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簡単!おいしいワインの「基準」と「値頃感」


本稿はワインビギナーの方向けに作成しました。
全文無料公開ですが「投げ銭」制も採用しています。


まとめ
1. 基準は「臭くない」「苦くない」(場合によっては「酸っぱ過ぎない」)
2. 嗅覚味覚に優れた人、おおらかな人、どちらもワインを楽しめる
3. 産地、ぶどう品種、生産年のような文字情報一切不要
4. 味香りの「基準」と「値頃感」を持つだけで、あなただけのおいしいワインは必ず見つかる

こんばんは、じんわりです。

 まず最初に、「おいしいの『基準』だとかをあれこれ考える前に、ワインはシンプルに楽しんだもん勝ち」という考え方に私は大賛成です。そんな方に本稿は不要です。

 一方、何事にも思慮深い方や心配性な方が一定数いらっしゃるのもまた真実ではないでしょうか。本稿がワインビギナーの方にとっての「ワインの敷居」の高さを少しでも下げることが出来れば嬉しい限りです。


 私がワイン消費者さん、特にワインビギナーの方とワインについて雑談していると次のようなコメントをよく聞きます。

「多すぎて何を選んでいいかわからない・・・」
「ラベルに書いてあるのが産地かぶどうの種類かもわからなくて(笑)」
「全然わかってないからお店の人に話しかけるのも恥ずかしくて・・・」
「お店の人やソムリエみたいに味がわかるわけではないし・・・」

 たしかにワインは長年日本人にとって異世界の飲み物でした。海外では約8,000年前からワインが作られてきたのに対し、日本で本格的にワイン造りが始まったのは今から約140年前ですし、ワインが日本の一般家庭の食卓に頻繁に上がり始めたのはごく最近、フレンチパラドックス→赤ワインブームの1997年頃か、第7次ワインブームと呼ばれる2012年頃~現在(※)なのではないでしょうか。近年の日本人のワインの年平均消費量は3.2Lと報告されています。この数字を少ないと考えるなら、まだ「ワインが日本の食卓に頻繁に上がり始めた」とは言えないのかもしれません。
 平均的な日本人の食中酒としては長らく(今も)ビールが君臨しワインが供されることは少なかったため、今もって多くの方は「ワインはよくわからない・・・」とお感じになるのでしょう。必然、何をもってワインを「おいしい」とするかも曖昧なのではないでしょうか。

(※)国内ワイン消費についての詳しい統計にご興味がある方は「キリン、メルシャン、ワイン参考資料」で検索してみてはどうでしょうか。ワインビギナーの方にも読みやすい内容ですよ。

 産地、ぶどう品種、生産年、赤白ロゼ泡などなど覚えるべきことが多いと思われがちで、(それらを知っていないといけない/ワインを楽しめないという誤解もあるようですね)、これら溢れかえる情報量とそれに起因する心理的なハードルの高さがワイン未経験者/ビギナーの方々を萎えさせ、現在の日本人のワイン消費量に繋がっている可能性も否定できません。私は先の3.2Lの年間個人消費量という事実に対して「少ない」と考えてしまう派です、フランスでは約50.7L、アメリカでは12.4Lの年間個人消費量(*)ですので。

 (*)OIV(国際ブドウ・ワイン機構)2017年の調査結果報告


 経験値が足りないというコンプレックスとワインへの畏怖から、一般的なワインビギナーの方は他人様、特にワインのプロ/熟達者と自分の味香りの感じ方や表現が違うことで不安になったり居心地が悪くなったりすることもあるのではないでしょうか。

 そんな不自由は今からなくしてしまいましょう。ここからそのための提言したいと思います。気軽におおらかにワインを楽しめるように。

基準は「臭くない」「苦くない」(場合によっては「酸っぱ過ぎない」)

 買ってきたワインを飲んでみて、「このワインって美味しんだろうか?」「そもそもワインのおいしいの基準って何だろうか?」と疑問に感じたことはありませんか? ・・・ないですよね(笑)、「哲学かよ!」ですよね。

 何をもってワインを「おいしい」とするか。前述した日本でのワインの歴史の浅さ、ワインについての過剰な文字情報がワインビギナーの皆さんの(脳による)判断を狂わせているのではないでしょうか。そうだとすれば(そうでなくても)目を閉じて人間の根源的な感覚である味覚嗅覚に頼れば良いだけです。つまり、今そこにあるワインが「臭くない」「苦くない」かを鼻と口で感じるだけです。特別な知識も技能も不要です。

