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洋上風力の迅速性(早期運転開始)を左右するウィンドファーム認証

総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ 交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 合同会議(以下、審議会)で、いろいろな情報が出てくるにつれて、迅速性(早期運転開始)をまともに評価できる仕組みがないことが、ますます明らかになってきました。

運転開始時期にもっとも影響するのが、「輸送・建設」です。ところが、2024年4月24日の第24回審議会資料から、輸送・建設についてはまったく目利きできていない、つまりザルであることがはっきりしました。

第25回審議会YouTube録画を聴いて、なぜ輸送・建設についてザルなのかわかりました。ここで、経済産業省から「公募の選考は、第三者委員会による合議で決めている」との説明がありました。輸送・建設は、学識経験者の領域ではなく、完全に民業の領域です。したがって、輸送・建設の専門家が第三者委員会にいない可能性が高いです。それが、輸送・建設についてザルの理由でしょう。

このYouTube録画は、「輸送・建設についてはザルですから、どうぞ安心して絵に描いた餅で迅速性評価を勝ち取ってください」と経済産業省・国土交通省がお墨付きを与えたに等しいです。

輸送・建設を3回連続で書き上げた挙句に、このYouTube録画を視聴して、萎えました。でも、迅速性(早期運転開始)の問題には食らいつこうと思います。輸送・建設の次に、迅速性を左右する要素があります。それは、「ウィンドファーム認証」です。

ウィンドファーム認証の不都合な真実

洋上風力のウィンドファーム認証には2年半から3年ほどかかります。その理由は、適合性確認機関(認証機関)が適合性確認基準(ルールブック)を開示していないことにつきます。

ウィンドファーム認証には、「この設計プロセスに、このデータを用いて、この設計基準を適用することが、ルールブックに照らして正しいかどうか」を審査する設計基準(Design Basis)評価というプロセスがあります。

ところが、日本では認証機関がルールブックを開示していませんから、話が異なります。適合性確認機関として実績のある日本海事協会(以下、Class NK)の設計基準評価では、認証申請者(発電事業者)が「既存のガイドラインから察するに、この設計プロセスでは、このガイドラインのこの設計基準(方法論)を適用するのではないかと思いますが、よろしいでしょうか?」とお伺いを立てます。

出典:日本海事協会(Class NK)

2年半~3年の審査機関のうち1年ぐらいは、支持構造物の設計基準のお伺いに費やし、そこから支持構造物(風車タワーと基礎)の設計が始まります。

これは、まるで選手自ら、サッカーや野球などの既存のスポーツのルールをかき集めて、「このプロセスではサッカー、あのプロセスでは野球のルールが適用されるのではないか」と考えたものを審判に提出し、審判の考えているスポーツのルールと完全に合致させるのに1年ぐらい費やしてから、ようやく試合をはじめるようなものです。

そもそも「認証」とは、設計や製造などの工程がルールブックに定められたルールに適切に則っているかどうかを第三者機関が審査・判定することです。その意味においては、日本のウィンドファーム認証は、「認証まがい」です。なぜそんな「認証まがい」がまかり通っているのかは、以前の記事をご参照ください。

ウィンドファーム認証の迅速化

ウィンドファーム認証を迅速化するための本質的な解決策は、経済産業省が適合性確認機関に適合性確認基準(ルールブック)の開示を義務づけることです。では、なぜ経済産業省がそうしないのでしょうか?

それは、「いまここでClass NKに逃げられたら困るのは経済産業省だから」という情けない理由だと思います。適合性確認機関の目的は、経済産業省がやるべき審査の丸投げですから、丸投げ先がたくさん育つまでは経済産業省は珍しく強く出られないのでしょう。

本質的ではないが発電事業者にできる努力

現時点で発電事業者ができる対策は、抜け漏れのないウィンドファーム認証の役割分担表(いわゆる星取表)を作ることです。「抜け漏れのない」とは、支持構造物の設計において確実に統一的解説などの既存ガイドラインの要求を網羅することです。

発電事業者でも、これがいかに難しいかわかっていない人が多いです。そういう人たちが、1年半で認証を終わらせる計画でウィンドファーム認証に臨み、Class NKにて絶賛炎上中との噂を耳にします。

そうならないようにするために、ウィンドファーム認証で「どんな抜け漏れが想定されるのか?」「どうすれば抜け漏れを抑えられるのか?」を考えてみましょう。

いったいどんな抜け漏れがあるのか?

