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【ハイスクール・ニンジャウォーズ】♯1◆前編


◆◇『ニンジャスレイヤーAoM』の二次創作小説です◇◆
(学園パロディです)


◆◇◆


(カイ、オリガミが好きなんでしょ? 今度、学園祭においでよ。うちのオリガミ部、すごいんだから)

(エ? そりゃ私はオリガミできないけど! カイが興味あるかなって思ったから……強豪校だよ、うちは)

階段の踊り場に、夕陽が射していた。アユミが笑っている。ブラウスに、赤いネクタイを締めた、アユミ。各教室に立てられたノボリ、オリガミで飾られた階段。南校舎、最上階、オリガミ部の部室。スリケン型のオリガミ……トリイ……黒いトリイ。

白い光。
眩くアユミを包む。

人ならざる者の哄笑――(BWAHAHAHAHA!)

(アユミ!)

不気味な笑い声がニューロンを苛む。

(((グググ……ニンジャの仕業よ)))

(アユミ! 待ってくれ! アユミ!)

「AAAAAARGH!」

マスラダ・カイは勢いよく体を起こした。背中が冷たい汗でぐっしょりと濡れている。膝に掛けられたタオルが、板張りの床に落ちた。オレンジ色の光にチカチカと眩い光が入り混じり、不規則なリズムを刻んでいる。マスラダの荒い呼吸もまた、小刻みに生ぬるい空気を震わせる。

薄暗い教室だ。窓は通常の教室よりやや上方に二箇所。時計はとうに下校時間を過ぎ、騒がしい生徒たちの声も聞こえない。ジジ、ジ……。電灯の音ではなく、デッキの駆動音だ。

「ッたく、うるせェな」振り返った襟元に、最上級生の校章。「……ここはお前の部屋じゃねえんだ。保健室で寝ろっつったろ」「……情報は」「何度も何度もアレだがよ。先輩を敬え」マスラダ・カイは薄汚い金髪を一瞥し、マットレスから立ち上がった。埃が舞う。足元の影が薄い。所狭しと押しこめられたケーブルとデッキとモニタ、その前の椅子に背を預けた部長のタキ。

この教室は北校舎のどん詰まり、半地下にある。元は物置であった教室だが、現在は風紀委員の黙認のもと、PC部の部室として使用されている。日のあたらない位置には歪んだスチール棚があり、部発足当初からの部誌やディスク、もはや用途もわからぬパーツなどのジャンク類が雑然と並んでいる。

「オイ、聞いてンのか?」マスラダは手首を回し、首を鳴らしてデスクに近づいた。「裏付けは取れたのか」椅子の背に手を置いてモニタを覗きこむと、慌ただしく肌色率の高いウインドウが最小化された。

「そもそもなんでオレが」「……おれに借りがあるはずだぞ」腕を組んで睨む。タキは渋々タイピングを続け、いくつかのページを経由してから該当の情報を開いた。「うちの……AoM学園の裏サイトだ」「それは知っている」「まあ待て。ここを、こうして……こうすると、だな……」

爽やかさすら感じさせる、スタイリッシュなフォントが右から左へ流れる。

【☆歓迎☆チャットルーム『サンズ・オブ・ケオス』☆ようこそ☆】

「…………」マスラダの眉間の皺が深くなる。ニューロンの奥で、怨嗟が渦を巻く。(((要はニンジャの仕業だ。マスラダ。ニンジャを追えば即ち)))(……黙れナラク)椅子の背を掴む手の甲に力が籠り、血管が浮き上がる。


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一年前の学園祭最終日、時刻は夕方。校庭ではボンオドリが行われ、火祭りがいよいよクライマックスを迎えようとしていたタイミングだった。
AOM学園南校舎最上階が、眩い白光と共に突如崩落し、一名の女子生徒が行方不明になった。

アユミ。

……マスラダとともに孤児院で育った、幼なじみだ。
彼女を捜すため、マスラダ・カイは、AoM学園の難関入試を見事突破し、桜の季節に真新しい学ランに袖を通した。

混沌に満ちた学園に潜む闇を暴き、アユミを取り戻す。決意むなしく、タキという情報収集のつてを得るまでに二ヶ月という時を無駄にした。これ以上、時を無為に浪費するわけにはいかない。
マスラダの学園生活はまだ、始まったばかりだ。


