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Cheap Queen / King Princess

King Princessのデビューアルバム「Cheap Queen」。
まさかの、1作目である。


彼女の音楽はどれも、聴けば聴くほどはまってしまういわゆるスルメ系だ。
正直、一番はじめに聴いた時には「おー、ポップだな、いろんな曲があるな」くらいの印象だった気がする。
アルバムのジャケットに写っているのも、ドラァグクイーンに扮した不思議な人で、King Princessという人物もその曲も、なんとなく掴み所がない。
最初に聴いた瞬間からカミナリに打たれた!みたいな衝撃があったわけではなかったのだ。

けれど今思えば、この「掴み所のなさ」こそが、私がKP沼に引きずり込まれた理由だった。
聴いた瞬間「これ好き!!」となったわけではないのにも関わらず、初めて聴いた日から私は、本当に毎日のように彼女の曲を聴き続けた。
最初はなんだかよくわからなかったが、だからこそ気になって聴いてしまう。
聴くたびに新しい音の発見があり、あの少しかすれた声がどんどん耳から離れなくなっていく。
その魅力がじわじわと私の中に侵入し、気づいた時には抜け出せなくなっている…

そんな恐ろしい音楽たちが、このアルバムには凝縮されている。


Useless Phrases
古びた遊園地の、ひと気のないメリーゴーラウンド。イントロを聴いた時私の頭にはそれが浮かんだ。
ノスタルジックな曲を予想した次の瞬間、イカした打ち込みと声が飛び込んでくる。次はどうなるのかと耳を澄ませていると、"Baby"で急降下しあっという間に終了!まさにジェットコースターのようである。
たった1分16秒で、ここまで揺さぶられてしまうとは。彼女の音楽の幅広さを物語っている楽曲の一つではないかと思う。

Cheap Queen
アルバムのタイトルにもなっているこの曲。
なんと言っても"I can make grown men cry"というフレーズに鳥肌が立つ。
強さとさみしさが表裏一体になっている、King Princessという存在を表現している言葉のように感じた。

Trust Nobody
私はKPの、"you"の発音が好きだ。
なんだかねちっこくて、その人への執着というか、思い入れ、欲みたいなものが聴こえてきてドキッとしてしまう。
とりわけTrust Nobodyの、冒頭の"you"が耳に残る。
"I don't ever trust nobody / No, I don't ever trust / But I trust you / Ain't that great?"
このフレーズ!リズム感の良さも相まって、いきなり心を持って行かれる。
そして、サビの韻を踏んだ歌詞とリズムが最高に格好いい。
"And she said, 'Meet me at the party' / But I don't know nobody"
"They treat you like a ticket / But I just want to kick it"
さらに中盤を過ぎたあたり、曲調が転換する場面でのドラムとベース、シンセサイザー。これがまたくせになる音とリズム…
もう、次から次へと、畳み掛けるようにして圧倒的な音楽が流れてくる。
こんな音楽を聴いて、じっとしていろというほうが無理だ。
なぜこの曲を好きなのかといえば、音の楽しさというものを心底感じさせる曲だからだと気づく。
何度聴いても慣れることのない曲、かなり中毒性が高い。

Hit the Back
音と言葉のセンスは言わずもがな、彼女が本当に天才的だと感じたのは、そのスター性である。
テレビ番組でHit the Backを演奏した時の動画が、ネットにあがっていた。
バンドメンバーに囲まれて歌い躍りまくるKPは、完全にステージを自分のものにしていた(これがテレビ初出演というから大物すぎ)。その姿に終始釘付けになり、思わず笑ってしまうほど良い。明らかな主役感、多くの人を惹きつけてしまうパワーを感じた。
スター性にももちろん色々あるだろうが、私は、彼女の中に時々垣間見える「脆さ」のようなものが、スター性の源泉の一つではないかと考えた。
彼女はいつも自信に溢れているように見える。先述のテレビ番組でも緊張した様子は一切見せず、インタビューなどの場面でも、おそらくその場で一番年下であるにも関わらず自分の考えを堂々と話している。
その一方で歌詞の中では、弱くて脆い一人の女性となる。
"Ain't I the best you had?" "I'm your pet"
Hit the Backの中でも、こんな言葉で、すがるように訴えている。
圧倒的なセンスと自信という強さと、ものすごく繊細かつナーバスな内側。
こうした矛盾から生まれる脆さや危うさのようなものが、彼女の魅力を一層際立たせ、目を離せなくしているのではないか。

なんだか楽曲の感想ではなくなってしまったけれども、
ともかく私はHit the Backを聴くといつも、彼女の有り余るスター性をビシバシ感じてしまうのだ。


アルバムのもれなく全曲、その声と音を聴いているだけで最高なのは間違いない。
しかし一度歌詞を見ながら聴いてみると、その魅力が一層増す。
聴いていただけでは気づかなかった、なんとも切なくてヒリヒリする、そしてどこか哲学的で掴みきれない言葉が、曲の印象をまた変える。

私は自分が、King Princessと同い年である(誕生日も近くて嬉しい)ことを誇りに思う。
こんなにもかっこよく自由な生き様を見せつけられたら、自分にもできる気がしてくる。自分のままで生きることが、何よりもクールなのだ。
そして何より、このスターがこれから一体どうなってしまうのか、リアルタイムでフォローしていけることがとても嬉しい。