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【ハイスクール・ニンジャウォーズ】♯1◆後編


◆◇『ニンジャスレイヤーAoM』の二次創作小説です◇◆
◆学園パロディものです◆

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(Aパートあらすじ)
ネオサイタマ県立AoM学園で、ひとりの女子生徒が行方不明になった。名はアユミ。学園七不思議のひとつ、「黒いトリイのサツガイさん」。彼女は黒トリイに飲み込まれたのだと、噂されていた……。
幼なじみのアユミを捜すため、彼女を追って入学した一年生のマスラダ・カイは、不可思議な魂の同居人・ナラクに導かれるままに「学園七不思議」の謎を追う。
上級生タキの協力を得たマスラダは、ようやく学園の裏に謎めいたオカルト信仰サークルの存在を突き止めるのだが……熾烈な学園ニンジャ戦争が、今、幕を開ける――!

◇Aパートはこちら◇

第1忍「ニンジャがいっぱい!?」
▷Bパート


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「黒いトリイのサツガイさん」

……そう。知ってる? うちのガッコの校庭ってさァ。ちょっと「黒い」んだよね。なんかァ、普通のグラウンドより地面が黒っぽいっていうかァ……砂がね。真っ黒な砂粒がね、たまに混ざってて。あの黒い粒だけを集めて……オソナエすると……呼べるんだって。

そう。その「サツガイさん」。


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「クッ……クックック」俯き、壁にもたれていた陰気な男子生徒が、ゆっくりと顔をあげた。目には異様な輝きが宿り、制服の徽章から闇が燻る。「そんなにも……黒いトリイについて知りたいのならば、ぜひ我が部に入信したまえ。話をしよう。夜通し語り明かそうじゃないか……神について。愚かなる生贄を糧に、我々に祝福を与えてくださる、あの御方について」

「愚かな……生贄だと?」マスラダの声が怒りに震えた。拳を固く握る。奥歯を噛みしめ、踏み出す。「……ふざけるな。何が神だ」「そう、聖なる御方。……サツガイ=サン」男子生徒……冥令院は、うっそりと呟いた。

もはや見間違いではない。今や黒霧が冥令院の頭頂部から足先までを霞の如く取り巻いていた。何の変哲もない制服は、薄墨を垂らしたかのようにじわじわと銀鼠へ、黒色へと変色していく。薄暗い教室内に火花が散った。ヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ……! 窓ガラスが揺れる。マスラダはたたらを踏んだ。教室内の祭壇前に積まれていた黒砂の山が、砂の城めいて一揺れごとに崩れる。「……ふふふ……アッハッハッハ!」

ブラックホールらしき球体が、腰を上げた冥令院の前に浮かんでいた。

(((注意せよ、マスラダ! 一寸たりともアレに触れるべからず。触れれば破滅と心得よ!))) 冥令院は無雑作に闇の穴に手を差し出し、中から放電する槍斧を引き抜いた。黒い塵が斧を中心に渦を巻く。「……ッ!」マスラダの背筋が粟だった。直感が告げる。アレは。この世の理によるものではない……!

(((マスラダ!))) ナラクに言われるまでもなく、マスラダは全力で飛び退った。一瞬前までマスラダの立っていた床に黒霧を纏う大斧がめり込み、床板が音を立てて裂けた。咄嗟にクロス防御した腕を破砕木片がビシビシと掠め、鉤爪で引き裂いたような血が幾筋も滲む! そして、なんたることか……斧の触れた床が、跡形もなく消失したのだ……!

(チャットルーム……何だこりゃ、黒魔術? アー、我々は、七不思議の神秘に出会い……再降臨……意味が分からねぇ。単なるオカルトマニアのイカレサークルじゃねえのか。こんなどん詰まりの離れ校舎に籠りきりだぜ? マトモなわけがねえ)タキの声が蘇る。

(いや、それで間違いない。七不思議を追う。その先に)(((然りよ。ニンジャあるところに七不思議あり、七不思議すなわちニンジャ也)))(アーアー、好きにしろ。オレはもういいか? 借りは返したぜ)……

一撃、二撃、三撃! 冥令院の振るう黒斧は、容赦なくマスラダを狙い、空を抉る。(正気か!? このままでは殺される!)(((マスラダ! 何をしておる! カラテだ! 装束を……)))(装束!?)(((奴はニンジャだ、マスラダ! ニンジャを倒せるのはニンジャのみ。儂を受け容れよ。そして殺せ。オヌシもまたニンジャ也!)))(この非常時に何を……!)マスラダは教卓を飛び越えるようにして斧を避けた。黒板に肩を打ち付け、呻く。教卓が消失!(((ニンジャ、殺すべし!)))(……ナラク!)

