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東方虹龍洞 駆け引きと魅力を引き出すもう一つのカード

「このゲームの弾幕は口ほどにものを言う」と東方Projectの作者自ら東方永夜抄のおまけテキストで語るほど東方における弾幕はこのゲームにおいて単なる攻撃以上の表現を持つ。

弾幕がキャラの個性を表現しているのであれば、自機のシステムはストーリーの特徴を表現している。

残機、ボム、オプション、強化内容といったリソースの増やし方は作品ごとに大きく異なり、作品の異変に準じた内容になっている。
天空璋、鬼形獣 ではオプションや強化がラスボスとの演出に大きな役目を果たした。

他に例を挙げると未確認飛行物体が現れた星蓮船では指定のアイテムを集めてUFO倒すことで残機、ボムを集める。
地霊殿ではボムとして遠隔操作で助けてくれる味方オプションを使用する。

STGは言い換えると残機をなくさないよう維持するゲームなので可能なかぎりライフを増やすパターンをくんで、難しいなら無理せずボムを打つという基本であり、東方も変わらず続いていた。
目と指を鍛え、自身の限界を見極めてボムでパスをするというSTGの緊張感を維持する上でそれは極めて自然であり、1~6面通してアーケードゲームから続く伝統的な楽しみ方ともいえる。

最新作、東方虹龍洞ではこのリソース面における駆け引きに大きな変化があった。それがアビリティカードによる強化だ。ボスを倒すと敵を倒して集めた資金力でカードが買える。
内容は様々で攻撃や弾を消すスキルを発動したり、ライフやボムなどのリソースを増やしてくれる。
購入できるカードはランダムだが一度カードを買うと1~3枚の初期装備として選べるのでシナジーのいいカードや苦手な弾幕に強いカードを持っていける。
プレイのたびにランダムなアイテムを集めつつ、強化のアンロックを行う、いわゆるローグライトのようなシステムが組み込まれている。

もう一つ、負の面における仕様があり、ミスのたびにパワーを1.00落とす、同時に資金力の1/3を落とす。(ただし資金力は100は超えて落ちない)
もしパワー4.00、資金力300のときにボスのラストで2連続ミスするとオプションは2個になり、資金力は66(+撃破でもらえる30ほど)でほとんどのものは買えない。
雑魚を早く倒すほど多く資金力をドロップするがパワーがなければますます貧乏になるので継続的に不利になる。
アビリティカードで多く残機を増やしても被弾の「ダメージ」がパワーと資金力に及ぶのだ。
今作の雑魚は堅いのも多く、パワーがなければ厳しい戦いを強いられる。

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雑魚を倒せずにいると弾幕の密度は増していく

一方的に残機を増やしても弱い状態を維持されるためこれをいかにカバーするか。その多様な選択肢としてカードを選ぶ。ボムを増やす、パワーが落ちても戦える追加オプションをつける、早く敵を倒す攻撃を身につける…

そのなかで自機の特徴やカードのシナジー、苦手な弾幕の対策などを考えるのが非常に楽しい。もしこの負の仕様であるダメージがなければ対策と工夫をこらす楽しみはうまれずにカードでライフをひたすら増やしていただろう。そもそもダメージの影響力がなければライフを増やせるカードが実装されてないか、残機3つ増える不死鳥の尾などを買えるようになるまでリセマラをしていただろう。それはきっと退屈なゲーム内容になったかもしれない。
(一応カード購入が限られているEXにおいて不死鳥の尾を引くまでリセマラするというプレイもなくはない。)

カードを選ぶシステムはリソース管理をプレイヤーに委ねるところも大きく印象を変えた。幅広いプレイヤーのいるナンバリングタイトルで(外伝的ものを除いた)18作目となると、プレイヤーによって様々な要望や過去作の良し悪しについて捉え方が大きく変わってくる。
天空璋や神霊廟のように第二のボムが欲しい、序盤になれてきたから地霊殿みたいにミスしないほど残機を増やしたいという具合だ。

買うことのできるカード53枚中リソースの増加、減少の補填など関係するカードは約25枚ある。(地獄の沙汰も金次第のようなタイプも含む)
カードの約半分が残機、ボム、リソース、パワー、資金力のいずれを重視するかをプレイヤーにある程度、権限があるのだ。
もちろん、のこり半分のある装備、使用カードで強化を狙ってもよい。
初期装備からの指針を守るか、ミスをリカバーできるカードを買うか、安価な命のカードを選んでおき、次のショップに賭けるか。
どのカードも非常にバランス良く作られており、どれを買うか非常に悩ましいがそこが面白い。

カード購入の駆け引きの妙とこれまでの幻想郷の住人の特性を見事に表現したのは素晴らしい。
カードのフレーバーテキストからも様々なキャラに対する周りの印象など多角的に語られている。

ミニ八卦炉

スペルカードが対立する相手と直接のやり取りなのに対してアビリティカードの流通は幻想郷の住人同士から見た互いの魅力の再確認となった。
そしてプレイヤー自身との関わりにおいてシステムとともに多彩なキャラクターの現れとその魅力をより引き出したといえる。

ZUN氏が素晴らしい作品を届けてくれたことに感謝すると同時に、また多くの人が東方を含めた幾多もの作品の魅力を気兼ねなく発表できる場ができることを願っている。

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