2021印象に残った本
読書は楽しいです。脳内で物語の世界に旅している時がもっとも至福な時間です。一気に終点まで辿り着きたくて、つい睡眠時間を削って読んでしまうことも多くあります。
今年はSNSで本の紹介をする人たちの存在が話題となりました。Twitter、インスタ、TicTok…。数々の人気アカウントで紹介されている本や、紹介スタイルには興味深いものもあり、新聞や雑誌などの書評と同じ感覚で、自分も参考にしています。
そして、司書として働く自分もまた、1冊でも多くの本の魅力を伝えることが大事と思って、日々本を読んできました。特に今年はその思いが強かった1年でもあり、新旧問わずたくさんの本に当たってきました。ゆえに印象に残った本を挙げると、どうしても仕事で取り上げた本と被ります。
年末年始も、この後取り上げるつもりの本が(読むことができるかどうかはさておき)側に積まれています。それでも新聞や雑誌などで今年の3冊などが取り上げられると、自分の視野は、まだまだとても浅い。自宅に積まれた大量の本を片付けてくれという家族の冷たい視線に負けずに、これからも頑張って本を買いたい、いや、読みたいと思っています。
今年発行された本を中心に、ここでは5冊を取り上げました。気に留めて頂ける本があると嬉しいです。
『旅する練習』(乗代雄介、講談社)
コロナウイルス感染症の最中、サッカーが大好きな中学に上がる前の少女と文学好きな叔父が、鹿島アントラーズの本拠地を目指して二人で歩く旅をする、その情景を描いた小説。あちこちで立ち止まってはリフティングに勤しむ少女と、叔父の思索。その空気感に魅せられました。
この本がひとつのきっかけとなり、サッカーを観る楽しみを今年知りました。候補となった7月の芥川賞受賞には至りませんでしたが、自分にとっては、大きく心動かされた1冊でした。
『オルタネート』(加藤シゲアキ、新潮社)
高校生限定のマッチングアプリで知り合った若者たちの物語。次々と切り拓かれていく目まぐるしい物語の展開のリズムが印象に残ります。スピード感とともに、一つひとつ丁寧に描かれたストーリーにしっかり心掴まれる自分がいました。
彼の小説はいくつか読みましたが、現役アイドルが書いた小説という枠はとっくに超えていると思います。様々なところで今年一番読まれた小説として挙げられるのも納得です。
『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(川内有緒、集英社インターナショナル)
目の見えない人が芸術を感じるということはどういうことなのか。著者の川内有緒さんは、そんな彼に寄り添ってさまざまな展覧会を観に行きます。目の見えない人に対して、何かサポートする、という自分が持っていた感覚を見事にこのエッセイはぶち壊してくれます。
著者の川内さんには『パリの国連で夢を喰う』という著作があり、わたしの好きな1冊でもあるのですが、自分の人生を、そして自分の新しい視点を切り拓いていく勢いが川内さんの書くものの魅力です。
『やさしい猫』(中島京子、中央公論新社)
東日本大震災の東北ボランティアで出会った、シングルマザーの保育士とスリランカ出身の男性。母娘で住む都会の町で偶然出会った二人は、少しずつお互いの距離を縮めていき、結婚に至る。しかし、母娘と彼の間には、国と国を阻む大きな壁が立ちはだかり…。娘が語り手となるこの物語は、「外国人と日本人の共生」という言葉と、立ちはだかる数々の問題を描ききっています。
読み手に引き寄せる小説の力というものを、今年いちばん感じた作品かもしれません。
『靖国神社の緑の隊長』(半藤一利、幻冬舎文庫)
第二次世界大戦で戦った兵士8人に焦点を当てて、やさしい言葉でそれぞれの人たちが持つ物語を描いています。表題作の『靖国神社の緑の隊長』は、戦地に木を植えて緑を残そうとした吉松喜三大佐の半生を紹介した物語。「自分の手で樹を植えたら、その一本に愛情がこもる。やさしい人の心を取りもどせる」という一言が印象に残りました。
半藤さんは、戦争に関わった人たちや史実を丹念に調べ上げた多くの著作を持ち、「歴史探偵」と言われる方でした。平和が当たり前と思っている我々に、戦争を知る視点を与えてくれる作家さんです。今年逝去されましたが、このような本を薦めていくのは司書の役目ではないか、と考えさせられるきっかけとなりました。
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