第1忍「ニンジャがいっぱい!?」
▷Aパート



(ナラク。ニンジャはどこにいる)(((教室の中じゃ)))(どの教室だ)

春。入学直後。
日の暮れ方、ひと気のない廊下をマスラダは忙しく行き来していた。階段を降り、廊下を二つ曲がり、今度は上へ。ネオサイタマ県立AoM学園は増築に改築を重ね、もはや教師さえも正確な教室の数を把握できていないという話だ。

本当ならば、アユミと共に通って……(そうとも限らないな)マスラダは足を止め、中庭を見下ろした。孤児院の経営は芳しくない。稼げる仕事を見つけ、自立の道を探すつもりだった。アユミのことがなかったならば、今頃は……。アユミは彼の就職に反対していた。「カイは進学した方がいいよ」としきりに勧めた。だから、オリガミを口実にマスラダをあの日、学園祭に……(カイ)(MWAHAHAHAHA!)

頭を振る。

秋前までまったく受験に備えていなかったマスラダの成績はとても合格レベルに達しているとはいえなかった。だが結果的に、彼は局所的に高得点を叩き出し、合格証を手にした。ナラクの賜物だ。

アユミを奪った白い光からマスラダを引き離し、現世に引き留めた謎の存在。「ナラク」。その者がマスラダを導いたのだ。そして今も、ナラクはマスラダの中に、居る。「ニンジャ」がアユミに至る手掛かりだと囁き、ニンジャを滅ぼせと喚いている。

わからない。あの怪奇現象は何だったのか。神隠し? だとすればなぜ校舎は吹き飛んだ? 新聞やテレビのニュースでは「学園テロ」として処理されてしまった。そんなわけがない。黒いトリイに、謎の男に、なにひとつ説明がつかない。かといってこの現代にニンジャなど……。だが確かにマスラダの知りえぬことをナラクはよく知っていた。過去問題も知り尽くしていた。ナラクの記憶を借りなければ、マスラダはこの学ランに袖を通すことはなかった。

廊下を幾度目かに曲がると、明らかに様相の違う一角に出た。顔がくっきりと映るほどに磨きぬかれた廊下。右わきに並んだ教室の引き戸はどれも黒い漆塗りであり、廊下奥にあるひときわ大きな扉のはめ込みガラスには、金箔が散りばめられており、ドア右上に掲げられた教室名のプレートには「生徒会総会本部」とものものしい極太明朝体が彫られている。

思わず立ち尽くしたマスラダは、巨大な影が落ちたことで我に返った。白髪を撫でつけた上級生が、進路を阻むように目の前に立っている。

「新入生か。何の用だ」「……ア。広いので。迷ってしまって……」「出口なら左手に曲がったあと突き当りの階段を下りて、右に曲がれ。保健室前に出る」「アッハイ」

無用なトラブルを起こしてはアユミを探すどころではない。マスラダは大人しく上級生に背を向け……(((マスラダ! 奴はニンジャぞ!)))反射的に振り返った。西日を受け、仁王立ちでマスラダを睨んでいる。(((殺せ!)))(無理だ。捕まる。警察に)(((なんと不甲斐なきか!)))(おれはアユミを捜す。その邪魔をするものには容赦しない。……それだけだ。あの上級生は関係ない)

上級生の案内に従い階段を降り、曲がると、確かに保健室があった。保健室教師に昇降口への道を聞き(((奴もニンジャぞ!)))(黙れナラク)、外靴に履き替え、用務員に挨拶を(((奴もニンジャぞ!)))(黙れナラク!)


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ニンジャは学園のそこここにいる。それはよくわかった。だが、アユミの件については、一向に進展がなかった。手当たり次第に怪談を収集し、怪しげな集まりを追跡し……あてのない孤独な捜索の日々。……マスラダ・カイは次第に疲弊し、荒んでいった。

初夏。
街ハズレの裏路地で、デビルズカインド・キョダイなる半グレ集団をブチのめし、私刑中だった上級生のタキに貸しを作るまでは。


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(Bパートに続く)



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