 「は?」かもしれません。単純すぎますよね?難しくこねくり回さなければ実際単純なんじゃないでしょうか、ワインなんてただの飲み物ですから。

 ワインになる前のぶどう果は臭みの元になり得る成分や苦みの成分を含んでいるため、ワインの製造工程や流通管理を誤るとたいていの人が不快に感じる臭いや苦みがワイン中に表れてしまいます。不快な味香りがあると本来ぶどうが持っていた、酵母が頑張って生み出してくれた心地よい味香りが覆い隠されてしまいます。それゆえ不快な味香りが出ないように造られたワインは、ぶどう本来の心地良い個性が味香りに現れ、自ずとおいしいと感じられるのですね。

 私はワイン業界に入った駆け出しの頃からこの原理原則を徹底的に叩き込まれました。国内外のほとんどすべてのワイン醸造家さんはワインの不快な味香りにはどんな種類があるか、何をしなければ(すれば)不快な味香りが過剰に出てしまうかについて基本的な教育を受けているはずです。それらの教育内容は現代科学に裏打ちされたものであるので、言葉は違えど万国共通の原理原則です。


 ちなみに世界的なワインコンクールにおいて不快臭を伴うワイン=がっかりワインとの遭遇率が6~7%であったという報告もあります。これはJamie GoodeというワインジャーナリストとSam Harropというマスターオブワイン=MWの肩書き(ワイン関係では最高難易の資格でしょうか)を持つ専門家による報告です。
 この数字を多いと捉えるか少ないと捉えるかですが、私は意外に多いなと感じました。世界的なコンクールには各国のワイナリーがそれぞれ自慢のワインを送り出してくるものです。その選りすぐりの出品ワイン100本中6~7本はがっかりワインということですから、我々が日常で触れるワインの中に占めるがっかりワインの割合はもう少し多いのかもしれないと心配したりもします。もっともこれは10数年前の報告ですので醸造・管理の技術が進歩している現在、がっかりワインの遭遇率は低減している可能性もあり得ます。

 酸味についてはワインのタイプや飲み手の嗜好により良し悪しの判断が分かれるところです。ワインの「酸っぱい」には成分的に大別すると本来あるべきポジティブな酸味とお酢の臭いを伴う酸味の2種類がありますが、お酢の臭いがするがっかりワインには滅多に出会わないので、ここではポジティブな酸味の基準について簡単に書きます。特に早飲みのフレッシュなタイプの白は他のタイプのワインより総じて酸味を感じやすいはずです。やや多めかつシャープな酸味がフルーツの味香りを際立たせる肝になっているからです。造り手が狙って残した酸味であっても敏感な方にとっては強過ぎる場合もあるかと思います。酸味に敏感な方はご自身のおいしいワインの基準に「酸っぱ過ぎない」という「基準」を加えて頂いてもいいかもしれません。

 本稿に「バランス」という要素・基準も盛り込むか迷いましたが、ワインビギナーの方にとっての基準は少なくシンプルがよいと考え割愛しました。プロも含めてワイン常習者の方は「バランス」をおいしさの究極的な判断基準にされているのではないでしょうか。ワインの「バランス」については今後別稿で綴れればと考えています。

嗅覚味覚に優れた人、おおらかな人、どちらもワインを楽しめる

 個々人毎にはもちろんのこと、同じ人が同じワインを飲んでも日によってワインの味香りの感じ方は異なります。人の嗅覚味覚、それを処理する脳は鋭いながらも一貫性には欠けるものです。ワイン知識の豊富な人が優秀なテイスターであるかと言えば、必ずしもそうではないというのが私の経験則です。平均的なプロより味覚嗅覚に優れたワインビギナーの方は必ず一定の割合で存在するでしょう。むしろワインビギナーの方は文字情報によるバイアス(偏見)のかかり方が小さくなるので、ぼんやりとではありますがプロより正しくワインを感じとれるかもしれません。このあたりの話はワイン常習者さん向けの投稿としていずれ書ければと思います。

 ワインを飲んだ時においしいと感じたならその感覚に自信を持って頂ければいいと思いますし、何となく好みじゃないなと感じれば、それを言葉にできないだけでつぶさなワインの欠陥やご自身の好みとの不整合を感じ取っていらっしゃるのではないでしょうか。

 まとめます、ワインビギナーの方は他人様の意見を気にせず自分の味覚嗅覚が感じるままにワインを楽しんで頂いては如何でしょうか。つまり私の御託にも惑わされるな、ということになりますね(笑)。あなた自身がルールです。

 2人のテイスターが同時に全く同じワインを試飲していても彼女・彼らの感じ方や表現が大幅に異なるという現象は、一般消費者さんの間では充分起こり得る話です。例えば消費者であるAさんとBさんが同じ温度、時間、グラスで同じワインを飲んだとして、Aさんはそのワインを酸っぱいと感じ、Bさんは心地よい酸味と感じる場合もありえますし、香りについてAさんは「イチゴっぽい香り」と表現するかもしれませんし、Bさんは「なんだかいい香り」とだけ表現するかもしれません。
 この場合Aさんの方が味覚嗅覚に優れている可能性はあります。Aさん、神から与えられた才能かも知れませんね。とは言えBさんが気にする必要はありません。Aさんはおいしいの許容範囲が相対的に狭い可能性もあり、Bさんは逆に許容範囲が広い可能性もあります。大抵のものをおいしく感じられるというのはコスパも高く大らかでいいと思いませんか。AさんBさんそれぞれ一長一短ですね。

