Case 11-2021: A 39-Year-Old Woman with Fever, Flank Pain, and Inguinal Lymphadenopathy
April 15, 2021
N Engl J Med 2021; 384:1448-1456
DOI: 10.1056/NEJMcpc2100273
要約
39歳女性、4週間前に両側鼠径部の圧痛を伴う浮腫が出現
発症2日後から右鼠径部の間欠的な鋭い痛み(NRS 5/10)を自覚
その後3日間、嘔気・食欲不振が続き、悪臭を伴う尿を自覚
発症1週間後に前医を受診し反跳痛や筋性防御を伴わない右側のCVA痛と腹痛があり、両側鼠径部の多数の2cm大までの腫脹したリンパ節を認め、大量の希薄な膣分泌物を認めた。膣分泌物の検鏡では糸玉状細胞を認めたが真菌やクラミジア、淋菌は認めず、これらに対する抗体検査も陰性。
その2日後に尿培養から大腸菌とクレブシエラが検出されたため、ST合剤が2週間投与された。鼠径部の腫脹は改善したが側腹部痛と嘔気は残存。2週間のST合剤による治療が完了してから2日後に発熱と盗汗が出現し嘔吐することもあったため当院の救急外来を受診。
主訴:側腹部痛、倦怠感、嘔気、食欲不振、1ヶ月で2.3kg の体重減少
既往歴:甲状腺機能低下症、喘息、双極性障害、月経困難症、偏頭痛
家族歴:悪性腫瘍の家族歴なし、叔母が結核で死亡(ほとんど接触なし)
内服薬:albuterol(サルブタモール)、budesonide–formoterol(ステロイドとβ刺激薬の合剤)、divalproex(バルプロ酸)、levothyroxine、loratadine(H1ブロッカー)、sumatriptan
生活歴:飲酒・喫煙なし、薬物乱用否定、ペットは子猫と猫
渡航歴:1年前にアメリカからブラジルへ移住、現在はイングランド在住。ブラジル(都市部)に3ヶ月間滞在し、鼠径部痛を自覚する前に帰国したばかり。
見た目:ill
VS:異常なし
BMI:24.4
右側腹部に圧痛あり、反跳痛や筋性防御なし、肝脾腫なし、両側の圧痛を伴う鼠径リンパ節あり、その他のリンパ節は触れず。赤沈の亢進とCRP高値以外は特記事項なし、妊娠反応陰性、HIV陰性、T-SPOT陰性。
CTで最大径2.6cmの両側鼠径リンパ節腫脹と、最大1.3cm径の右骨盤壁のリンパ節腫脹、最大0.9cm径の肝胃リンパ節腫脹を認め、肝門部のリンパ節腫脹も認めた。輸液とketorolac(NSAIDs)の筋注が行われた。
鑑別診断
結核:リンパ節腫脹は無痛性で頸部が最多、T-SPOT陰性だが否定できない
MAC症:免疫能低下や子供で多い、皮膚の外傷や汚染された水源への接触歴なし
猫ひっかき病:Bartonella henselaeによる感染症、猫の飼育歴、引っ掻き傷はなし、典型的には受傷から3〜10日後に丘疹・水疱・膿疱などの出現、受傷部位の近位のリンパ節腫。ST合剤はBartonella henselaeにも一部効果があるとされており、一旦患者の症状が治まり、ST合剤中止後に再燃したこととも一致する。
トキソプラズマ症:リンパ節腫脹と猫への暴露はどちらもトキソプラズマ症と矛盾しないため否定できない。
性感染症:鼠径リンパ肉芽腫が最も疑わしい。原因菌はC. trachomatisで、熱帯・亜熱帯に多いが近年高所得国でも特に男性同性愛者間で増えている。感染初期は陰部潰瘍が出現して数日で軽快。2~6週間後の第二期では有痛性の反応性鼠径リンパ節痛が出現し、直腸結腸炎などの肛門・直腸症状が出現する。血清と核酸の検査を行ったが陰性だった。
悪性腫瘍など:リンパ腫は鑑別すべき。悪性腫瘍の転移は否定的か。
その後のリンパ節生検を行い、生理学検査でB. henselaeのIgG抗体価の上昇を認めたが、病理ではB. henselaeを証明できなかった。しかしB. henselaeの播種性感染を疑い、ドキソサイクリンによる治療を開始した。2週間の治療で上腹部痛や味覚異常などの副作用が出たため、治療方針検討のために追加検査を行った。
16S rRNAに対するPCRを行なった結果、B. henselaeのDNAが陽性となり、もう一度病理染色を行なったところ、B. henselaeの菌体を証明できた。ST合剤などで治療を行っていたため、菌量が少なくなっており検出が難しかったと考えられる。その後もドキソサイクリンによる治療を3ヶ月継続して完治した。
学んだ知識
リンパ節腫脹の評価:限局性 or 広範囲
問診:猫への暴露、渡航歴、虫刺症、性交歴など
鼠径リンパ節腫脹の鑑別診断:
感染
下肢や局所の感染(細菌性腺炎、結核性リンパ節炎、猫ひっかき病、ノカルジア症、スポロトリコーシス、野兎病)
性感染症(鼠径リンパ肉芽腫、軟性下疳、梅毒、性器ヘルペス)
悪性腫瘍
白血病・リンパ腫
下肢や陰部の悪性腫瘍の転移(メラノーマなど)
自己免疫疾患
SLE、皮膚筋炎、リウマチ
サルコイドーシス
English words & phrases I learned:
flank pain:側腹部痛
copious:豊富な、大量の
clue cell:糸玉状細胞
細菌性膣症を示唆する小型球桿菌層に覆われた細胞膜が不明瞭な扁平上皮細胞.妊娠可能年齢の女性における非特異的細菌性の原因で、月経周期のうち増殖期に目立ち、好中球浸潤は乏しく、正常の膣細菌叢は必ず消失している.
http://immuno2.med.kobe-u.ac.jp/20090312-3351/
abate:〜の勢いを減らす、〜を弱める
illicit:違法の
adenitis:腺炎
tularemia:野兎病
lymphogranuloma venereum:鼠径リンパ肉芽腫
chancroid:軟性下疳
endemic mycosis:風土菌症
papule:丘疹
epitrochlear:内側上顆の、肘の
cessation:休止、停止、中止
anorectal:肛門直腸の
proctocolitis:直腸結腸炎
bartonellosis:バルトネラ症
hilar adenopathy:肺門リンパ節腫脹
distortion:歪み、不整
florid:赤らんだ、血色の良い
spirochete:スピロヘータ(spáiərəkìːt)
reconcile:仲直りさせる、仲裁する、調和させる
suppurative:化膿性の
nondescript:特徴のない
paucity:少量、不足、欠乏
putative:推定上の、推測される
feces:糞、糞便、排せつ物
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