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低酸素換気療法(N2吸入療法)


皆さんは低酸素換気療法(N2吸入療法)はご存知でしょうか?

肺血流増加型心疾患

で使用されます。

肺血流が増加してしまう場合、肺動脈絞扼術(PA banding)を行うこともありますが、まだ小さい児などにはできないことがあります。
そのため、一時的な循環管理として低酸素換気療法(N2吸入療法)を行うことがあります。

(肺血流増加型心疾患の例)
・左心低形成症候群(HLHS)
・大動脈縮窄、離断(CoA、IAA)
・両大血管右室起始症(DORV)
・複合により肺血流増加を来たしている場合
                                                              など

左心低形成症候群(HLHS)

肺血流増加型心疾患は、シャントによって血液が低圧の右心系に流れやすくなります。
それにより、心臓や肺循環へ容量負荷となり、多呼吸や呼吸障害を伴う心不全になることがあります。
疾患によっては、高度な肺血流増加および体血流減少によってショックを来たすこともあります。

低酸素換気療法(N2吸入療法)は、21%の空気にN2ガス(窒素)を混合することによって21%以下の低酸素濃度のガスを供給します。

しかし、長期的な予後に関する点など課題は多いようです。

(作用と副作用)

①作用
生理的反応である低酸素性肺血管攣縮を利用して、肺血管抵抗を上昇させます。
肺血管抵抗が上昇することで肺血流は低下、それにより体血流量は増加し、pHの改善体血圧の上昇尿量の増加などが期待できます。

②副作用
長期的な低酸素吸入による肺実質の変性各臓器の成長神経学的予後を含めた長期的な予後は不明とのことです。
また、換気血流比不均等(VQミスマッチ)を助長することもあります。

(適応)

 肺血流増加型心疾患に対して行います。
手術までの全身管理を目的として行われることが多いです。
呼吸障害を合併している児の場合、換気血流比不均等を助長する可能性もありますので、注意が必要です。
多呼吸やチアノーゼ、尿量減少、乳酸値上昇などが認められる場合に治療を開始することが多いです。

(投与方法)

窒素ボンベを使用して吹き流し、空気ガスとの流量比で行うことも可能であるが、専用のブレンダーや濃度計を使うことをオススメします。

窒素・空気精密ブレンダー
精密酸素濃度計

あくまで上記に記したものは例になります。
高価なものになりますので各施設でよく検討してからご購入してください。

酸素の投与濃度は14〜20%が多いです。
目標とするSpO2が75~85%のことが多いので循環動態などに合わせて適宜調節をします。

※低酸素換気療法はPaO2を低く保つために行われます。PaO2を連続モニタリングすることも可能ですが、SpO2で管理することが多いです。

SpO2の管理方法ですが、
肺体血流比に関する考えが重要になってきます。
混合静脈血(大動脈を流れるシャント後)=70%
肺静脈血(酸素化されたフレッシュな血液)=100%
とします。
我々、健常人の心臓は肺体血流比は1:1ですから肺血流増加型心疾患の患者さんでも同じ比率にしたいところです。
そのため、計算式にすると

(70+100)/2=85%

になります。

一方、肺血流が体血流の2倍となる場合、

(1×70+2×100)/3=90%

となるので目標とするSpO2より高くなってしまいます。
そのため、吸入気酸素濃度を低くして攣縮を促し、肺血管抵抗を上昇させ肺体血流比を1:1(SpO2が85%)になるように管理します。
※単身室系と二心室系で管理は異なります。循環動態が保たれていれば高いSpO2での管理をすることもあります。

(治療効果)

治療効果の評価は、
・尿量の増加
・乳酸値の低下
・BEの上昇
・pHの改善                    などです。

肺血流減少、体血流増加に伴った治療効果があげられます。

最後に

低酸素換気療法は、低酸素性肺血管攣縮を利用して肺血流抵抗を増加させ肺血流を減少させることで心負荷の軽減体血流の維持を目的とした治療になります。
そのため、児の循環動態に関して把握していることが管理や治療を行う上で重要になってくるかと思います。
保険適応(最近適応になった?)に関してや長期的な各種予後に関してなど、まだまだ課題は多いようですがその子にとって1番いい治療になるよう、術前管理として低酸素換気療法が安全に行えることが1番だと考えます。

最後まで読んでいただきありがとうございました🙇

(参考)
・ステップアップ新生児循環管理:メディカ出版
・小児体外循環ハンドブック:東京医学社
・周産期医学vol.49 No.4:東京医学社
・低酸素濃度ガス吸入療法のてびき

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