アユミを見失ったあの日、如何にしてかマスラダを救った魂の同居人、ナラク。奴は入学前までは大人しかった。だが入学後は。学園内の教師や生徒にも「ニンジャ」が紛れているのだ、マスラダもまた「ニンジャ」なのだ、ニンジャを殺せ……と折に触れ主張し続けていた。いつの時代の話だ、ニンジャなどいるわけがない。フィクションの中の存在だ。そう思い、マスラダはこれまで耳を貸さずにいた。だが……目の前の人ならざる存在感は!

触れた先からまるで元から何もなかったかのように消失し、黒い塵と化していく壁は、机は、床板は……!(((グググ……儂とオヌシは一蓮托生、この期に及んで謀ると思うてか)))(……どうすればいい)

一か八かだ。どのみちこのままではアユミに辿りつけず、死ぬ。それだけはあってはならない。そして、アユミを、生贄と言い放った、この男……! 許すわけにはいかない!

憤怒を呼吸に流し込む。「スウーッ……」マスラダは目を閉じ、ナラクに意識を委ねた。拳が、腕が、肩が。輪郭を失い、赤黒い炎となる。空気が炎熱に歪む。シャツの上から羽織っていたパーカーのフードが闇に溶け、赤黒く燃え、たなびくマフラーめいた布へと変わる。忍装束が全身を覆う。手甲が形成される。面頬が顔の下半分を覆い、赤い炎が筆のように走り、「忍」「殺」の漢字が刻まれる。

冥令院は、ただならぬ殺気とアトモスフィアにたじろいだ。「忍……装束だと……何者だ」「おれは」(((ニンジャ)))「……おれは、」(((ニンジャ、殺すべし)))

(カイ)
(一緒に高校、行こうよ。カイは才能あるんだから、もったいない)
(オリガミ部、見学に行こう)

夕陽。赤いネクタイ。白い光、哄笑、黒いトリイ。

(逃げて! カイ!)(((ニンジャ、殺すべし!)))

「おれは、ニンジャだ」

ほとんど自然な動きで、マスラダ・カイは……ニンジャスレイヤーは拳を合わせオジギした。「ドーモ。……ニンジャスレイヤーです」アイサツは神聖不可侵の掟。ナラクを通して、理解する。「……ドーモ。冥令院です。ニンジャとは、これはこれは……アッハッハッハ!」冥令院の瞳が法悦に歪む。

「サツガイ=サンが! 極上の贄を私に!」バチバチと放電が唸りを上げ、ニンジャスレイヤーを真っ二つにせんと袈裟懸けに振り抜かれた! BOOOM! だが! 「イヤーッ!」前転し跳躍したニンジャスレイヤーは冥令院を六段跳び箱のように踊り越え、空中でスリケンを投擲!

(((それで良い、マスラダ! それがスリケンよ!))) 溢れ出る力を右腕に流し、星型の鋼鉄武器を生み出す!「イイイヤーッ!」連続投擲! 冥令院は床に打ち下ろした斧を……床が……消失した!

瓦礫と共に<礼拝堂>が、教室が、崩落する。

ニンジャスレイヤーは構わずさらにいくつものスリケンを作りだし、投げた。「グワーッ!?」冥令院は左目から血を噴き出して悶絶した。そのまま同時に着地し、粉塵の中で互いの気配を探る。

だが。

「……え? 何ですか、これは!?」

戸惑った女生徒の声が、ニンジャスレイヤーの背後で聞こえた。「!?」粉塵が薄れ……VHS棚の脇に、オレンジ髪の女生徒が立ち上がっている。その背後で、火花が散る。彼女の真上に、槍斧が……「……!」ニンジャスレイヤーは地を蹴った。「グワーッ!」背中に熱。血が噴き出す。女生徒を抱えたまま、扉を砕きながら廊下に転がり出る。

そのまま廊下をタタミ6枚ほども滑り、摩擦で煙を上げて、ニンジャスレイヤーは止まった。教室からはまだ破壊音。だが、時間の問題だ。立ち上がり、奴を……。力の抜けた腕から女生徒が転がり出る。「大丈夫ですか!?」オレンジ髪の生徒は、傷に手を当てて叫んだ。「離れていろ」「でも、すごい出血量ですよ!」ニンジャスレイヤーは立ち上がろうとして、果たせず、崩れ落ちた。

