見出し画像

見えない世界の物語 奄美大島


夢をみた。
ひらけた海と、大岩の夢。

オンナガミとオトコガミはゆったりと大岩に坐り、わたしに言う。


「いつ来るのだ。なにをしている。」


そこで目がさめた。








奄美の緑は濃い。

息をすれば、産毛まで染まりそうだ。

「日陰はすこし涼しいでしょう。」


宿のおかみさんが笑う。










涸れた沢。
呼ばれていたのはここだった。


ガジュマルの古木をくぐり、森の奥へとすすむ。










「これだ。」

森からしみ出す水が塞がれていた。










おかみさんと水源に積もった落ち葉をかき集める。

生い茂る枝が、顔や腕に小さな傷をつくった。











最後に泥塊をかき出した時、にゅるり、と何かが現れた。
大ドジョウだ。

と、その尾を追うようにぶわっと水が湧き出した。







「あれぇ、とおまさん!出たあ!」


泥まみれの顔を見合わせてふたり、笑う。















気がつくと夕闇が迫っていた。山を降りないと。
そのとき。






「とおま、待ってよ!」









こどもの声がした。
目を凝らすと、ヒカゲヘゴの根元に小さなケンムンがいる。






「まだ、井戸のそうじが残ってるよ!」









島には涸れた水源がたくさんあるのだろう。
木の精たちは、落葉や泥を動かすことができない。


これはひとの仕事なのだった。












「ごめん、また来るよ。約束する。」


ポケットの赤い飴玉をそっと差し出す。








ケンムンはうれしそうに跳ねてくると、飴玉をのみ込んだ。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?