すし居酒屋の板前

　昨晩、近所の某すし居酒屋に１人で入った。ようやく開催できた、支局の同期たちとの飲み会が終わり、余韻に浸って２軒目。カウンターに座ると、正面で70代手前ぐらいの男性の板前が迎えてくれた。

　店にはときたま通い、しわの刻まれた手で黙々と寿司を握る板前の姿を目の前でよく見ていたが、注文と寿司にまつわる会話以外はしたことがない。店内が落ち着いた頃合いを見計らって、切り出してみた。「来月に引っ越して、静岡に行くんです」。

　どんな反応が返ってくるかと思えば「静岡といえば、この間行ったよ」と板前。聞くと、あいみょんのファンで、彼女を追いかけて近隣の地方をライブ遠征しているらしい。おととしにあった甲子園球場でのライブも、チケットは当たらなかったものの、音漏れを聞きに足を運ばなかったことを今でも悔やんでいるとのことだった。

　その後もあいみょんの話題は止まらず、話が及んだのは好きな仕草。ライブ中、肩からかけて弾いていたギターを、前から背中に放り投げて背負い、勢いよくスタンドマイクを握る場面があるという。再現しながら、「かっこいいよね」とうなった。

　どうやら、あいみょんにかなり夢中のご様子。寿司を見つめる板前姿からは想像もつかなかったが、ライブでは本物を前に涙を流し、ハイタッチできれば大喜びしているという。

　あいみょんの今年の静岡でのライブの予定を聞くと、カウンター越しに自らのスマホを渡され、「スクロールしてみて」と。見せてくれたのは、日程の一覧が並ぶツアーのサイト。店は３年弱行きつけたが、まさかカウンター越しに、寿司ではなく、自らのスマホを渡される日が来るとは。待ち受けも、あいみょんだった。

　会計前には、「静岡のライブの日にち、覚えた？」と確認された。もちろん覚えた。静岡のライブは申し込む予定だという。私は、本物のあいみょんをまだ見たことがない。できれば私も休みを取って、応募したい。当たるかどうか分からないが、もし当たれば、またこの板前に会えるだろうか。