お悩み相談

 (もうすぐ25時。)
明日朝、正確には日付が変わってしまったから今日が期限の授業のレポートが遅々と進まずもうこんな時間になっていた。

わたしはラジコを聞きながら作業をすることにした。時間つぶしに見ていたツイッターでわたしの大好きな結城誠オフィシャルが「本日出演します。お時間ありましらご視聴よろしくお願いいたします」と、ある深夜放送の公式ツイートをRTしていたのだ。

結城誠はエッセイスト。
彼の本を何冊か読んだが、優しい言葉に引き込まれた。
声を聴くのは初めてかもしれない。

時報が25時を知らせ、軽快な番組テーマ曲が流れだした。


DJ「本日のゲストは結城誠さんです。どうもはじめましてー」

結城「はじめまして。」

DJ「いやあ、嬉しいなあー。僕、結城さんのファンなんです。今日こうやってお会いできるってうちのスタッフから聞いて、もう夢のようで、朝起きてずっと緊張してて、落ち着かなくてね、トイレに行ったり来たりして」

結城「え、大丈夫ですか?」

DJ「大丈夫です。もう出るものありませんから。(笑)」

結城「ふふ」


今日の内容は、来月出る結城さんの新刊のお知らせと近況報告。わたしはもうウェブで予約していたから(ふふん)と少し得意げに聞き入っていた。そして、結城さんの話すリズムに(文章と同じだ。少しシャイなのかな。それにしても元気良いDJだな、うざいわー)と思いながら そのラジオブースを想像していた。 




DJ「それでは、ここからはリスナーのお悩み相談コーナー!DJ松木におまかせあれー!」
ジャジャーンと乗りの良い音楽が流れた。

DJ「本日はね、せっかく結城さんをお迎えしているので、お付き合い、よろしくお願いします。」

結城「よろしくお願いします。」

DJ「では最初のハガキ。中学2年生「えびせん」さんからです。松木さんこんばんは。はい。こんばんは。」

DJ「僕は野球部です。毎日の練習が辛いです。もうこれ以上動けないような僕に監督は「神様はなあ、その人に乗り越えられない試練は与えないんだ!」と言います。こんなに苦しい練習をこなしているのに、もう部活辞めたいです。」

DJ「ということです。わかるわー。僕も野球部だったから、僕らの時代の部活は水飲ませてくれなかったから辛かった~。」

結城「え?水飲まないと死んじゃうじゃないですか」

DJ「でしょお?部活中水飲めなかった人いるかなあ」

DJ「いた。(笑)。スタッフの中にもいました。年齢ばれちゃうよねー」

結城「えええー」

DJ「すごい時代だったんですよ。一度、後輩が顔洗うふりして水飲んだらバレちゃって(笑)おまえらグランド10周だーつって。連帯責任ですよ。」

結城「すごい時代だ」

DJ「でしょ?今じゃ考えられない。」

結城「(笑)」

DJ「さて、どうしようかな。せっかくだから結城さんに丸投げしても良いかな。」

結城「え、僕ですか?いきなりですか?」

DJ「困りますよね。ははは。そうだなー。」
「そもそもこの言葉って誰が言い出したんですっけ?スポーツ選手?」

DJ「トップアスリートの精神力って半端ないと思うので。まあ、言葉が暴走を始めたって感じなんですよね」

結城「そうなんですか?」

DJ「そう。これね、引用元は実は聖書なんですよ。そしてこの言葉には続きもあってね。」

結城「なんだろう。とても興味深いです。」

DJ「うわ。結城さんに食いつかれてしまった。」
「結城さんならどうアドバイスされますか?」

結城「僕は帰宅部だったし、スポーツは苦手だったので、たぶん、、良いアドバイスが出来ないかなと思うんです。ただ、グランドで走ったりボールを追いかけている同級生とかを見てると眩しかったですね。
大会で優勝したりして全校生徒の前で表彰されたりすると、かっこいいなーと思ってるだけの生徒でした」

DJ「かっこ良かったですか?」

結城「はい。」

DJ「連帯責任で10周走らされてた僕らも誰かにカッコいいと思われてたんかなあ」

結城「はい。きっと(笑)」

DJ「えびせんくんねー、辛かったら部活は途中で辞めたっていいと思うんだよね。無理して続けるものじゃない。とも思う。」
「そもそも、結城さん、神様っていると思いますか?」

結城「ええ、僕はいる派です。」

DJ「いたとして、試練与えるでしょうか?」

結城「えええー。どうかなー。」

DJ「お前は絶対に乗り越えられるから試練与えてやるーって、それ神様がやっちゃダメでしょ。と僕は思うんですが、どうですか?」

結城「確かに。そうですね。そうか、神様がいたら。」

DJ「いたら?」

結城「その監督を事故に合わせるとか?」

DJ「こわっ!」

結城「それか、気付いたら時間をワープして えびせんくん中学卒業してたりとか。ですかね」

DJ「乗り越えず飛び越えちゃった(笑)」

結城「ですね(笑)僕が神様だったらえびせんくんに出来るのはそれくらいかなあ」

DJ「そうなんですよね。僕らが神様だったとしても、してあげられる事ってあまりないのかもしれないですよね。まして監督を事故に合わせるとか。(笑)」

結城「あ、それなかったことにしてください。カット出来ますか?」

DJ「ピー音入れてって、生放送ですこれ(笑)」

結城「まいったな。えびせんくんに申し訳ない」

DJ「えびせんくん、監督が事故したら結城さんの呪いだと思ってくれ(笑)」

結城さんとDJの笑い声が響いた。

DJ「え、やばい!もうお別れの時間になってしまいましたあ。本日のゲストは結城誠さんでしたー。ありがとうございましたー」

結城「どうもありがとうございましたー」



(え?終わり?)わたしはスマホを見た。時刻は25時50分。
(確か聖書を引用してるって言ってたな。)


わたしはスマホで「神様は乗り越えられない試練は与えない」と検索してみた。


(なるほどね。DJ松木やるじゃん。)
わたしは、この番組をラジコの「お気に入り」に入れた。

朝まであと4時間、レポートを仕上げる元気が出てもう少し頑張れる気がした。
背伸びし窓を開けた。

狭い空には星も見えないけれど(えびせんくん、がんばれ)と心の中でエールを送り冷たい風を浴びた。


#2000文字のドラマ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?