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新制度・特定操縦免許講習(移行)について

2024年4月より小型船舶の特定操縦の新制度が始まったものの、7月になってもまだ講習機関が少なく、レビューやブログなどによる情報がなくこまったため、ここに私が受けた特定操縦免許移行講習の体験をメモとして残しておきます。7月時点で見た時は、関東ではまだ移行講習を実施している所が無かったため、はるばる大阪の教習所まで教習と試験を受けに行ってきました。

特定操縦免許の制度

特定操縦免許制度とは?

特定操縦免許とは、小型船舶操縦免許(小型船舶操縦士)の免許において、旅客を乗せて船を操縦する際に必要となる、自動車でいうところの「第二種免許」に相当するものです。遊漁船や旅客船の船長として乗り込む場合には必要となる資格で、一級や二級などの操縦資格とは別に取得する必要があります。

新制度とは?今までと何が違うの?

今までも、小型船舶操縦士が旅客を乗せて釣り船をしたり旅客船を操縦するのにも資格が必要でした。これまでは「小型旅客安全講習」と呼ばれていたもので、一日の学科・救命講習を受ければ、実技審査や試験なしで取得が可能だったものです。
しかしながら、例の北海道の遊覧船「カズワン」の大事故を受けて、国土交通省を始め関係機関が本格的に旅客船を始めとした船の運航業務の安全の見直しに力を入れ、その結果、旅客船や遊漁船など「不特定多数のお客さんを乗せて運航する船の操縦」について、新たな制度で資格を見直した物がこの新制度です。呼び方も「小型旅客安全講習」から「特定操縦免許講習」になり、学科の内容が大幅に増やされた上に、実技の講習も必須、さらに学科/実技ともに試験に合格しないと特定操縦免許は受けられません。一級や二級の試験と同様、修了試験に落ちた場合には再受験が必要です。
免許証に表示される名前が以前から「特定」だったためにわかりにくいですが、以前の「小型旅客安全講習」とはかなり変わっています。

既存の「特定」資格者はどうなるの?

一般的にこの手の制度変更では、既存の資格取得者の権利が奪われないよう、既存の資格取得者はそのまま新制度でも新しい資格を持った物とみなさるのが通例です。例えば自動車の運転免許では、普通自動車運転免許における運転可能車両の範囲が見直しで縮小され「中型」の制度ができた時も、制度変更前に普通自動車の運転免許を取得していた人は、旧制度での普通自動車免許で運転できた8tまでは引き続きそのまま運転でき、試験や講習を受けず自動的に「中型:8t限定」免許となりました。
小型船舶免許においても、新たに「特殊(水上オートバイ)」や「特定(旅客安全講習)」ができたときも旧制度ですでに小型船舶免許を取っていた人は新たに取得する必要なく、自動的に特殊と特定が付与されたと思います。
しかしながら、今回の小型船舶の「特定」(特定操縦免許)の件ではそういった対応を取られず、旧制度の資格者における軽減策は「2年間の猶予」のみであり、移行講習を受けない限りは新制度から2年経つと自動的に資格が消滅し、旅客を乗せた船舶の操縦ができなくなります。(※正確には停止されるだけで、移行講習を修了すればいつでも復帰できます)
このような不利益変更は通常許される物ではありませんが、それだけカズワンの事故のダメージが大きかったという事なのでしょう。残念ながら、既存の「特定」を持っていた人は、移行講習を受けて新制度の「特定」に移行するか、このまま放置しあと2年だけ特定資格を保持して捨てるかどちらかを選ぶしかありません。

旧制度の「特定」所持者と新規取得者の違い

今まで旧制度の「特定」を持っていなかった人などが新規で新制度の「特定」をとる場合と、今まで旧制度の「特定」を持っていて今度の移行講習で新制度の「特定」に移行する場合、座学における教習の違いは「救命講習の有無」だけです。旧制度の「特定」保持者は、救命講習は受講済みとして扱われるため、通常の「学科教習」と「実技教習」だけ受けて修了審査に合格すれば資格を得られます。つまり、救命講習の分1日だけ講習が短くなります。これが「移行講習」と言われるものです。学科自体は新規でも移行でも同じ物を学び、同じ修了試験を受けます。新規取得組のみが、別日程で救命講習を受ける必要があります。
さらに、旧制度の「特定」を持ち小型旅客船・遊漁船の船長として3ヶ月以上の乗船履歴があり、その乗船履歴の証明が提出できる人は、実技教習はそのものが免除になるため、学科教習と学科の修了試験だけで移行でき、無事合格するなら、実質一日で移行が完了します。

