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文章A

まえがき

こんにちは。お久しぶりです。ちひろです。前は小説を書くのが趣味でした。鬱で趣味が消えちゃったんですけど,少しずつ再開しようと思っています。試しに書いてみました。あらすじみたいなもんです。

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 大学の帰りに,氷宮(こおりのみや)からすこし離れた坂の途中でバスを降りた。このバス停から少し歩くと旧県庁の廃墟があり,その裏に公園がある。そこを歩きたかったのだ。まもなく日が沈む。辺りが青みをおびた薄黒い光で包まれる。バスはうなりを上げて走り去った。バス停には何人かがバスを待っていた。彼らは今から帰宅するのだろうか。温かい家に帰るのだろうか。
 道を渡ろう。信号に近づくと,青色だった歩行者用信号は点滅して赤色となった。最近,渡ろうと思った信号が赤になることが多い。信号の待ち時間はSNSを開いて強迫的にタイムラインを更新する。止められない。そのうち信号が青になる。道を渡り,大正期に建ったという旧県庁に近づく。モダンな建築だ。これだけの規模がありながら,廃墟化している。くすんだ色の外壁を眺めながら歩いていくと,その裏に公園がある。ここは元々県庁に隣接した県警本部があった場所だ。建物が古くなったので移転している。跡地となった広い公園は一面の草原となっている。芝生が青い。
 ここを歩く者は私しかいない。孤独感が襲う。それと同時に,大学を去る頃から感じていた希死念慮が増幅してくるのを感じる。急に嫌なことを思い出す。鬱スパイラル。心理学で云うところの抑うつ的反すうだ。墜死,縊死といった考えが頭をめぐる。今は自死しか頭にないのだ。ぐわっ…と死への衝動が身体全体を覆う。ひどい怠さを感じて胸が苦しくなる。
 広い公園をふらふらと彷徨う。小山が繰り返す草原を歩いていく。恐ろしく広い草原だ。こんなに広かったかしら。それでも希死念慮を抱えながら草原を歩く。小山を登り下り…としてゆく。すると,人影が私を追い越すようにして通り過ぎた。そうして私を追い越したところで振り返った。黒いジャケットを来た,白いストライプの入ったビリジアンのシャツを着た,革靴を履いた,前髪の長い青年だった。顔がよく見えない。眼が悪いのだ。
「あら。ここを歩いていたんですか」
青年は私に語り掛ける。
「えっ…誰ですか…」
「過去のあなたです~!」
「そ…そうなんだ。今躁なの?」
「そうそう,躁。波があるんだよね」
 彼は私と並んで歩きながら呟くように云った。少しの間を経て,私は彼に答える。
「知ってるよ。でも将来,君には病名がつくよ。バイポーラ。」
「やっぱり。」
 もう一人の私はあっさりと受け入れている。そうして私に訊いた
「ねぇ,君は今マイナスなの?」
 私は答える。
「そうだよ。希死念慮に襲われていた。でも話せる相手がいてよかった。ここは誰もいないから。」
「そうなんだ。」そっけなく彼は答える。
「そう。変わったね。僕と君は1年しか時間が経っていないけど,ずいぶん変わったね。」
「どこが変わった?」
「そんな髪型じゃないし,ピアスも開けてない」
「あぁ,ピアスじゃないよ。これは見掛け倒し。」
「良いね。」
 少しずつ死から意識が離れていく気がした。でも希死念慮に襲われていたこをを思い出した。そして私はつぶやいた。
「死にたいね。」
「うん。死んじゃおっか。」
「うん。」
「その前に俺がどこからきたか教えてあげるよ。俺のいる世界線では俺は死んだんだ。大学の部屋で首をつって死んだんだ」
「あぁ,あの時成功したんだ。よかったね。。でも,君が経験しなかった良い体験もできたよ。いろんな人と仲良くなれた。」
「そうなの?羨ましい。。でも苦労もあったでしょ?」
「うん。」
 死にたいっていう気持ちを愛でる。
「じゃあ,あそこから飛び降りよっか。」
「うん。」
 近くに橋があるのだ。そこは自殺の名所なのだ。二人でそこへ向かう。橋は誰もいない。墜死するには絶好の舞台だ。欄干に腰掛け,下を見る。遥か下に道路が見える。
「死ねない」私はもう一人の私にそう言った。
「やっぱり?」彼も無理には誘わないようだ。
「絶対に死なないって友達と約束したから。また会いたい。」
「そっか,会いたい友達ができてよかったね。」
 彼はそう言った。次に横を見た時,彼はいなかった。驚いた私は思わず,今まで握りしめていた欄干から手を離した。(あぁ…)声にならない。そしてふと思った。我々は行きながら死に近づいているわけではないのだと。死はいつも我々とともにあって,あるエネルギーが偶然にはたらいて命を奪うのだと。


※この物語は虚構です。

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