バレンタインの悲しい思い出



*キノコの胞子

 noteでバレンタインの思い出で検索すると、色々と楽しそうな記事が並ぶ。好きな人へのチョコの作り方、渡し方、学生時代の甘酸っぱい思い出などなど。

 すごい、まるでキラキラしたラメかなんかを撒いているみたいだ。

でも僕はそういう出来事を体験していないから書けない。だから、もっとじめじめしたキノコの胞子みたいなものをばらまくつもりだ。


 さてテレビで、どの番組とははっきり言わないが、ある特定のカテゴリの番組というのは根強い人気がある。そういう番組を見て自分はこの人たちよりマシだと思うことでカタルシスを得て、明日への活力にするのだ。


¥バレンタインの悲しい思い出

話が回りくどくなった。つまり今年もバレンタインにろくな目に合いそうもない方々に私の

大変悲しい話を聞いてもらって、ああ自分も悲惨だがこいつよりはマシだと思ってもらう、そういう趣向だ。


¥ドラフト落ち

僕は野球はルールも曖昧だが、毎年のドラフトだけは欠かさず見る。どの選手がどうというよりあのなんとも言えない人間ドラマが好きなのだ。そして今からはるか昔、自分も同じような経験をしたことがある。


それはバレンタインを何日後に控えた日の放課後。僕は教室に忘れ物を取りに行った。そしてすでに中に何人かいるのに気づきドアの前で立ち止まった。窓からそっと見るとクラスの女子でもいわゆるカーストの高い、いけてる子たちが固まって、お菓子作りの本を並べてああでもないこうでもないと話し合っている。

「〇〇ちゃんは、誰にあげるの?」

聞かれた子は僕の家の近くに住む小さい時からよく遊んだ子だった。高学年になるにつれ、だんだん男子、女子の境ができ、今はもうあんまり遊んでいない子。

彼女は恥ずかしそうに、「〇〇君」とクラスでスポーツができるある男子の名を告げた。

ワーと騒ぐ女子達。そりゃそうなるか。期待していた自分が恥ずかしい。僕はいつ教室に入ったらいいのか、このまま帰ろうかとウロウロしていた。すると彼女が思いがけず続けた。

「あと、〇〇君、〇〇君、〇〇君、そして〇〇君でしょ、あと」

周りの女子も、僕も同じようにびっくりしていた。そっちかー。彼女はそういうタイプの子だったのだ。別に悪いことではない。八方美人とかなんとかうるさいことをいうやつがいるかもしれないが、そういう人はチョコの原液のタンクに頭を沈めてきたらいい。

 僕はワクワクしながら、彼女があげる名前を聞いていた。田舎の学校、クラスも生徒の数もめちゃくちゃ少ない学校、もう男子の大部分はすでに彼女のバレンタインドラフトで名前を読み上げられ、野球なら記者が取材に来ているところだ。まだか、まだか、僕の名は。


もったいぶるつもりもない…そう僕の名は読み上げられなかった。僕だけでなかったのが救いだが、小さい頃に遊んだのに…ホワイホワイ?地区も離れたイケてる男子達の名を嬉しそうに告げる彼女に僕は落胆した。

「何人か残ってるけど?w」周りの女子の誰かが死体蹴りをする。

「うーん、なんか〇〇君達って休憩時間教室の端っこで絵描いててちょっと気持ち悪い」

そこからの記憶はあまりない。何日か後、僕はそんなことも忘れ父親が持ってきた包紙を剥くとパツキンのお姉さんの服も一緒に脱げるチョコに夢中になっていた。(完)

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