受講内容

学科教習と学科試験の内容

学科教習は、大まかに言えば2級小型船舶免許の教習/試験の内容と難易度です。荒天航海や海図の話も出ますが、1級のように海図から位置を割り出したり時間を計算したり航海計画を確認したりするような物はありません。私が教習を受けた所は「特定操縦免許講習 学科教本」という教本を使い学科教習が行われました。ポイントも説明してくれるので、まともにきいていれば困ることはないと思います。言い換えると車でいうところ二種免許的な「お客さんを乗せるからこそ」の内容や、カズワンの事故を受けたからこその「安全に重点を置いたもの」だらけになっているわけではなく、単に2級の学び直しといった感じで、ある意味拍子抜けしました。
学科試験もそのまま2級の小型船舶の問題をおさらいするような試験で、避航操作などの法規を中心に多岐選択式です。マークシートではなく番号を回答欄に記入する方法でした。1級のように海図を扱う試験もありません。計算問題はありましたが私の時は「A地点からB地点までは25knot、B地点からC地点までは12knotで移動した。A地点からC地点までの平均速度は次のうちどれか」といった小学生レベルの計算問題だったので、正直対策すら必要なかったかなと…。
気象の問題もありましたが、私の時は気象図を読み解いて予報をあてるなどのものはなく「次の中から霧をあらわす記号を選べ」といった簡単な問題でした。他にも海風/陸風といった基本的な物が多く、2級や1級をとったばかりなら、それほど苦労せず試験は受かると思います。「車でいうところの二種免許だから」という1級や2級では見ない問題は正直見当たらなかったです…。
1級や2級の時は、合格するためには教習以外に自分で家で復習したり参考書で勉強したり過去問をやったりする事もあったかと思いますが、特定操縦免許ではあまりそういう想定はないようです。

実技教習と実技試験の内容

実技教習も基礎のおさらいです。特に難しいことはなく、むしろ1級や2級の実技教習をシンプルにしたものと考えればいいと思います。
発航前点検は1級や2級の時のように「発航前点検項目を全て自分で覚えてチェックリスト通りに漏れなく正確に完全に終らせる」ではなく「燃料フィルタを確認してください」「船検証を確認してください」といった形で個別に確認事項を3つほど言われ、それを単にやれば良いだけなので「何を確認しなければいけないのか」を覚える必要が無く、その確認をするには「どう確認すれば良いか」さえわかっていればいいので簡単です。全て教習で教わりますし、試験では同様にすれば良いだけです。
ロープワークは教習・試験ともにありません。しいていえば係船と解纜はしないといけないので、係船時にクリート留めができないと困ります。私のような完全ペーパー船長はクリート留めだけおさらいしておくといいでしょう。それ以外のロープワークは話題にすらならないので、できなくても大丈夫です。
操船はコースに沿った課題をクリアしていくとか、連続進路転換(スラローム的なの)のようなものはありません。指示された方向に向かって操船し、ある程度沖に出た所で試験が行われます。具体的な指示があるような通常の操船操作自体の試験はなく、解纜/離岸からこの「試験をする場所までの移動の操船」が試験になっている程度かもしれません。
なお、1級や2級の時と同様、エンジン始動前に「船尾周りヨシ!」始動後は振動など異常なし!右に曲がる時は「右ヨシ!右後方ヨシ!」減速や停船する時は「後方ヨシ!」などの安全確認の喚呼は必須です。試験でそれを忘れると「安全確認忘れ」として減点されます…が1級や2級の時ほどしっかりは言われませんでした。
今年初めに受けた一等無人航空機操縦士試験の安全確認チェックよりかなり甘かった印象です。

その他、今までの実技教習と主に違うのは次の二点。
人命救助: ブイの回収ではなく、救命胴衣をつけた重いダミー人形を引き上げます。また「ウイリアムソンターン」をやり、人命救助はシングルターンとウイルアムソンターンの両方で練習します。ただし試験ではウイルアムソンターンの試験はなく、人命救助は通常のシングルターンで向かえばいいので、ウイルアムソンターンはスキルのプラスとして身に付けておくと良いという感じです。救助に向かう前に「○舷から救助に向かいます」「救助準備ヨシ!」(ボートフックの確認)喚呼を忘れずに。
避航操作:全般をやった1級や2級と違いなぜか「右から船が来た場合」「左から帆船」「正面」のみ。左から動力船が来る「進路速力保持」がない…。試験も同じでした。
安全配慮:「特定操縦=お客さんを乗せる免許」なので、操船については急な操作をしないように言われます。お客さんを乗せてるつもりで、ゆっくり加速/減速や左右旋回などをする。また安全確認以外にも「止ります」「右に回ります」などこれから船がどう動くかお客さんへの「声かけ」が求められます。これらが試験ではどう採点に影響するのか分かりませんが、忘れずに…。

これらが終ると戻って着岸です。私の時は、1艇につき受講生2名乗船で交代で試験をしました。試験の時は、スタート時に離岸を担当しなかった人は一度着岸してから離岸のテストを受けます。着岸は離れていてもボートフックで寄せれば良いので、とにかくぶつけないように気をつけてすればOKのようです。ぶつけるとマリーナの設備(クッションなど)やお船が損傷する可能性があるため「試験では離れすぎくらいが丁度良い」と言われます。言い換えると、もしぶつけたら多分容赦なく大幅減点されるのかな…という感じでした。
余談ですが、私が1級を取った時の東京の教習/試験会場は海からかなり入った川みたいな桟橋で水面が穏やかだったため、着岸はとても簡単でした。今回受けた関西の南港(?)の教習会場は割と海が近いのか波が立っていて船が流されやすくハードルが上がっていました。沖合ではかなり揺れるので船酔いする人は困るかもしれません。
着岸して機関停止したらロープを持って飛び降り、お船を正しい側のロープから順に係留して「係船ヨシ!」と確認したら終わりです。合否発表は後日だそうで、この時は言われませんでした。


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