ウィンドファーム認証において、いったいどんな抜け漏れが起こるのでしょうか。わかりやすい例が、安全性照査です。統一的解説の47ページ「表-解 2.1.1.8 安全性の照査方法」を見てみましょう。

出典:経済産業省・国土交通省

厳密には不正確ですが、話を分かりやすくするために、上表の「荷重抵抗係数設計法」が欧州基準、「許容応力度設計法」が日本基準だと思ってください。

ここでの曲者は、長期荷重です。長期荷重には、風荷重と波浪荷重も織り込みます。風荷重と波浪荷重に基づく設計は、下図の通り、欧州系設計会社の所掌です。

出典:風力業界の中の人の知見をもとに作成

しかし、安全性照査は日本基準なので、日系設計会社の所掌です。つまり、最初の設計は欧州基準、仕上げは日本基準なのです。例えていうと、前半45分までサッカーのルールでプレーしてから、後半45分は野球のルールで決着をつけるような感じでしょうか。気持ち悪いです。

このような気持ち悪いトラップに気づかない発電事業者が、風荷重と波浪荷重に基づく設計を欧州系設計会社に、地震荷重に基づくところを日系設計会社にざっくり割り振ると、抜け漏れが起きます。前述の長期荷重の例で言えば、日本基準チェックが抜け漏れるわけです。

その抜け漏れは、Class NKのスタッフに指摘してもらうことなく、専門家委員会に抜け漏れます。専門家が、この抜け漏れを見逃すはずもありません。Class NKの専門家は、日本基準を築き上げてきた方々です。日本基準を見逃すことは、彼らを軽視することと同じです。

そのため、申請者側が自力で抜け漏れに気づけなければ、専門家は「そこまで言うなら、欧州基準で問題ないことを実大試験して確かめてみたらどうですか?」とおっしゃるかもしれません。

日本の洋上風力の基礎の設計には、このようなトラップがいくつかあります。残念ながら、発電事業者にできる自衛策は、このようなトラップを抜け漏れなく押さえる役割分担ぐらいなのです。

どうすれば抜け漏れを抑えられるのか?

下図は、ウィンドファーム認証の設計基準Part Cの体制図です。この中で、先に挙げたような抜け漏れをチェックできるのは、だれでしょうか。

出典:風力業界の中の人の経験をもとに作成

可能性としては、「ゼネコン」と「日系設計会社」です。

ゼネコンは、何を欧州系設計会社に依頼し、何を日系設計会社に依頼するか割り振ります。両社に抜け漏れのない役割分担を差配できるかどうかは、ゼネコンの力量で決まります。だから、ゼネコンの役割が重要です。

もう一つの可能性として、日本基準に精通している日系設計会社も、抜け漏れのない役割分担表を作れるでしょう。しかし、風力業界の中の人が、その会社の中の人なら、作りません。その役割分担表をゼネコンや発電事業者に出したら、彼らがその星取表を他社への引き合いに使うに決まっているからです。他社を利するだけで、自社に得がありません。

ゼネコンと日系設計会社以外では、どうでしょうか。風車メーカーは、上図の通り、役割が空力弾性シミュレーションだけなので、それ以外の知見はありません。欧州系設計会社は、わけもわからず「できます」というばかりで話になりません。したがって、抜け漏れのない役割分担を期待できるのは、ゼネコンだけです。

抜け漏れのないウィンドファーム認証の役割分担表

発電事業者が抜け漏れのない役割分担表を用意するには、ウィンドファーム認証のトラップを踏まえた役割分担表を書けるゼネコンに頼むか、自力でトラップを読み解いて役割分担表を書くかの二択です。

それ以外の選択肢では、設計基準(ルール)の議論がいつ終わるか分かりません。トラップにかかれば、実大試験に突入です。もはやガンダムファクトリーです。

出典:Pixabay

そのときは、迅速性だの早期運転開始だの言っていられません。発電事業者は経済産業省・国土交通省の心証をできるだけ害さないように、無駄に早く押さえていた基地港湾や海域の占用期間を後ろ倒しにする交渉が先です。

もし他のラウンドの事業者に悪影響を与えるほど遅れるとわかっていながら黙っていたら、国益を害します。経済産業省・国土交通省からどんな処分が下るかわかりません。会社の信頼失墜と株価暴落の引き金を引かないよう、次善の策を打つしかありません。

出典:Pixabay

経済産業省・国土交通省だけでなく、海域や基地港湾を有する地方自治体も、発電事業者にウィンドファーム認証の状況を正確に伝えてもらうことが大事です。もしガンダムファクトリーになっていたら、先行ラウンド事業者にスケジュールの再提出と、後続ラウンド事業者との調整が必要になるでしょう。

できれば、再提出スケジュールは、楽観・中間・悲観の3シナリオほしいです。1つだけだと、発電事業者は楽観シナリオを出したがるでしょうが、洋上風力に不慣れな地方自治体の方が、そこから現実シナリオを推定するのは無理があるからです。

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