 結論、味香りの感じ方、表現の仕方は絶対的な個性であり自由です。ためらうことも恥じることもありません。消費者さんはそれでいいのですが、プロの場合はワインの香りを正確に言語化することが商売に直結するので、無秩序では商売が成り立ちません。ある程度の共通尺度=ルールを必要とするのですね。国際的にプロに使われている香りの表現についても別稿でできるだけ簡単に綴る予定です。


産地、ぶどう品種、生産年のような文字情報一切不要!

 消費者さんは試飲もなく初対面のワインを買うことが結構多いと思います。その場合中身(=味香り)はボトルを開けてみるまで分からないので、中身に代わる判断材料を探すことになります。産地、品種、生産年、テイスティングコメント等ですね。ワインビギナーの方がこれらを見聞きすると情報の消化不良を起こして、もう「ごちそうさま」ではないでしょうか。特に頭の良い方ほど「産地×品種×生産年・・・」と即座に膨大すぎる選択肢を察してしまい能動的なワイン選びを諦めてしまうかもしれません。

 産地、品種、生産年といった情報はワインに慣れ親しんでくるととても便利な判断材料になりますが、あくまで周辺情報にすぎず瓶の中身を直接的に保証するものではありません。ワインビギナーの方が無理に気にする必要はないでしょう。産地、品種は自分がおいしいと感じたワインに出会えて興味が湧いてくれば後から調べればいいでしょうし、幣ブログがワインビギナーの方に推奨する税抜き1本¥2,000の基準でワインを選ぶなら、生産年による品質差は大きくない場合が多いと考えられます。
 産地、品種、生産年は偽装がない限り事実表記ですからまだ良いとして、消費者さんを煙に巻くややこしい存在がワインを形容する謎ワードの数々です。例えば、「伸びやかなワイン」「生き生きとしたワイン」「滋味のあるワイン」「テロワールを感じる」「ビオワイン」など・・・。
 ワインを売る側にとって売り文句は重要ですし、少しでも消費者さんにワインの味香りや価値をイメージしてもらいたいという思いの現れでしょう。その点では肯定的に捉えたいところですが、これらの言葉がワインの中身品質を客観的に形容しているかは疑問ですので、ワインビギナーの方はスルーしてもらった方が良いように思います。


味香りの「基準」と「値頃感」を持つだけで、あなただけのおいしいワインは必ず見つかる! 


 上述した臭いと苦み(ときに過度の酸味)に軸足を置いた「おいしいワインの基準」とセットでもっておいて頂きたい基準が「値頃感」です。
「値頃感」をとある辞書で引いてみると・・・
『商品の質から見て、価格が買い得であると感じられること』
とあります。商品の質は先に書いた「臭くない」「苦くない」で最低限の判断はできます。お買い得かどうか・・・、これは人によって変わってくるのかなと思います。

 ワイン業界で働く人、ワインと人生が密接に関係してしまう方や超富裕層の方は、ワインへの品質要求も買い得感の価格帯も一般の方より高くなる傾向にあるのではないでしょうか。一方ワインビギナーの方々の多くは「まずはそこそこの値段のものをお試しで・・・」とお考えになるのが一般的でしょうか。幣ブログではまずは「税抜き1本¥2,000を目安に選ぶ」ことをワインビギナーさんにお勧めしています。外食シーンでない場合です、飲食店さんでは小売りの2-3倍の値付けになることが一般的ですので。

 ここまで書いてきた中で「ワインの良し悪しは開けてみるまで=飲んでみるまでわからない」という根本的な問題への対策は提示されていません。現実的な方法は酒販店で試飲可能なワインの中から選ぶことでしょうか。試飲提供されているものは比較的値頃で味香りが整ったものが多いと感じます。もちろんその分選択肢は狭まってしまいます、二律背反ですね。
 開けるまで中身がわからないというランダムなくじ引き感がワインと出会う楽しみであるという考え方も私は好きですが・・・。


 本稿をお読み頂いたことがきっかけで、あなたとおいしいワインに新たな出会いがあれば嬉しい限りです。ワインとの良い出会いがあれば是非教えて下さい。

さんて!

じんわり

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本稿は全文無料公開しつつ「投げ銭」制も採用しています。
今後の投稿へのご期待と応援を頂けますと幸いです。

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