない、苦くないワインを飲みたい)ときには大手生産者のワインを手に取ります。

・今日は新しい発見や驚きが欲しい、と思っているときには見知らぬ小規模生産者のワインに賭けてみます。

 二者をざっぱに比較した私見ですが、大手生産者のワインは「品質が安定している、一定水準以上のものが楽しめる」という利点があり、小規模生産者のワインは「新しい発見や出会いの喜びがある」という利点があるように感じます。

 ワインビギナーの方にとっては大手生産者のワインでも十分「新しい発見や出会い」の体験が得られるのではないかと考えます。そうであるならば、ハズレを掴む確率がより低い大手生産者のワインから攻める方が手堅いかもしれませんね。


さんて!

じんわり


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本稿は全文無料公開しつつ「投げ銭」制も採用しています。
今後の投稿へのご期待と応援を頂けますと幸いです。


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