(これがおれの血、だと)ニンジャスレイヤーは……マスラダ・カイは、足下に広がる赤い水たまりを見つめた。全身から、風船がしぼむように力が抜けていく。(なぜだ。なぜおれが、こんなことに)(((マスラダ! 思い出せ!)))(おれは……そうだ)

(おれは、働いて、カネを……アユミを、大学に)(私のことはいいんだよ)(よくない)(私なんて平凡だ。カイはすごいよ。私なんかより、ずっと先まで……)(違う。おれを、あの日、案内しなければ、アユミは)(探さないで。私のことは忘れて)(((ニンジャの仕業だ。マスラダ)))(違う。違うんだ、アユミ。帰って来てくれ)(((ニンジャを殺せ。七不思議の謎を求めよ。ニンジャを殺し、黒いトリイの謎を)))(アユミ)(((ニンジャ!)))

悲哀が、悔悛が、憤怒が、薪となり炉にくべられ、ナラクの黒炎を煽り立てる。背中の傷が、ブスブスと燃え始める。煙と血が入り混じり、超自然の炎が忍装束を再生していく。損なわれた肉体が修復されていく。メンポに熱が駆け、「忍」「殺」の文字が再び焼きつく。

ニンジャスレイヤーは膝をわずかに浮かせ、両拳を地につけた。変則的なクラウチングスタートめいた前傾姿勢で黒炎を纏い、頭を廊下に擦りつけるほど下げた。

BOOOM! 廊下と教室の間の壁が消失! 現れた冥令院は斧を振り回しながら絶叫した。「サツガイ=サン!」「イイイ……イイヤアアアーッ!」ニンジャスレイヤーは全力で廊下を走り出した。わかる。ナラクの治癒は完全ではない。これで決めねば……アユミに辿りつくことはできない! 直前で身を捻り、刃を紙一枚すれすれで躱す。その回転力を保ったまま、頭を下に、オーバーヘッドキックめいた回し蹴りを叩きつける!「イヤーッ!」「グワーッ!」よろめいた冥令院が槍斧を取り落す。反動で飛び退ったニンジャスレイヤーは再び地を蹴り、腕を振りあげ突進する。(((好機ぞ! マスラダ!)))「イヤーッ!」顔面に右拳! 打倒す!「グワーッ!」廊下に叩きつけ、マウントポジションからの左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」床に亀裂が入る。

ニンジャスレイヤーは、最後にもう一度大きく振りかぶり、(((グググ。然り。そこだ、マスラダ。狙うべし)))ナラクの示した忍装束の襟元を……「イイイ……イヤアーッ!」殴り、徽章を、砕いた!

「サヨナラ!」目に見えぬ黒い霧が絶叫し、渦巻いて爆発四散した。

肩で息をしながら、ニンジャスレイヤーは立ち上がった。冥令院を見下ろす。徽章が砕け、制服が灰となった。

(これは……ナラク)「大丈夫ですか!?」不意に背中から声を掛けられ、ニンジャスレイヤーは振り向いた。オレンジ髪の女生徒が、心配そうに彼を見上げている。「逃げろと言った」「平気です。私は修行をかかさないのでタフですよ」女はにっこりと笑う。

「私、コトブキといいます。カンフー映画部を作るために日夜特訓を……特訓部屋は壊れてしまいましたが……」コトブキは目を泳がせ、俯く。だがすぐに顔をあげ、傷ついた赤黒装束の腕を取った。「それより大変です! 生徒会の……総会の役員が、騒ぎを聞きつけてこちらに向かっているそうです。すぐに逃げましょう! 退学処分になっては青春が台無しになってしまいます!」

ニンジャスレイヤーは、コトブキに手を引かれながら一度だけ振り返った。視界の端で、冥令院は身体を起こし、何が起こったのかわからない様子であたりを見回していた。


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翌日の昼休み。

ひと気のない半地下への階段を下り、マスラダはドアを引き開けた。日当たりの悪いPC部の部室は昼休みでも薄暗い。扇風機が二台、生ぬるい風をかき回している。後ろ手に閉じかけた扉が、別の手によって押さえられた。マスラダは一瞥し、構わず入室する。

タキは当然気づいたはずだが、振り返らずコーラのペットボトルを手に取り、飲む。「タキ」「『先輩』」マスラダは取り合わず、内ポケットからUSBメモリを取り出した。「……言われたものは見つけた。手がかりになりそうか」「アア? マジか……マジで単なるイカレオカルト部じゃなかったのかよ」

タキは椅子を半分回して、コーラのペットボトルを隅のゴミ箱に放り投げた。ボコン、と間抜けな音がして縁で弾み、床に転がる。コトブキが二人の顔を見比べながら空いた椅子に腰掛け、購買部のピザトーストを頬張っている。

