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失敗は成功の母じゃないかもしれないけど、成功の一歩手前かもねって話

仕事終わりに電車が止まっている。
むむ、ホームは人でごった返しているし、だったら駅近の複合施設で夜ご飯食べちゃおうと思い、普段行かないお店に入ることにした。

そこは牛タン専門店なんだけど、入店してからメニューを見てビックリした。普段よく行く「ねぎし」という牛タン専門店よりもちょっと高い。同じくらいだと勝手に思って入店してしまったぼくがいけないわけで。

スタンダードメニューの中でも量が良さげな、松竹梅なら「竹」的なメニューと生ビールのグラスを1つ注文した。ぼくにとってはちょっとだげ贅沢な夕飯だ。

ぼくは店員さんの顔を1度も見ていない。というか見れなかった。
何故なら、顔が物凄く近いのだ。距離感がマジで近い。お客さんの注文を聞き逃すまい!とする姿勢が顔や名札を見なくても「新人くん」である事は容易に想像出来たからだ。
ぼくは飲食店の店長業務をした経験があって、ひと回りも下の大学生たちと過ごした事がある。元店長の勘である。

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キンキンに冷えたグラス一つ

しばらくすると、元気よく「失礼します!」の声。先ほどの新人くんがビールを持って来てくれたのだ。

しかし、ぼくの目の前に置かれたグラスには黄金色したシュワシュワな液体が注がれていない。冷蔵庫で冷やしていたのであろうグラスの表面は曇っている。曇り越しでも1日の疲れをプハァーできるアノ飲み物が入っていないことが分かる。

頭の上にはてなが生まれたと同時に、彼は食い気味にアサヒスーパードライの瓶ビールをテーブルに置いた。こちらも冷えてて美味しそうだ。


「ビールとグラスおひとつになりまーす!」


ふぇえええい、青年よ!生ビールのグラス言うたよね?とちょっと前の自分ビデオを脳内で巻き戻してみても、たしかにはっきりと言っている。生ビールのグラスをひとつと。記憶力が残念無念な人ではあるが飲む量をセーブしていて悩んだ結果、生ビールのジョッキでもなく、瓶ビールでもなく「生ビールのグラス」を注文したので自信はある。(普段は瓶ビールを頼む事が多いから、ちょっとだけ自分を疑った)


「えーと、グラスビールをお願いしたと思うんですけど…」

「グラスとビールはこちらになります!」


ん???あーーーーーー!なるほど!

生ビール=ジョッキだと思っていたのか、そもそもグラスの生ビールの存在に今まで出会っていなかったのかはさておき、彼の中では「ビール+グラス=瓶ビール+グラス1つ」に脳内変換されていた事にそこで気がついたのだ。

そこてドリンクメニューを取り出して指差しながら、これです、この生ビールのグラスを頼んだんです、とお伝えした。


「すみません!しばらくお待ち下さ…」


その瞬間、人間充電が切れかかっている頭をフル回転させて、今までの経験と彼が置かれている状況を分析してみた。

彼は新人だ。
瓶ビールを持ってきた時ネームプレートに「初心者マーク」が貼り付けられているのが見えた。顔も見た。マスク越しでもわかる雰囲気で大学生くらいの年頃と予想した。ぼくが働いてきた飲食店ではザッとメニューの説明と決まっているテーブルの番号を教えられ、後は実戦でわからない事があればその都度聞いてね!スタイルだったので、もしかしたらその状況に似ているのかもしれない。

彼が栓を開けた瓶ビールとグラスを持って帰ろうとしたのを食い気味に止めた。


「いや大丈夫だよ。もう開けちゃったでしょ。飲むからこれ。ドンマイ!」(スマイルしたつもりだったけど、多分引きつってる)


彼は終始申し訳なさそうにしている。そしてこう言った。


「すみませんでした!今後気を付けます!」


偉い!と思ったし、サラッと謝れる所に純粋さを感じた。
だけど、世の中ってスゲーあり得ない位に問題にしちゃう人もいるし、今後気を付けてもぼくが次来るかどうかは分からないわけだ。

ひとしきり謝ってくれた彼が去ったあと、瓶ビールをグラスに注ぐ。
冷えているビールを冷えているグラスに注ぐと美味しい泡を作るのが難しい。ほとんど泡がない黄金色のキレあるビールを飲みながら、色々と考えた。

端から見れば、ぼくの行為は優しさと捉える人がいるかもしれない。でも社会って優しさで溢れているわけじゃない。ここで厳しい事を言えたし、店長レベルの人に話をしてきてもらってどう対処するかを話してもらうのも手だったわけだ。

でも、ぼくがその役をかってでるのはしたくなかった。


もしかしたら今後あり得ないくらい怒りをぶつけられる事があるかもしれない。でも、優しく返してくれる人もいるんだって事を知って欲しかった。その失敗を相手にどう受け止めてもらうか、自分がどう対処したら良いのかを考えてもらいたいな、と少しだけ思ったのだ。

