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大相撲春場所(大阪場所)展望

大相撲春場所が今日から開幕。協会が新型コロナウイルスの感染拡大を危惧したことで、無観客での開催となる。十両が土俵に上がる頃には、お客さんの歓声が聞こえ、幕内が土俵が上がる頃にはそれが大歓声となって一体的な雰囲気を醸し出す。そのいつもの場所の風景が今場所はない。力士たちにとってお客さんの歓声は力になり、その声が聞えないことは最初はやりづらさもあり、寂しい思いもするだろう。だが、テレビやネットでのファンがおり、何より自分の番付がかかっているという厳然たる事実に身を置いている立場として、数日でその環境にも慣れ、いつも通りの好勝負が数多くみられると思う。

■先場所(初場所)の振り返り
さて、先場所をざっと振り返っておこう。先場所は、幕尻(前頭17枚目)にいた徳勝龍がまさかの初優勝を果たした。十両からの帰り入幕であり、彼が優勝することを予想した人は誰もいなかっただろう。まさに「戦国時代」を象徴する快進撃だった。彼は、引退した稀勢の里や豪栄道と同級生であり、いわゆる「花のロクイチ組」の33歳。これまではあまり積極性を感じない取り口だったが、場所前に急逝した大学時代の恩師が乗り移ったかのように積極的な取り口を貫き、千秋楽では大関貴景勝を撃破して堂々の優勝を果たした。

また、その徳勝龍と最後まで優勝争いを続けたのが前頭4枚目にいた正代も印象的だった。彼のここ数年の取り口を観ていると、大きな身体を持て余し、積極性にかけ、歯痒い思いをしてきた。新関脇までの昇進は早かったが、その壁に跳ね返されると、幕内上位と下位を往来するエレベーター力士となってしまい、いつしか大関候補と呼ぶ人がいなくなっていた。それが先々場所に11勝、先場所は13勝と結果を出し、その変貌ぶりにはとても驚いているところだ。
それからやはり炎鵬にも触れずにはいられない。自己最高前頭5枚目の位置で見事8勝7敗と勝ち越した。大関豪栄道や関脇朝乃山を撃破してもぎ取った勝ち越しは価値がある。異能力士として、あの身体でどこまで上に上り詰めることができるのか目が離せない。

大関豪栄道が場所後、引退を発表したのは衝撃的だった。2場所連続で負け越したことで、大関からの転落が決定していたが、再び大関への返り咲きを目指して現役を続行すると予想していた方も少なくなかったと思う。高校時代から名を馳せており、プロの世界でも相撲勘の良さを武器に大関まで上り詰め、全勝優勝も経験したが、安定感には欠ける面も否めなかった。どうしても脇が甘く、相撲が雑であるため、取りこぼしが多かった。大関在位33場所のうち、負け越しが8回もあり、10勝以上が6回しかないのは歴代の大関の中でも強い方とは言えない。それでも33場所の在位は歴代10位にあたり、怪我を負っても言い訳をせず土俵に上がり続けた態度は立派であった。長い間、お疲れ様でしたと労いたい。これからは自身の果たせなかった横綱になれるような力士を育てて欲しい。

■ 今場所の見どころ
今場所について話を進めていこう。今場所の番付については、下表を参照されたい。(図1参照)前章で触れたように、大関豪栄道が引退したことで大関が一人、そして横綱も二人しかおらず、貫禄にかける番付となっている。また、本来なら優勝争いも白鵬、鶴竜の両横綱中心になろうが、両者休場明けで、どこまで仕上げてきているか未知数だ。先場所同様に非常に優勝争いが読みづらいが、先場所千秋楽で自身が負けたことで、平幕優勝を許してしまった大関貴景勝は期するものがあるだろう。白鵬や鶴竜の両横綱に引導を渡すような迫力ある取り口を期待したいところだ。

【図1:春場所の上位番付】

2019年3月場所 番付


東の関脇には、朝乃山、西の関脇には先場所優勝争いを盛り上げた正代が座る。やはり関脇が好調な場所は面白い。この二人に優勝戦線を大いに引っ張って欲しいところだ。特に、朝乃山は先々場所小結で11勝、先場所関脇で10勝しており、今場所の成績如何では、場所後の大関昇進も十分考えられる。明確な規定・基準があるわけではないが、三役で直近3場所の成績が33勝することが大関昇進の目安とされており、今場所12勝すれば33勝に到達する。(図2 参照)。また前出の通り、西大関が空位となっており、新大関の誕生を待望していることも追い風となろう。自分の型にはまったときは無類の強みを発揮する一方で、そうでないときに意外にあっさりと負けてしまうことがある。勝ち星もさることながら、大関昇進を協会もファンも望むような説得力のある一番一番を期待したい。

【図2:21世紀以降の大関昇進者の直前3場所の成績】

21世紀以降の大関昇進者直前3場所


そして、先場所殊勲賞を獲得し、こちらも人が変わったように攻撃的な取り口を身につけつつある遠藤にも注目したい。入門から入幕までのスピード出世、そしてそのルックスからも人気力士として土俵に活気を与えてくれている遠藤だが、相撲に巧さは感じるも、力強さや速さに私は物足りなさを感じた。それが先場所は前半戦目の覚めるような取り口には目を丸くした。後半は「ガス欠」が見て取れたが、先場所から今場所にかけてどれだけ稽古ができたかが鍵を握るだろう。
先場所の優勝者である徳勝龍は、前頭2枚目にまで番付を上げて、どのくらいやれるだろうか。他力士も研究を重ねてきていると思われ、なかなか簡単にはいかないだろう。優勝力士インタビューで、「まだ33歳です!」と嬉しいコメントを残してくれたが、先場所の優勝がフロックではなく、地力があったんだなと思わせる取り口を期待したい。

■最後に
冒頭触れた通り、無観客での開催となる春場所。経済的損失も大きく、力士たちも寂しさを感じるだろうが、ネット中継等新たな相撲の見方が萌芽するチャンスとも捉えることができる。協会は有識者を招くなどして、創意工夫してもらいたい。そして新型コロナウイルスもそう遠くない間に終息し、5月場所は、私の自宅から近所の両国国技館でリアルに相撲を観戦したいところだ。

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