「放課後また来る。準備していろ」「あのなァ! オレはお前の便利屋じゃねえ……」「『何でもする』と言ったのはお前だ」タキは苛々と金髪を搔いた。そしてコトブキを指さした。

「……だいたいコイツは何だ!」「コイツ呼ばわりはよくないです」コトブキはオシボリで汚れた手を拭いた。「ゴチソウサマでした」パンの包装紙でオシボリを包むと、教室の隅まで歩いていき、タキのペットボトルも拾ってゴミ箱にまとめて捨てた。「……北校舎にこんな部屋があるだなんて、私、知りませんでした」首をぐるりと巡らせて、スチール本棚を覗きにいく。「オイ、そっち行くな! 何も触るな! ッたく、なんでこんな奴連れてきた!」「ついてきた」「ハァ!?」

「静かです。人通りが少ないのですね……廊下でカンフー修行をしても構いませんか?」「ふざけるな! 入部希望者ってんなら歓迎してやってもいいが」「カンフー映画部を作るという夢があるので、だめです。タキさんも入りませんか? 楽しいですよ! ともに修行し、映画鑑賞……青春ですよ!」

マスラダは喧しいやりとりに背を向け、部室奥のマットレスに横になった。まさか、己にあのような力が眠っているなど……信じられなかった。ニンジャ。学園七不思議。(((ニンジャの謎を追うのだ、マスラダ……さすればいずれ、七不思議にも……))) ナラクの声をシャットアウトする。瞼が落ちる。……今はただ、ひたすらに眠りを欲していた。


次回、第2忍「ニンジャがホントにいっぱい!?」

お楽しみに!(※続きません)

◆◇◆

設定資料集

(という名の脳内設定)

風紀委員と生徒会総会

AoM学園には生徒会と呼べる組織が二つある。それぞれ重点テリトリーがある。どちらが正当な学園の代表組織であるのか? 内部では常に抗争が続いており、生徒によって言い分はまちまちである。外部からは判然としない。

風紀委員会:
教師を味方につけている。対外的には風紀委員長が「学園生徒会長」ということになっている。一般生徒からの人気はそれほど高くない。しばしば校門で規則順守についての抜き打ちチェックなどを行うため、規門(キモン)と呼ばれ恐れられている。(学園の歴史を治めた図書室は風紀委員会の管理下にある。第6話にて、マスラダは風紀委員長の登瀬から内密に許可を得て、閉架図書室に潜り込む)

登瀬 麦子: 風紀委員長。祖父は学園理事長である。かつてタキによってピンチを救われたことがあるため、お説教しながらも何かとPC部に便宜を図ってくれる。

生徒会総会:
二年生が率いる、いわば「裏生徒会」のような役割を持った一団。校舎の一角に「総会区画」を設け、そこに本部がある。美しい銀髪を肩口で切りそろえ、刀を背負った学ラン姿の千葉が首魁である。

老元千葉:
総会長。彼は入学早々に並みいるニンジャ番長をその類まれなる器で従えた。規門の規範が及ばなかった校舎の隅々までを我が物とし、荒れていた学園暗部を平定。治安向上に寄与したため、一般生徒からの人気は高い。


教師陣

片倉先生: 歴史の教師。ニンジャ。話が面白い。コアなファンが多い。

悟先生: 生物教師。ニンジャ。授業中「ハイ」「えー」の回数をよく数えられている。生徒が寝おちしかける一瞬前に必ず声を掛けてくるので、授業は退屈だが眠れない。

ミスター・コルヴェット: 国語教師。ニンジャ。マスラダの味方。授業中に詩を朗読すると感受性の強い生徒が感動して泣く。

片居木先生: 保健室の先生。ニンジャ。マスラダの事情を信じてくれた。第4話で味方になる。小学生の娘がいるため、基本的に定時で帰る。手のツボとか教えてくれる(めちゃくちゃ効く)

由佳乃先生: 茶道部顧問。ニンジャ。以前、茶道部の部室は現PC部の本拠である半地下にあったらしいという噂がある。そのためか、一度PC部の顧問になろうと申し出てくれたことがある。(却下された)

藤木戸さん: 脱サラ用務員。ニンジャ。空手部で師範めいた行為をしていたり、茶道部で備品を直していたり、なぜか学園のあちこちで目撃される。マスラダの中のナラクに気づいているようだが……。


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続きです


楽しいことに使ったり楽しいお話を読んだり書いたり、作業のおともの飲食代にしたり、おすすめ作品を鑑賞するのに使わせていただきます。