そのシャンパンは、甘いのか、辛いのか。

note失敗は成功の母2

飲食店で働いていた頃、ぼくが休みの日に2,000円位のシャンパンをお客さんに頼まれたバイト君が、こともあろうか天下の「ドンペリ」を開けてテーブルまで持って行き、お客さんが気づいて声を掛けてくれたという事件があった。

ひと段落したタイミングで社員から連絡が来たときには、さすがにビックリはしたけれど思わず笑ってしまったのを覚えている。

失敗を指摘するというよりも注文してくれたお客さんへの対応が気になって聞いてみた。

「〇〇さん、お客さんにはその後どんなフォローをしたんですか?」

「まだドンペリを飲んでいなかったので、ご注文されたものと交換しました。特に怒っていらっしゃらなかったですよ」

正解です。でもぼくはこう考えていました。

2,000円のシャンパンを頼んだのに、酒屋さんで買っても2万円くらいしちゃうドンペリが間違って出てきちゃう居酒屋なんてないでしょ。前代未聞ですよ。こんな面白エピソードなんかそうそう出会えないです、きっと。

だったらお客さんがもし飲みたいって言ってくれれば、2,000円で出しちゃえば良いって思ったんです。

お客さんにとってみればラッキーだし、変わった店だなぁと印象に残る。もしかしたらこれをキッカケにまた足を運んでくれるかもしれない。そうじゃなかったとしても、お客さんの日常会話の中で面白ネタとして披露してくれるかもしれない。

失敗しちゃったバイト君が失敗を重く受け止め過ぎずに、笑いとユーモアに溢れる接客ができるようになるかもしれない。とっても純粋で凹みやすい青年だったから、肩の力を抜いて接客してもらいたかったという店長目線での考えもあったけど。

失敗を責めることは簡単です。でも、関わった人たちの次につながる「笑い」で方向性を示すこともアリなんじゃないかな、と当時のぼくは考えていました。

だから、もし次なにか失敗したときには「次に繋げられる”ひと工夫”」を考えて欲しいとバイト君と社員に伝えました。

次の日にアルバイト全員と社員が集まって、少し気の抜けたシャンパンで乾杯しながらワイワイと酒盛りしたのは良い思い出です。月末に請求書の報告でドンペリを新たに頼んでいることを社長に指摘されて事の顛末を説明した時に社長も笑ってくれてホッとしました。

はい、変な居酒屋でした。好き勝手やらせてもらって、いろいろ理解を示してくれた社長には感謝しています。

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失敗を笑いに変えるのは、実は難しいかも

飲むはずじゃなかったビールをもったいない精神でなんとかグビグビ飲みほしてお会計に。レジでは別の店員さんに対応してもらった。思い切って彼は新人なのですか?と敢えて聞いてみた。

新人も新人。コロナの影響下でバイト初日から店舗閉鎖、営業再開してから3回目の出勤だそうだ。アルバイトたちへの教育が行き届かないくらい社員たちも状況が毎日変わる中で働いているらしいことを教えてくれた。

ぼくは元飲食店で働いていたからなんとなく状況は想像できます、とだけお伝えして。店員さんから「彼の対応でなにかございましたでしょうか?」と言われた。

この言葉が出るってことは誰も状況を把握していないし、ぼくから今伝えるつもりもないから「いいえ、なんにもありませんよ。彼に『がんばってるね!』とお伝えください」とだけ伝えてお店を出た。きっとこの時も笑ってるつもりでも顔は盛大に引きつっていただろうなぁ。


自分の失敗を相手に話す時、いかに辛かったかと話しがちだった時がある。
でも、話し終えるといつも虚しさが心のどこかに漂っちゃってるのを感じて、意識しながら面白おかしく伝えるようにした。

少しづつだけれど話している時に良い経験だったなぁと思えるようになってきたし、笑って聞いてくれる人も多くいた。中にはそんな失敗を笑ってヘラヘラ喋る奴の気がしれない!とお説教を食らったこともあるけれど、そういう人の話はマジで面白くないし、武勇伝を語りがち。ほんと勘弁して欲しい。

人を責めることや自分の失敗を責め続けることは、実は簡単なのかもしれない。それを笑いに変えられないから人は苦しむんじゃないかな。

無理に笑いに変える必要はなくて、人それぞれのペースがあるから焦りは禁物です。ちなみにぼくの人生の中での大きな失敗談を本気で笑い話にできるまで5年以上かかりました。

来週で牛タン専門店がある街に行く機会がなくなります。

その前にもう一度お店に行って生ビールのグラスを頼んでみたい。
ちょっと高いので、当分ひもじい夜ご飯になるけれど、面白さへの興味の方が勝ります。

次も瓶ビールを持ってきてくれたら・・・グラスをもう一個持ってきてもらって新人くんと乾杯します。しなきゃ気が済まない!

とかね。

さまざまな人に出会うために旅をしようと思っています。 その活動をするために使わせていただきます。 出会った人とお話をして、noteで記事にしていきます。 どうぞよろしくお願いいたします!