キャプチャ

筒香嘉智のレイズ移籍報道を受けて

今オフ、ポスティング・システムでのMLB移籍を目指していた筒香が、タンパペイ・レイズでの契約に合意したという嬉しいニュースが昨日飛び込んできた。2年総額1200万ドル(≒13億円程度)での契約の模様だ。

レイズは、98年の球団拡張期に誕生したアメリカン・リーグの東地区にある若い球団だ。球団誕生から暫くは弱小で、なかなか優勝争いにも顔を出せなかったが、チーム名将を「デビルレイズ」から「レイズ」に変更した08年を皮切りに、潮目が変わり、そこからの数年間は常に優勝争いをするチームへと変貌した。今季は同地区でヤンキースに次ぐ2位に入っている。若い選手が多く、勢いのある球団だ。
かつては、野茂英雄、松井秀喜、岩村明憲らも在籍した。

■ 筒香はどういう選手?
筒香は和歌山県出身。高校は名門横浜高に進学し、甲子園にも2年夏時(08年)に主砲として出場。準々決勝の聖光学院戦では2本塁打8打点と大暴れする等、超高校級のスラッガーとして活躍。09年のドラフト会議で、地元の横浜ベイスターズから1位指名を受け、入団。すぐにプロのレベルにはアジャストできなかったものの、入団5年目の2014年にレギュラーを奪取。2016年には44本塁打を放ち、ホームラン・キングを獲得。全国区の選手へと成長した。また、翌年2017年のWBCでは先輩の中田翔らを押しのけ、4番に座り、侍ジャパンを引っ張った。2019年には、プロ200号本塁打を達成するなど、順調な道のりを歩んでいる。それらの実績に安住しない更に高みを目指した決断だ。

【プロ入り後の打撃成績】

年度別成績

【200本塁打 年少記録】

200本塁打年少記録200本塁打年少記録

■ 筒香は活躍できそうだろうか?
日本人がMLBに移籍することはもはや珍しいことではなくなった。但し、野手は投手に比べて厚い壁に跳ね返されてきた。その理由として、よく言われているのは、「動く」ボールへの対応の難しさだ。アメリカの投手のボールは、日本の投手のボールと違い、「素直」で「綺麗な」ボールが少ない。打者の手元で何かしら変化しており、それを的確にミートするのが難しいのだ。あの松井秀喜も当初相当に苦労し、「ゴロキング」などと米ファンから揶揄されていた始末である。
もう一つの理由は(内野の)守備だ。人工芝が主流の日本と違い、アメリカは天然芝が主流。天然芝は打球が遅いために、前方へのダッシュ力と鉄砲肩が要求される。あの松井稼頭央でさえ、遊撃手を「首」にされ、二塁手への転向を余儀なくされた。また、クロスプレーでも体力負けし、怪我をしてしまうケースも少なくない。ただ、筒香の場合は(三塁も守れるが)恐らく外野手としての起用が予想されるため、守備で過剰に悩むことはないだろう。
私は筒香を、松井秀喜とベイスターズの大先輩である鈴木尚徳のちょうど間ぐらいのタイプの選手と見ている。流石に松井ほどのパワーはないが、球を十分にひきつけ広角に力強い打球を打てるタイプの選手。日本人選手のシーズン最多本塁打は、松井秀喜の31本※。A.ロッドが低めの球を左手ではらっただけのように見える打球が、バックスクリーンに消えていく様を見ると、やはりアメリカではスラッガーとして活躍するのは難しいかもしれないという印象を持つ。
※松井の名誉のためにも言っておくが、近年は「飛ぶボール」が使われているとも言われており、本塁打の価値が昨今は少し下がっているような印象を受ける。

【日本人野手のMLBでの本塁打ランキング】

日本人選手

但し、筒香は、頭のいい選手。「自分はスラッガーでなければならない」というようなプライドに固執するのではなく、周囲の環境や周囲からの要請に柔軟に対応できるタイプ。ベイスターズでもチームの状況に応じて、時には自分を犠牲にしてでも勝利のために全力のプレーを重ねてきた。やはり、アメリカで活躍を納めている黒田博樹や田中将大を見ると、自身の美学に拘泥するのではなく、いかにその環境に対応できるかと点にフォーカスする姿勢が求められているような気がする。筒香は、その資質は十分に備えていると言っていい。

また、語学の習得にも余念がない。他の選手が身体を休めているオフ中にも、かつてドミニカに野球留学し、言葉を必死に覚えたのだという。ラミレス監督とはそのとき培ったスペイン語で、会話していたようだ。外国でブレーするうえで必要なメンタリティーを備えた選手のように思える。

■ 最後に
人生の半分を過ごしてきた横浜を離れ、メジャーに挑む筒香。
私もMLBの試合を現地で何試合か見たことがあるが、日本の球場とは違い、まさしく「ボールパーク」だ。綺麗な天然芝に、楽しそうなファンの姿が忘れられない。(日本の球場のファンサービスも昨今急激に進化しているが)
筒香は、日ごろは多くは語らないが、現代の日本野球の「勝利至上主義」の弊害を色々な場面で熱く訴えている。子供たちにとって明るい野球界を作っていく一人でありたいという思いからだと言う。今回のアメリカ挑戦には、心から野球を楽しめる場所でプレーし(勿論、ベイスターズでも楽しくプレーしたきたと思うが)、いつかその現地現物を日本に還元したいという思いがあるのかもしれない。舞台を世界へと移す日本の主砲の決断を私は支持したい。頑張れ、筒香。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?